恋愛サティスファクション

くらげ

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そうだ名古屋に行こう12

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「もう圭君と連絡が取れたのか。早いね。君は案外馬鹿ではないようだ」

急に声をかけられて。
慌てて振り向けば鈴村さん!
音もなく背後に立つのは忍者ですか!?
 
ご用事は? もう帰って来ちゃったの?
あっ! 電話してるのバレちゃった。怒られる!
スマホを取り上げられるかもって身構えたけど、そんなことはなさそう。

「ちょっと失礼」

鈴村さんが僕の手の中のiPhoneの画面をタッチしてスピーカーでの通話に切り替える。
圭介さんと話したいことあるの?

「それにしても白々しいね。昨夜のうちにサクラは私が保護したことも、名古屋に来ていることも、君のお父上からたくさんの贈り物を頂戴したことも。知っていて何故サクラに問うのかな?」
「鈴さんやめて。俺すごい心配してて」
「うん。心配で居ても立っても居られなくて名古屋に来ているよね。今は市内のどこにいるのかな?」

圭介さん名古屋にいるの?
じゃあもうすぐ会えるね。
でも鈴村さんやお義父さんが会うの邪魔してる感じ?
それは困るなあ。意地悪をしないでほしい。

「通り挟んだ向かいのホテル」
「さすがの君もヤクザの肉の壁は攻略できなかったみたいだ」
「武闘派50人はオーバースペックでしょー

「負け惜しみかい? 君の構築した人脈、情報網は素晴らしいよ。でも物理が弱いと教えてあげたじゃないか。最後にものを言うのは拳の強さ、イリーガルを恐れない忠誠だよ」
「昭和の老害が」
「その老害に手も足も出ず。大切なお姫様が攫われたのを指をくわえて眺めてるだけの無力な坊やは誰だい?」

スマホの向こうで大きな物音。
何かを蹴った? 投げた?
まるで癇癪を起こして暴れているような。
でも、圭介さんがそんなことするなんてありえない。

「物に当たるのはやめなさい。玲司もいるのだろう? 圭君を止めるのも君の仕事だ」
「もうやってるよ!」

玲司君もいたんだ。
そして、圭介さんが暴れているのは確定っぽい。
すごく意外。

「玲司君、お疲れ様。今日仕事じゃなかった?」

今日は土曜日だけど会社のカレンダーだと出勤日だよね?
リモートワーク? ノー残業デー?
さっきオフィスに電話もしたんだよ。
時間外で意味なかったけど。

「季節外れのインフルで休んだ」
「それ仮病じゃん」
「仕方ねぇだろ。佐倉は居なくなるわ、圭はキレて暴れるわ。佐倉を探すためだってヨソのシマにガサ入れしようとすんの止めたのオレだぜ。むしろ労え!」
「なんかごめん」

そっちはそっちで大変だったみたいだね。
他所のシマってどこか分からないけど、とにかく圭介さんの暴走を止めてくれてありがとう。

「サクラが謝る必要は無いだろう。元はと言えば愛の巣に無粋なカメラを仕掛けていたのが悪い」

そういえばそんなこともあったけど。

「カメラのことは別に。気持ち悪いからカメラの撤去とデータの削除はしてもらうけど」
「それだけでいいのかい?盗撮は犯罪だよ」
「だってあれ多分圭介さんの趣味ですよ。趣味ならしょうがないです。黙ってやってたことは怒るけど、反省して謝ってくれたら。それで終わりです」

呆れたって顔で見ないでくださいよ。
僕だって惚れた弱みがあるんです。
多少の変態行為は許容範囲です。

「それならさっさと帰ってこりゃいいだろ。何逃げ回って名古屋まで来てんだよ!」
「たしかに最初はびっくりして逃げたけど。すぐに帰ろうとしたもん。でも帰り道が分かんなくなっちゃって。そしたら親切なNPOの人に保護されちゃって。何故か鈴村さんが恋愛の相談員として来て」

名古屋に来たのは流されるに流された僕の弱い意志が原因だけど。
ちゃんと帰りたいって意思表示はしてる。
無一文の心細さやヤクザの肉の壁に負けてばかりだけど。
主張するとこは主張させてもらいました。

「僕だって帰りたい!」
「おっし。任せろ。いま迎えに行ってやるから」

ありがとう。玲司君。僕は身一つで今すぐ帰れるから。
早くむかえにきてね。
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