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恋愛サティスファクション
百花繚乱4
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玲司君の腰のベルトに手をかけ、ハサミでちょん切った。
ほら、早く脱げ。そして切らせろ。
怒りで視界が赤く染まる。
そこに成瀬さんが……。
「サクラさーん、お肉焼けたんでハサミ貸してくださーい」
いつもの朗らかな声で話しかけてきた。
声がする方をみれば、七輪で焼肉中。
油の焦げる美味しそうな匂いに、ぐぅ~っとお腹が鳴った。
『お肉を焼いてたんですか? でもこのハサミはなんかバッチイ気がするから。使わない方が良いですよ』
ハサミは他のを借りてもらおう。
使えないハサミは玲司君の太ももの近くにポイってしちゃう。
刃が赤い布を敷いた台に突き刺さったけど、まあいっか。
それより、お肉だよ。お肉。
「サクラさん、お腹すきませんか? ハラミとタンが食べ頃ですよ」
『めっちゃ、お腹すいてます』
お肉を焼いている成瀬さんの隣に座らせてもらおう。
甘い脂の香りが食欲を誘う。
お肉を一口食べたら、余計にお腹すいてきちゃった。
「手まり寿司、1箱キープしておきました」
『それ食べたかったやつだ』
淡い水色の包み紙をはがす。
蓋を開ければ色とりどりのお寿司がまるで花畑のように並んでいる。
「振り袖だと帯が苦しくて食べられないって。だから着替えたら食べられるように残しておきました」
『成瀬さん気が利く。さいこー』
お醤油の小皿も用意してくれて。
至れり尽くせり。
大好きなサーモンから、いただきまーす。
旨味が凝縮された昆布締めの鯛。甘くとろける車海老。コリコリの歯ごたえが食にリズムを奏でるタコ。
このお寿司の箱には美味しいしか詰まっていない。素晴らしいっ。
あっという間に食べちゃった。
これは2箱いけたな。
「食後のデザートにはフルーツタルトもありますよ」
『宮野組の食通さん推薦のフルーツタルト!』
「俺も食べたけど、すっごい美味しかったです」
そんなに美味しいなら、さっそくいただきます。
サクサクのタルト生地とコクのあるアーモンドクリームを焼き上げたうえに、濃厚なカスタードクリームを敷き詰め、艶々のフルーツを飾り付ける。
最高のバランスで本当に美味しい。
どこのお店のなんだろう。
こんなに美味しいなら、きっと有名店のものに違いない。
「これお店のじゃなくて手作りらしいです」
『なんと!? お店が開けるよ。すっごく美味しい。お誕生日のケーキとか頼みたいぐらい』
「きっとサクラさんが頼んだら作ってくれますよ」
『それはちょっと図々しいんじゃない? 来年の花見会でも食べられたらラッキーぐらいに思っておくよ』
来年もお花見に誘ってもらえるかは未定だけどね。
「蟹しゃぶもありますよ。今朝、新潟港で獲れたばかりの新鮮な蟹だから生でもいけるやつです」
うわーい。僕蟹大好き。
あれ? 新潟の蟹って冬がシーズンじゃないっけ?
禁漁期間とかあるんじゃないの?
まあいっか。美味しいし。
「お茶は中国茶にしてみました。胃腸の働きを助けるからたくさん食べるのに最適かと」
『綺麗。ガラスの器の中で花が咲いてるみたい。香りも良いし。味もさっぱりしてる。成瀬さん、ナイスセレクト』
美味しいものをひとりで食べてるのも味気ないな。
玲司君もお肉を焼いて食べよ。
これとかちょうど焼けてるよ。
圭介さんも。蟹をしゃぶしゃぶしてあげる。
あとね、たくさんもらったお菓子のなかに圭介さん向けなのもあったんだ。
大人味なの。それも食べよ。
遠くから僕を見ているふたりを呼ぶ。
そんな離れていないでそばに来てよ。
恐る恐る近づいてきた玲司君に焼きたてのロースをあーんしてあげる。
美味しい? もっと食べる? ホルモンも焼く?
「唯の機嫌が直ったー。成瀬ーありがとー」
玲司君と仲良くお肉を焼いて食べていたら、圭介さんが成瀬さんを褒めちぎっていた。
怒っていた僕の気持ちをうまく切り替えた手腕が素晴らしいと称賛されてる。
確かにさっきの僕は怒り過ぎていたけれど。
「さすが伝説のホストだな。空気を読むのがウマイ」
玲司君も成瀬さんを褒めてる。
って、成瀬さんはホストだったの?
