恋愛サティスファクション

いちむら

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ウサギは檻に入れられて1

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花見会の日から僕の生活は一変した。
まず大きな変化は引っ越しかな。
起きたら知らない部屋っていうのは酔っぱらった翌日の定番だったけど。

お酒に酔って起きたら引っ越し完了とか。
圭介さんは魔法使いかもしれない。
玲司君は「金持ちの魔法だ」って言ってた。
うーん。夢がない。

新しい家はタワーマンションの上の方。
詳しく知らないのは僕が自由に外に出られないから。
窓から外を見た感じ、地上から遠く離れたマンションの一室ってことは分かる。
ときどき窓の外を大きな鳥が飛んでいくぐらいに高い。
別に監禁されてるわけじゃないんだ。
ただ、環境の変化に伴うアレコレが落ち着くまでは安全のために家にいた方が良いって。

そう。引っ越し以外にも変化が。
圭介さんが転職して、僕は無職になった。

これまでは圭介さんのことを良く思わない人がいて。
その人達から悪く言われないよう公務員になっていた。
兄弟にヤクザがいるだけで悪く言われることがあるなんて、にわかには信じられなかったけど。
世間ははそんなものらしい。僕が知らないだけ。

何やったって文句言われるなら、身動きしやすい自分の庭でってことで圭介さんは起業した。
少し古い言葉で言うところの脱サラってやつだ。
圭介さんは不動産を取り扱う会社の取締役社長になっちゃった。
ちなみに成瀬さんが社長秘書。
僕がもっと勉強ができたら圭介さんの仕事を手伝えたのかなって少し寂しい。
僕、簿記2級なら持ってるんだけど経理で雇ってもらえないかな。

僕が無職になったのも圭介さんが転職したのと理由はだいたい一緒。
圭介さんの恋人が働いている携帯ショップはどんな嫌がらせを受けるか分かったもんじゃないから。
ショップに迷惑をかける前に辞めた。

退職の手続きは全部弁護士さんがやってくれて。
僕は病気で働けなくなったという設定らしい。
ショップやエリアマネージャーに迷惑かけるよりはマシだけど。
自分で会ってお礼を伝えて辞められたら、もっと良かったのに。

こうして。無職の僕は圭介さんの用意してくれたマンションの一室に引きこもり中。

ワンフロア占有の部屋は広いし。
高層だから安全のために窓は開かないしベランダもないけど、日当たりの良いサンルームはある。
運動不足にならないように僕専用のホームジムまで用意されていたから。
これ以上ワガママは言えないんだけど。

引っ越した当初は広い部屋に僕1人だけで。
すぐに圭介さんと玲司君が一緒に住むようになったけど。
からっぽの家でひとりぼっちで過ごすのはとても寂しかった。

いつの間にかiPhoneも新しくなっていて。
空っぽの電話帳を見たときは、ほの暗い気持ちにもなった。
これは圭介さんの家族について知った結果だからと受け入れたんだけど。
これまでの友達が全部消えたのはちょっとショックが強い。

TVで紹介されてた食べたいものは圭介さんや玲司君がテイクアウトしてきてくれても。
出来立てを食べられるわけじゃない。
それなのにご機嫌とりみたいにスイーツばっかり届く。
花見会で僕は甘いものが好きな人間だと認知されたらしい。

落ち込んでいたら圭介さんと玲司君が交互に外へ連れ出してくれるようになった。
基本的に出かけるのは夜で行先もレストランやクラブなどに限られるけど。
圭介さんか玲司君のどちらかの仕事が休みなら、朝からお出掛けできる日もある。
そうやって2人が僕を気遣ってくれるから、僕は少し不自由な生活にも耐えられた。

外に出掛けるときは安全のために女の子なウサギモードになる約束は花見会が終わっても継続中。
圭介さんとのお出掛けはロリータ。
玲司君とはセクシーギャル。
皆でお出掛けのときはその時の僕の気分で。姫ロリ率が高めなのは気のせいだよ。

そこまでしてもGWにチケットを用意していた映画フェスには行けなくて。
僕の代わりに見ていってくれた玲司君は美大生のTôru監督作品を「嫌いじゃない」だって。
作品自体はYouTubeに投稿してくれていたので、おうちのホームシアターで見ることが出来たのは本当に良かった。 
イイネを1万回押したくなる作品。

ストーリーは迷子のウサギが森のいろいろな動物達に助けられてお母さんのもとに帰る話。
途中で意地悪な狼に追われるシーンでは効果的に実写とアニメーションが切り替えられて。
彼のこういうセンスが好きなんだ。
僕もシアターの大きなスクリーンで見たかったな。

そんな少しだけ息苦しい生活だけど。
夜になれば大好きな圭介さんと玲司君が毎日一緒にいてくれるから平気。

一緒に夕御飯を食べて。
一緒にお風呂に入って。
一緒に眠る。

どれだけ二人の仕事が忙しくても、僕は独りで眠ることはない。
絶対にどちらかは帰ってきてくれるから。
僕は待つことしか出来ないけど。
待っていれば帰ってきてくれるなら。
僕は圭介さんと玲司君が帰る場所として存在してるだけで良いんだ。
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