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恋愛サティスファクション
誕生日はフルコース3
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「グラタンはあと焼くだけです」
「その間にスープを温め直そー」
キッチンにふたり並んで夕御飯の仕上げ。
オーブンレンジでグラタンを焼いたり、スープを温め直したり。
僕がひとりで出来るのに、圭介さんは一緒にやりたがった。
まるで新婚さんみたいだと笑う声に、僕は過剰に反応してしまって。
照れて赤くなった耳たぶを甘噛するのはいけません。
サラダを取り分けるお皿を落としてしまいそうになるから。
「あんまりイタズラするならキッチンから出ていってもらいますよ」
危ないことするならリビングのソファで待っててください。
「ごめん。もうしない」
もう怒らないでと僕の頬にキスをするのは、なにも分かっていない。
そういう軽い触れ合いも僕には刺激が強すぎるのだと覚えて欲しい。
そう思って、きりっと睨みを効かせて怒ろうとしたのに。
圭介さんがカッコよすぎて、どうでも良くなっちゃう僕にも問題があるんだろうな。
彼氏がイケメンすぎるのも困りものだ。
帰ってきてスーツから着替えたのはチャコールグレーのカジュアルなボタンダウンシャツとブラックのスキニーデニム。
圭介さんの普段着はシンプルなんだけど、着ている本人がモデル張りの長身と引き締まった筋肉質な体系なものだから。
サラダのクルトンをつまみ食いしてても様になる。
僕は別に太ってないけど鍛えてる訳じゃない普通体系。
身長166センチ。父さんも弟も背が高いのに僕だけは背が伸びなくて。
だから服選びには気を使ってる。
同じデニムを履いてるのに、なぜここまで違うのか。
僕なんか、うっかり気を抜くと童顔なのも相まって、気楽にお酒を買えなくなるし。
ビールを買うときに免許証の提示を求められるのは、もう懲り懲りだ!
「グラタン焼けたー。めちゃ旨そうで、テンションあがるー」
圭介さんがキッチンミトンを両手にはめて、熱々のグラタンをガラスのローテーブルまで運んでくれる。
焼きたてのグラタンにご機嫌になってくれたのは嬉しい。
圭介さんに料理や取り皿を運んでもらって、僕はサラダやグラタンを取り分ける。
一緒に食べる夕食はいつもより会話が弾んで。
作り過ぎたかなって量の食事もきれいになくなって。
圭介さんはどれを食べても美味しいと頬を緩ませてた。
空っぽになったお皿を下げるのは気分が良い。
準備を手伝ってもらった分、片付けは僕がやると圭介さんにはソファで寛いでいてもらう。
「こんなに喜んでもらえて頑張った甲斐があります。お誕生日とか関係なく、また作りたいです」
「マジかー」
「マジです」
「俺は世界一の幸福者だー」
「大袈裟ですよ。それに僕、和食は作れなくてハンバーグとかオムライスとか子供っぽいレパートリーしかないから」
「それなら問題ないって。俺も子供舌だから」
お気に入りの黒ビールを片手に圭介さんがケラケラと笑う。
これはご機嫌なときに見られる、ちょっと幼い圭介さん。
この姿を僕に見せてくれるのは、それだけリラックスしてるってことだよね。
キッチンをきれいに片付けて、お茶を淹れたら、食後のケーキと一緒にお盆で運ぶ。
2人で食べきれる小さなホールケーキには、ちゃんとチョコレートプレートも乗っている。
そのメッセージを読み上げながら、圭介さんの正面にケーキを置いた。
「けいすけさん、おたんじょうびおめでとう」
「ケーキの箱があるのは気付いてたけど。ホールだし、チョコ乗ってるし」
「ちょっと本気出してみました」
「嬉しい、かも。俺大人なのに」
大人になったって、お誕生日のケーキは特別なんだ。
照れている圭介さんが見られて、僕は自分の仕事の結果に大満足。
今回、ろうそくはいらないって断っちゃったけど。
来年はろうそくも立てて、ふうーってしてもらおう。
「ケーキを切るから写真を撮るなら今のうちに」
「えー、このまま食べちゃ駄目? 一度で良いからホールのケーキをそのまま食べてみたかったんだよね」
写真を撮る趣味はないけど、ホールケーキを丸いまま食べてみたいとか。
圭介さんは可愛すぎる。