ちょっと意外かも。
「昔の話ですよ。学生時代にバイトしてただけです。玲司さんが言うみたいな伝説とかじゃないんで」
「成瀬はバイトなのに、へたな専業より指名取れてた凄い奴なんだよ。バースデーイベントには店の前がフラワースタンドであふれてさー」
「べつにマニュアル通りの接客ですよ。たまたま太客ついただけで。花もみんなもらうものですから」
溢れんばかりのお花でお祝いされるお誕生日。すてきー。
成瀬さんって細かい気配りとか上手で、欲しいものをさっと出してくれるもんね。
貢いでしまう女の子の気持ちが分からなくもない。
今だって、僕が食べたかったTボーンステーキを小さめの一口サイズに切り分けてくれてるし。
普段ならサーブしてもらわなくても自分で食べられるけど。
女の子モードの今は小さく切ってもらえた方が食べやすい。
いつの間にか鈴村さんもそばに来てカニ雑炊を食べてるし。
それ美味しそう。僕にもちょうだい。
はあ。お腹いっぱい。お肉もお寿司も蟹も調子にのって食べ過ぎたら眠たくなってきた。
玲司君、その革ジャン着ないなら貸して。
圭介さん、胡座かいてないで足伸ばして。
圭介さんの膝枕で寝転んで、玲司君の上着を借りて毛布代わりにしちゃうとか。超贅沢。
「ありがとねー。成瀬には金一封包む。おまけも付ける」
「佐倉怒ると怖いんだな。マジで目が据わってたぞ。あれ本気で切る気だっただろ」
「空腹で酒だけ入れたら悪酔いしますって。サクラさんは振り袖だからお腹すいてるのに食べられないって我慢してたのに」
「腹ペコサクラにご用心だな」
もう、皆うるさい。
あんまり騒ぐなら口を縫い付けちゃうよ。
お腹すいてたらイライラしちゃうのも仕方がないでしょ。
僕悪くないもん。
第1章・恋愛サティスファクション 完
ほら、早く脱げ。そして切らせろ。
怒りで視界が赤く染まる。
そこに成瀬さんが……。
「サクラさーん、お肉焼けたんでハサミ貸してくださーい」
いつもの朗らかな声で話しかけてきた。
声がする方をみれば、七輪で焼肉中。
油の焦げる美味しそうな匂いに、ぐぅ~っとお腹が鳴った。
『お肉を焼いてたんですか? でもこのハサミはなんかバッチイ気がするから。使わない方が良いですよ』
ハサミは他のを借りてもらおう。
使えないハサミは玲司君の太ももの近くにポイってしちゃう。
刃が赤い布を敷いた台に突き刺さったけど、まあいっか。
それより、お肉だよ。お肉。
「サクラさん、お腹すきませんか? ハラミとタンが食べ頃ですよ」
『めっちゃ、お腹すいてます』
お肉を焼いている成瀬さんの隣に座らせてもらおう。
甘い脂の香りが食欲を誘う。
お肉を一口食べたら、余計にお腹すいてきちゃった。
「手まり寿司、1箱キープしておきました」
『それ食べたかったやつだ』
淡い水色の包み紙をはがす。
蓋を開ければ色とりどりのお寿司がまるで花畑のように並んでいる。
「振り袖だと帯が苦しくて食べられないって。だから着替えたら食べられるように残しておきました」
『成瀬さん気が利く。さいこー』
お醤油の小皿も用意してくれて。
至れり尽くせり。
大好きなサーモンから、いただきまーす。
旨味が凝縮された昆布締めの鯛。甘くとろける車海老。コリコリの歯ごたえが食にリズムを奏でるタコ。
このお寿司の箱には美味しいしか詰まっていない。素晴らしいっ。
あっという間に食べちゃった。
これは2箱いけたな。
「食後のデザートにはフルーツタルトもありますよ」
『宮野組の食通さん推薦のフルーツタルト!』
「俺も食べたけど、すっごい美味しかったです」
そんなに美味しいなら、さっそくいただきます。
サクサクのタルト生地とコクのあるアーモンドクリームを焼き上げたうえに、濃厚なカスタードクリームを敷き詰め、艶々のフルーツを飾り付ける。
最高のバランスで本当に美味しい。
どこのお店のなんだろう。
こんなに美味しいなら、きっと有名店のものに違いない。
「これお店のじゃなくて手作りらしいです」
『なんと!? お店が開けるよ。すっごく美味しい。お誕生日のケーキとか頼みたいぐらい』
「きっとサクラさんが頼んだら作ってくれますよ」
『それはちょっと図々しいんじゃない? 来年の花見会でも食べられたらラッキーぐらいに思っておくよ』
来年もお花見に誘ってもらえるかは未定だけどね。
「蟹しゃぶもありますよ。今朝、新潟港で獲れたばかりの新鮮な蟹だから生でもいけるやつです」
うわーい。僕蟹大好き。
あれ? 新潟の蟹って冬がシーズンじゃないっけ?
