恋愛サティスファクション

いちむら

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恋愛サティスファクション

すれ違い三叉路6

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結局。優柔不断な僕は何も選べなかった。
圭介さんと育む未来も。
玲司君と描く未来も。

圭介さんとの関係もそのまま。
玲司君と友達として付き合っていくことに。
良いとこ取りする僕は、それで2人から嫌われても仕方がないかなって。

僕は自分で決めることから逃げたけど、ひとつだけ逃げちゃいけないことが。
圭介さんに伝えるのは自分でしなきゃいけない。
散々気を回して、仕事で疲れてるときに迷惑かけちゃいけないって先延ばしにした結果。
ろくに会うこともできない今になって。
一番最悪な内容を一番最悪なタイミングで伝えることになってしまった。


***

その夜。僕は閉店間際に駆け込んできた客の対応でいつもより帰りが遅かった。
クレームまがいに怒鳴る客の相手で気持ちが萎えて。ご飯を作る元気もない。
コンビニのご飯も食べたくない。

玲司君と一緒だったら。あのご飯の美味しいクラブのパスタが食べられるのに。

一緒でも駄目だろ。なに誘ってもらえる前提で考えてるんだ。
一人でだって、ちゃんとご飯食べられるだろ。

気合いを入れ直して深夜まで開いているスーパーで冷蔵庫の中身を思い出しながら買い物をする。
冷凍のご飯があるからレトルトのパスタソースを使ったオムライスでいいや。
あとは1食分の袋入りサラダ野菜。マヨネーズで食べよう。

家に着いて、鍵を鍵穴に差し込んで回す。
スカッと軽く回る鍵に今朝は鍵を閉め忘れたのかと焦る。

「鍵の閉め忘れとか不用心だろ、僕」

玄関のドアを開けると部屋には電気もついていて。

「電気まで付けっぱなしとか。何やってんだろ」

玄関で靴を脱ぎながら、ため息をつく。

「鍵はちゃんと閉まってたし、電気をつけたのは俺だよー」
「圭介さん!?」

玄関で靴を脱ぎ捨てて、部屋に駆け込むと。
そこには僕のデカウサギちゃんクッションに埋もれるように座る圭介さんがいた。

「圭介さんだよー」

ニコニコと手を振って、僕の帰りを出迎えてくれる。

「お仕事じゃないんですか?」

そうだよ。夜勤中じゃないの?
スーツじゃないし、私服だし。
ワインレッドのタートルネックセーター、お洒落ですね。僕、この色好き。

「ちょっと時間が出来たからホワイトデーのお返し渡そうかなって」
「それなら、そう言ってくれれば僕もっと早く帰ってきたのに」
「今日は仕事だろー。唯が帰ってくるの待つのも悪くないなって。いつも俺の家で唯が待っててくれてたじゃん」
「それでもっ」

圭介さんの首筋に抱きついてギュっとする。
カシミアなのかな。柔らかいセーターの感触と圭介さんの匂い。落ち着く。
僕ってば、匂いフェチだったのかも。

「ねえねえ、唯。ギューするのも良いけど、スーパーで何か買ったんじゃない?  冷蔵庫入れなくても大丈夫?」
「強いていうならレタスは冷蔵庫に入れないとですね」
「唯の主食はレタスなの?」
「違いますよ。サラダはおかずです。今日はオムライスの予定でした」
「オムライスいーなー」
「レトルトな味付けで良ければ、食べます?」
「もちろんっ!」

スーツじゃご飯作りにくいので着替えてからレッツ・クッキング!
といっても単身者用の1DKのキッチンでは、そんなに立派なものは作れない。
オムライスだけじゃあれかなって電気ポットでお湯も沸かして、インスタントのコーンスープも作ろう。
冷凍のご飯はチンして。
溶き卵も先に準備。とろけるチーズと胡椒たっぷりのオムレツにするんだ。

