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くらげ

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そうだ名古屋に行こう4

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助けてほしいのに鈴村さんは新幹線に乗ってからずっと窓の外を見てる。
話しかけられる雰囲気じゃない。
そういえば、朝からいつもと違う感じがした。
僕は家出からのホテルのスイートルームっていう非日常で麻痺してたけど。
鈴村さんにはあのスイートルームは日常の延長線っぽいのに。

口数が少ない。
何処に行くとか何をするとか。
最低限の説明以外、何もない。

鈴村さんもヤクザと相席の新幹線は緊張するのかな。
花見会では誰よりも自由に寛いでるように見えたけど?

マジでお腹が痛いのが辛くなってきた。
トイレ行って、そのまま京都まで自由席に行ってても許されるかな。
席が空いてなかったらこの際デッキに立ってる。
この全方位ヤクザのなかで座ってるよりデッキに立ってる方がマシだよ。

「鈴村さん、僕ちょっと御手洗に行ってきます」
「そうかい。気をつけてね」

気をつけるって何をですか?
もしかして、この新幹線の中の乗客が全員ヤクザなんてことないですよね?
それはもはやホラーだ。

真っ直ぐ前だけを見て。
寅や龍と目が合ったら怖いから。自動ドアの上の電光掲示板に流れる文字だけを見て。
車両の後ろ側にあるトイレまで、僕は誰とも目を合わせないぞ。

あと一歩でドアが開くというところで。先にドアが開いて向こうから人がやってきた。

デッキから車内に入ろうとしていたのは。
ぶ厚い体に藍色のビジネススーツ姿のサラリーマン。
何を考えてるかさっぱり分からない無表情。
見慣れたポーカーフェイスの君は。
大学時代の友達。尾壁輝也くん。

「壁やん! ひっさしぶり! 冬に飲んで以来だよね? 元気にしてた? なになに? 出張?」

強い緊張状態から見知った顔が突然現れたから。
僕はうっかり考え無しに目の前の旧友に声をかけた。
柔道で鍛えた筋肉で厚い胸元とかばんばん叩いちゃう。
今朝の占い超当たるじゃん。

だけど見上げるほど背が高い壁やんのポーカーフェイスが崩れて、眉毛がほんの少し上がったんだ。
海で逆ナンされても、日本一怖いっていうお化け屋敷に入っても、お酒をどれだけ飲んでも変わらない壁やんの眉毛が驚いてますっていうように動いたから。

僕は自分の背中の向こう側が今どんな状況か思い出して。
壁みたいに立ちすくんでる壁やんをデッキまで押し出した。
振り返って車内に繋がる自動ドアが閉まるのを確認する。
きちんと閉まるのを見届けてから壁やんに謝った。

「ごめん壁やん。変なとこで声をかけちゃった。なんか新幹線のチケットを取ったらヤクザっぽい人がたくさんのとこにまぎれちゃってさ。めっちゃビビるよね」

僕も怖かったんだよ!
仲間だね。 

「佐倉だよ。佐倉唯。覚えてない?」

もしかして。僕忘れられてる?
一緒に卒業旅行に行った仲じゃん。
今年になってからも飲みにも行ってる。

「さっくん」

そうそう。そのさっくんだよ。
懐かしい呼び名で呼ばれて。僕はめちゃくちゃ喜んだ。

唯でも佐倉でもなくて“さっくん”だった時代の記憶がよみがえる。
壁やんは同じ専攻、同じサークル所属っていう縁があって仲良くしてくれた友達。
彼は僕と違って、すっごく頭が良くて。
僕は試験の前になると壁やんに泣きついて、壁やんのアパートの部屋で勉強合宿をしてもらった。
その節は大変お世話になりました。
卒業後はコンサルの会社に就職して、今は博多の太陽光パネルを扱う会社に出向してるんだっけ。

推薦で入学した僕は学力が伴っていなかったから。
サークルの先輩から要領の良さを学んでも、講義についていくのがやっと。
その結果、僕は就活に失敗した。
サークルの他の友達はお祈りメールが続く僕を腫れ物に触るみたいにしてきて。
なんとなく、疎遠になったけど。
それでも壁やんは変わらずに僕と一緒にいてくれた。

ところで名前を呼んでくれたのは嬉しいけど、そのあと何も話してくれないのはなんで?
無言で見下ろされると、つられて見上げちゃう。

「おい、尾壁。そんなとこおったら邪魔だろうが。突っ立ってないで席戻れ」

うっかりデッキで壁やんと見つめあっていたら。
ヤクザだらけの車両から人が出てきて壁やんに声を掛けてきたんだ。

シルバーフレームの眼鏡のあなたは花見会のとき一緒に数字ゲームをした食通フルーツタルトさん!
あの手作りフルーツタルトは美味しかったから間違えることない。
なんで? ヤクザなフルーツタルトさんと壁やんが?

フルーツタルトさんに言われて座席に戻る壁やん。
おいてかないでよ。心細いじゃん。
ってか、なんで言うこと聞いてるの?
フルーツタルトさんは壁やんにとってなんなの?

「お前もさっさと小便済ませて戻ってこいや」

あっ。僕も座席に戻らなきゃいけないんですね。

いやだなー。怖いなー。
って普段よりずっと時間かけてトイレ済ませたら。
フルーツタルトさんはデッキでずっと待ってたみたいで。
違うな。僕のこと監視してたのか?

「名古屋までまだ1時間近くあるからな。逃げようとか考えるなよ」

自由席でのんびり過ごす作戦は失敗です。
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