禁漁期間とかあるんじゃないの?
まあいっか。美味しいし。
「お茶は中国茶にしてみました。胃腸の働きを助けるからたくさん食べるのに最適かと」
『綺麗。ガラスの器の中で花が咲いてるみたい。香りも良いし。味もさっぱりしてる。成瀬さん、ナイスセレクト』
美味しいものをひとりで食べてるのも味気ないな。
玲司君もお肉を焼いて食べよ。
これとかちょうど焼けてるよ。
圭介さんも。蟹をしゃぶしゃぶしてあげる。
あとね、たくさんもらったお菓子のなかに圭介さん向けなのもあったんだ。
大人味なの。それも食べよ。
遠くから僕を見ているふたりを呼ぶ。
そんな離れていないでそばに来てよ。
恐る恐る近づいてきた玲司君に焼きたてのロースをあーんしてあげる。
美味しい? もっと食べる? ホルモンも焼く?
「唯の機嫌が直ったー。成瀬ーありがとー」
玲司君と仲良くお肉を焼いて食べていたら、圭介さんが成瀬さんを褒めちぎっていた。
怒っていた僕の気持ちをうまく切り替えた手腕が素晴らしいと称賛されてる。
確かにさっきの僕は怒り過ぎていたけれど。
「さすが伝説のホストだな。空気を読むのがウマイ」
玲司君も成瀬さんを褒めてる。
って、成瀬さんはホストだったの?
ちょっと意外かも。
「昔の話ですよ。学生時代にバイトしてただけです。玲司さんが言うみたいな伝説とかじゃないんで」
「成瀬はバイトなのに、へたな専業より指名取れてた凄い奴なんだよ。バースデーイベントには店の前がフラワースタンドであふれてさー」
「べつにマニュアル通りの接客ですよ。たまたま太客ついただけで。花もみんなもらうものですから」
溢れんばかりのお花でお祝いされるお誕生日。すてきー。
成瀬さんって細かい気配りとか上手で、欲しいものをさっと出してくれるもんね。
貢いでしまう女の子の気持ちが分からなくもない。
今だって、僕が食べたかったTボーンステーキを小さめの一口サイズに切り分けてくれてるし。
普段ならサーブしてもらわなくても自分で食べられるけど。
女の子モードの今は小さく切ってもらえた方が食べやすい。
いつの間にか鈴村さんもそばに来てカニ雑炊を食べてるし。
それ美味しそう。僕にもちょうだい。
はあ。お腹いっぱい。お肉もお寿司も蟹も調子にのって食べ過ぎたら眠たくなってきた。
玲司君、その革ジャン着ないなら貸して。
圭介さん、胡座かいてないで足伸ばして。
圭介さんの膝枕で寝転んで、玲司君の上着を借りて毛布代わりにしちゃうとか。超贅沢。
「ありがとねー。成瀬には金一封包む。おまけも付ける」
「佐倉怒ると怖いんだな。マジで目が据わってたぞ。あれ本気で切る気だっただろ」
「空腹で酒だけ入れたら悪酔いしますって。サクラさんは振り袖だからお腹すいてるのに食べられないって我慢してたのに」
「腹ペコサクラにご用心だな」
もう、皆うるさい。
あんまり騒ぐなら口を縫い付けちゃうよ。
お腹すいてたらイライラしちゃうのも仕方がないでしょ。
僕悪くないもん。
第1章・恋愛サティスファクション 完
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