フライパンでレトルトのミートソースとケチャップを混ぜたものを温めようとしたら、圭介さんにビックリされた。
ごめんね。せっかく会いに来てくれたのに手抜きメニューで。

「違う。ミートソースでオムライスが出来るんだって感動してた」
「そんな立派なものではなくて、大学時代の友人に教わった手抜きメニューですよ。ミートソースでご飯炒めてケチャップライス風にするんです。圭介さんはツナ缶あけてマヨネーズと混ぜてもらえますか?サラダ1人前のサイズで買っちゃったんで嵩増しです。冷凍の唐揚げで良かったらサラダにトッピングできますよ」
「ツナマヨ唐揚げサラダ?」

あれ? 駄目だった? 美味しいんだけど。

「はじめて聞くけど絶対に美味しいやつじゃん」
「はい。美味しいですよ。ツナマヨに和風ドレッシングを少し混ぜておくのがポイントです」

大学時代、バイトしていた居酒屋のメニュー。
簡単に作れて美味しいから僕のお気に入り。

冷蔵庫からマヨネーズと和風ドレッシング、冷凍の唐揚げを出して。
圭介さんには作業台兼のダイニングテーブルでサラダの準備をしてもらう。
解凍の終わったご飯を電子レンジから取り出して、今度は唐揚げを温める。

「唐揚げは食べやすいように半分に切りますね」
「これが唯の普段のご飯」
「そうですよ。圭介さんのおうちで作るのはちょっと頑張った僕のご飯で、これが普段のちょっと頑張ってない僕のご飯です。嫌いになりました?」

こんな手抜きなご飯。
お洒落な圭介さんには似合わないよね。

「ううん。いつものご飯も今日のご飯もどっちも好き。こういう普通な感じ、どんどん食べたい」
「そんなこと言うと、焼き鳥の缶詰で作る親子丼とか冷蔵庫の中身を何でも入れちゃう一人闇鍋とか作りますよ」

どうだ。この適当なメニュー。もう何も怖くないぞ。
って開き直ったら、圭介さんがめちゃくちゃキラキラした目で僕を見てくる。

「その親子丼も美味しそうだし、一人闇鍋も楽しそう。でも二人で食べるなら二人闇鍋だねー」

普段からしっかりしてる圭介さんには僕の手抜きなご飯は新鮮なんだろうか?
食べたいならいつでも作るよ。
簡単なので良ければ今日みたいにいきなり来られても大丈夫。

出来上がったオムライスとサラダとスープで少し遅めの夕食。
ダイニングテーブル、椅子2つセットのにしておいて良かった。
独り暮らしだし椅子なんて1つで良いかな、ダイニングテーブルだって要らないかもって思ってたのを、家具屋の店員さんに「彼女が泊まりに来たとき用に絶対必要だから」と言われて買ったんだっけ。

自分の家で恋人と向かい合わせに座ってご飯食べるのって、なんだか良いな。
あのときの店員のお姉さんの「絶対必要」は本当に絶対だった。
信じて買って良かったよ。
最近じゃスーツのジャケット掛けとく場所になってたけど。

「唯のご飯は本当に美味しい。出来立ての温かいやつは格別だ」
「普通ですよ」
「その普通が良いんじゃん」

オムライスを食べ終わった。
このあと圭介さんはどうするんだろう? 泊まる?
僕の家のベッドはシングルサイズで普通のやつだけど。

「皿洗っとくから唯は風呂はいってきたら?  ご飯ごちそうになったお礼」

お言葉に甘えて。お風呂を先にもらう。
これって、このあとSEXするのかな?
お風呂にってそういう意味あるよね?
でも僕の家にはロリータはない。
着る服がないからSEXはなしかな。

それでも、いちおう。そう、いちおう。
だって、もしもだよ。そういう雰囲気になったときにもう一度シャワー浴びるとかないじゃんね。
ムードは大事だよ。空気を壊すのは良くない。
だから、僕が時間をかけてシャワーを浴びてしまったのも変じゃない。はず。

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