2人で並んでフォークを持って、お行儀が悪いとか今日は言わない。
きれいにデコレーションされたケーキの最初の一口、圭介さんはフォークを使わずかじりついた。
圭介さんは子供の頃に誰もが憧れた夢を大人になって叶えてる。
僕も真似をして反対側からかじりついてみた。
口のなかにクリームの甘さだけが広がる。
もっと大きな一口にしないとスポンジまで届かないのか。
でも、それをしたら顔中がクリームまみれになりそう。
すでに白く汚れてるけど、これ以上はちょっと。
「ねえ、圭介さん」
「なーに? 唯」
「ケーキはフォークを使って食べた方が美味しい気がします」
「それは俺も今考えてた」
口の回りをクリームでベタベタにした僕らは、お互いの顔を指差して笑いあった。
そしてフォークを使い、クリームとスポンジ生地とフルーツをバランスよく口に運ぶ。
やっぱり、こうした方がよりケーキを美味しく楽しめる。
正しくフォークを使って食べ始めると、ケーキはあっという間に僕達の胃袋に収まってしまった。
もっと大きなサイズでも全然食べられたな。
ふわふわのスポンジとミルクの香りのクリームが名残惜しい。
圭介さんも同じ事を考えていたのか。
ケーキの乗っていた金色のトレイの縁を圭介さんが人差し指でなぞり、集めてすくいとられる白いクリーム。
圭介さんったら今日は子供だなあ。
てっきり自分で舐めると思っていたその指は僕の顔の前に向けられた。
圭介さんは何も言わないけど。ほんのり上がった口の端。
えっ? ぽかんと開いた僕の唇の隙間を、クリームで濡れた指が無理矢理こじ開ける。
「んっんんー」
驚いた僕の喉が言葉にならない音を鳴らすけど。
圭介さんは新しいオモチャを買ってもらったばかりの子供のように、すっごく良い笑顔で僕の口の中を掻き回す。
圭介さんの右腕を掴んでも、いやいやと首を振っても、やめてくれなくて。
やめてと言いたくても、いつの間にか増えた圭介さんの指が口を塞いでて、不明瞭な言葉にしかならない。
さんざん遊んで満足したのか、圭介さんが指を引き抜いた。
脱力して開けっ放しの口と悪戯な指先を透明な糸が繋いでる。
でも指が離れていくのにつれて、糸は切れて。
繋がりが途切れてしまった喪失感に残念だと僕が考えていたら。
何を思ったのか、圭介さんは僕の唾液でベタベタに汚れた指をアイスキャンディでも食べるかのように舌で舐めた。
僕の目を見つめたまま!
「んっ。あまい」
圭介さんの声が僕の胸をさざめかせる。
それは悪魔の囁きのように甘美で、わずかに残っていた理性をどこかに吹き飛ばした。
僕は初めて自分から圭介さんにキスをした。
「その間にスープを温め直そー」
キッチンにふたり並んで夕御飯の仕上げ。
オーブンレンジでグラタンを焼いたり、スープを温め直したり。
僕がひとりで出来るのに、圭介さんは一緒にやりたがった。
まるで新婚さんみたいだと笑う声に、僕は過剰に反応してしまって。
照れて赤くなった耳たぶを甘噛するのはいけません。
サラダを取り分けるお皿を落としてしまいそうになるから。
「あんまりイタズラするならキッチンから出ていってもらいますよ」
危ないことするならリビングのソファで待っててください。
「ごめん。もうしない」
もう怒らないでと僕の頬にキスをするのは、なにも分かっていない。
そういう軽い触れ合いも僕には刺激が強すぎるのだと覚えて欲しい。
そう思って、きりっと睨みを効かせて怒ろうとしたのに。
圭介さんがカッコよすぎて、どうでも良くなっちゃう僕にも問題があるんだろうな。
彼氏がイケメンすぎるのも困りものだ。
帰ってきてスーツから着替えたのはチャコールグレーのカジュアルなボタンダウンシャツとブラックのスキニーデニム。
圭介さんの普段着はシンプルなんだけど、着ている本人がモデル張りの長身と引き締まった筋肉質な体系なものだから。
サラダのクルトンをつまみ食いしてても様になる。
僕は別に太ってないけど鍛えてる訳じゃない普通体系。
身長166センチ。父さんも弟も背が高いのに僕だけは背が伸びなくて。
だから服選びには気を使ってる。
同じデニムを履いてるのに、なぜここまで違うのか。
僕なんか、うっかり気を抜くと童顔なのも相まって、気楽にお酒を買えなくなるし。
ビールを買うときに免許証の提示を求められるのは、もう懲り懲りだ!
