恋愛サティスファクション

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サイレントこんぷれっくす3

こうして、僕と圭介さんの間に新しい約束事が増えた。

ひとつは僕が着るロリータのコーディネートをすべて圭介さんが決めること。
いつだって圭介さんが考えておいてくれたアイテムの組み合わせで着るんだ。
これには僕もとくに不満はない。
だって圭介さんの選ぶものはいつだってとても可愛いから。

出掛ける予定のときには事前に行き先や何をしに行くか相談して。
ランチに行くとか映画とか買い物とか。
そうすると圭介さんは毎回ぴったりのコーディネートを考えて、あの秘密の部屋のトルソーに着せておいてくれる。
僕は部屋の扉を開けるたびに新しいコーデに出会えてドキドキしちゃう。

そして、圭介さんが決めてくれたコーデに合わせてヘアメイクするのが僕の腕のみせどころ。     
どんなイメージでこのアイテムを選んでくれたのかなって考えながらメイクするの、すっごく楽しいんだ。
SNSで参考になるカワイイを探すのも最近のブームだったり。
でも、SNSはフォローするだけ。
自分から写真を投稿するのは圭介さんが嫌がるからやらないんだ。

これも新しい約束かな。
もともと僕はSNSとかしてなくて、発信したいこともないから、これといって問題ないんだけど。
圭介さんはネットに対してアレコレと心配みたい。
前に「浮気の心配？」って冗談半分で聞いたら「唯が可愛いことを隠しておきたい」なんて、どこまで本気か分からないこと言われちゃった。

そして、約束はもうひとつ。
これには僕も頑張りが必要だ。
それは外でロリータを着ているときには声を出しちゃいけないって約束。
どんなに見た目を完璧にしても声だけはどうしようもないから。
しゃべれば男だと分かってしまう。

そのために僕はデート中に圭介さんとお話しできるように手話や指文字、ハンドサインを覚えたんだ。
学生時代の勉強より真面目に練習したからね。
圭介さんも練習に付き合ってくれたし。
っていうか、圭介さんが教えてくれたっていうのが正しいかな。
圭介さんは役所の福祉関係の窓口勤務な関係で、手話を講習会で勉強したんだって。

外で気軽に話せないのは少し不便だけど。
そう悪いことばかりでもない。
僕が一番よく使う指文字はヘレン・ケラーのように圭介さんの手のひらの上に自分の手を重ねて言葉を綴る。
つまり何かを伝えるために、ずっと手を触れていられる。
外で圭介さんの温もりに触れられる。
このアナログなツールを僕はとても気に入っているんだ。


＊＊＊

真っ白な雪ウサギをイメージしたマントを羽織るロリータな僕と、仕事終わりにそのまま来てくれたビジネスコートの圭介さん。
平日休みの僕と週末休みの圭介さんではデートの都合を付けるのも一苦労だ。
夜だけでも会えるんだから贅沢を言っちゃ駄目なんだけど。

今夜は前から約束していたクリスマスのイルミネーションを見に来た。
人混みの中ではぐれないように圭介さんは僕の肩を抱き寄せて。
こんなふうに密着出来るのもロリータのお陰だ。
普段の服装だったらイルミネーションを見に来ることすら出来なかったかも。
回りを見渡しても男女のカップルしかいないし。

目の前に広がるイルミネーションの感想を伝えたいのに。
僕の貧弱な語彙力と拙い手話ではこの感動の半分も伝えられない。
圭介さんの左手の上で僕の右手を何度も滑らせ手話で『綺麗』だと繰り返した。

「本当に綺麗だねー。一緒に見に来て、本当に良かった」

それは僕もだよ。
これまで何度もイルミネーションは見てきたけど、今日のが一番綺麗だ。
それはこのイルミネーションが日本最大級だとか、有名なデザイナーさんが手掛けたからっていうのもあるけど。
隣に圭介さんがいて、同じものを見て同じように感じているっていうのが、本当に幸せだ。

僕はイルミネーションのなかを歩いている間、ずっと圭介さんの手のひらに『綺麗』と『幸福』を意味するサインを送った。

それと同じくらい圭介さんを意味する『Ｋ』の指文字と、大好きと伝えたくてアイラブユーのサインをしていたのだけど。
口では言えない恥ずかしい気持ちも手のひらでなら伝えられる。
僕は普段よりも雄弁に愛を語り、圭介さんは普段通りに甘い言葉を返してくれた。