「グラタン焼けたー。めちゃ旨そうで、テンションあがるー」
圭介さんがキッチンミトンを両手にはめて、熱々のグラタンをガラスのローテーブルまで運んでくれる。
焼きたてのグラタンにご機嫌になってくれたのは嬉しい。
圭介さんに料理や取り皿を運んでもらって、僕はサラダやグラタンを取り分ける。
一緒に食べる夕食はいつもより会話が弾んで。
作り過ぎたかなって量の食事もきれいになくなって。
圭介さんはどれを食べても美味しいと頬を緩ませてた。
空っぽになったお皿を下げるのは気分が良い。
準備を手伝ってもらった分、片付けは僕がやると圭介さんにはソファで寛いでいてもらう。
「こんなに喜んでもらえて頑張った甲斐があります。お誕生日とか関係なく、また作りたいです」
「マジかー」
「マジです」
「俺は世界一の幸福者だー」
「大袈裟ですよ。それに僕、和食は作れなくてハンバーグとかオムライスとか子供っぽいレパートリーしかないから」
「それなら問題ないって。俺も子供舌だから」
お気に入りの黒ビールを片手に圭介さんがケラケラと笑う。
これはご機嫌なときに見られる、ちょっと幼い圭介さん。
この姿を僕に見せてくれるのは、それだけリラックスしてるってことだよね。
キッチンをきれいに片付けて、お茶を淹れたら、食後のケーキと一緒にお盆で運ぶ。
2人で食べきれる小さなホールケーキには、ちゃんとチョコレートプレートも乗っている。
そのメッセージを読み上げながら、圭介さんの正面にケーキを置いた。
「けいすけさん、おたんじょうびおめでとう」
「ケーキの箱があるのは気付いてたけど。ホールだし、チョコ乗ってるし」
「ちょっと本気出してみました」
「嬉しい、かも。俺大人なのに」
大人になったって、お誕生日のケーキは特別なんだ。
照れている圭介さんが見られて、僕は自分の仕事の結果に大満足。
今回、ろうそくはいらないって断っちゃったけど。
来年はろうそくも立てて、ふうーってしてもらおう。
「ケーキを切るから写真を撮るなら今のうちに」
「えー、このまま食べちゃ駄目? 一度で良いからホールのケーキをそのまま食べてみたかったんだよね」
写真を撮る趣味はないけど、ホールケーキを丸いまま食べてみたいとか。
圭介さんは可愛すぎる。
2人で並んでフォークを持って、お行儀が悪いとか今日は言わない。
きれいにデコレーションされたケーキの最初の一口、圭介さんはフォークを使わずかじりついた。
圭介さんは子供の頃に誰もが憧れた夢を大人になって叶えてる。
僕も真似をして反対側からかじりついてみた。
口のなかにクリームの甘さだけが広がる。
もっと大きな一口にしないとスポンジまで届かないのか。
でも、それをしたら顔中がクリームまみれになりそう。
すでに白く汚れてるけど、これ以上はちょっと。
「ねえ、圭介さん」
「なーに? 唯」
「ケーキはフォークを使って食べた方が美味しい気がします」
「それは俺も今考えてた」
口の回りをクリームでベタベタにした僕らは、お互いの顔を指差して笑いあった。
そしてフォークを使い、クリームとスポンジ生地とフルーツをバランスよく口に運ぶ。
やっぱり、こうした方がよりケーキを美味しく楽しめる。
正しくフォークを使って食べ始めると、ケーキはあっという間に僕達の胃袋に収まってしまった。
もっと大きなサイズでも全然食べられたな。
ふわふわのスポンジとミルクの香りのクリームが名残惜しい。
圭介さんも同じ事を考えていたのか。
ケーキの乗っていた金色のトレイの縁を圭介さんが人差し指でなぞり、集めてすくいとられる白いクリーム。
圭介さんったら今日は子供だなあ。
てっきり自分で舐めると思っていたその指は僕の顔の前に向けられた。
圭介さんは何も言わないけど。ほんのり上がった口の端。
えっ? ぽかんと開いた僕の唇の隙間を、クリームで濡れた指が無理矢理こじ開ける。
「んっんんー」
驚いた僕の喉が言葉にならない音を鳴らすけど。
圭介さんは新しいオモチャを買ってもらったばかりの子供のように、すっごく良い笑顔で僕の口の中を掻き回す。
圭介さんの右腕を掴んでも、いやいやと首を振っても、やめてくれなくて。
やめてと言いたくても、いつの間にか増えた圭介さんの指が口を塞いでて、不明瞭な言葉にしかならない。
さんざん遊んで満足したのか、圭介さんが指を引き抜いた。
脱力して開けっ放しの口と悪戯な指先を透明な糸が繋いでる。
でも指が離れていくのにつれて、糸は切れて。
繋がりが途切れてしまった喪失感に残念だと僕が考えていたら。
何を思ったのか、圭介さんは僕の唾液でベタベタに汚れた指をアイスキャンディでも食べるかのように舌で舐めた。
僕の目を見つめたまま!
「んっ。あまい」
圭介さんの声が僕の胸をさざめかせる。
それは悪魔の囁きのように甘美で、わずかに残っていた理性をどこかに吹き飛ばした。
僕は初めて自分から圭介さんにキスをした。
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