異世界の地、七光りの冒険

mikasaball

文字の大きさ
上 下
66 / 69
ロステマ帝国編

57.儀式

しおりを挟む
 ラフマの儀式は前日夜から行われていた。
代々伝わる秘薬を飲まされ、意識を混濁させるのだ。
いくら名誉なことといえ、皆が望んで身を捧げる訳ではない。
死の恐怖を前にして、それでも平静を保っていられるようにする手段であったのだ。
それを一定時間毎に与えられるラフマは、翌日の儀式まで朦朧とした意識の中過ごす。
 死まで秒読みという状態で、彼女は何を思っていたのだろうか。
はたまた、考えられるほどの思考はまとまっていないのだろうか。
それは本人にしかわからぬことである。
だが、思考力が残っていたとしても、それはそれで酷なことには違いない。


◆◇◆


 民衆に紛れた怜央はラフマの到着をまつ。
建物内部はそこそこ広く、入口から正面奥側に祭壇があった。
その祭壇は長い階段を登った高い所にあり、奥には寝そべった神の彫刻がある。
その彫刻は右手を虚空に伸ばし、何かを差し出せと言わんばかりである。
そしてそれの神性を強調するかの如く、くり抜かれた天井から差し込む光がスポットライトのように当たっていた。

 儀式開始までは時間があるようで、周囲の人間は社交場のような雰囲気で交流していた。
ただ単に突っ立っていた怜央にも、その身なりが気になったのか、話を聞きに来る者たちが後を絶えない。

「見かけない顔ですな。本日はどちらから?」
「ここだけの話、お忍びで来たのです。遠い国から来た……とだけ言っておきましょう」

 大概の人にそう説明すると、勝手に解釈して納得してくれるのだ。
中にはお祭りについて教えてくれる人もいた。
 ハゲた中年で、身なりのそこそこ良い人物が、勝手に語ってくれたのだ。

「私はエレトゥスと言います。これに参加してもう30年でしょうか。恐らくあなたは今回が初めてですね?」
「ええ、そうです。ですからどんな流れかわからず不安でもあります」
「そうですか。いやなに、そんなに難しいものではありませんぞ」
「……良ければ少し、教えていただけませんか?」
「もちろん、いいですとも。もう間も無く神官達と巫女がやってまいります。すると神官は賛美歌を唱え、巫女は階段を登るのです。上には選ばれし5人の神官がおりますので、巫女を台座にこさえたあと四肢をおさえます。神への祈りが済みますと、1人の神官がナイフを構え、一思いに振り下ろすのです。肉を引き裂き心臓を取り出すと、神の手に捧げて巫女を落とします。階段から。あとは私達が彼女を解体して、その神聖な身を頂く――というところですかな」

 怜央は聞いているうちに眉を顰めていた。
エレトゥスは覚えきれず心配なのかと受け取って、優しく声をかけた。

「なに、わからなければ周りを見て真似すればいいのです。緊張せずとも大丈夫ですぞ」

 怜央は彼が、根っからの悪人でないとわかっているも、やってる行いに疑問はないのかと不思議でならない。
しかしそんなものないに決まってる。
あったら30年もやるはずがないのだから。

 怜央がお礼を述べた時、入口の門が開き、会場の雰囲気ががらっと変わった。
神官達と巫女の入場であった。

「おお、来たようですな。――私は他の者に場所取りさせてありますから。これも何かの縁だ。貴殿も特等席に、案内しましょう」

 エレトゥスの思惑には打算もあったのだろうが、怜央もそれを承知で付いていく。
2人は人混みをかき分けて祭壇近くへと向かって行った。
そこで、神官達の通り道近くを押さえていた者と、位置を入れ替わった。

 数多くの神官達が配置につくと、巫女――ラフマも歩き始める。
扉は閉まり、部屋は薄暗くなった。
 唯一の光は祭壇を照らす、天井穴からの光のみ。
ラフマはその光に誘われるが如く、一歩、また一歩と、祭壇へ歩みを進める。

 神官達の厳かな雰囲気で歌われる賛美歌は、聞く者全てを飲み込み、独特な世界へといざなうようである。
やがて怜央の視界に入るところまで来ると、ラフマの状態に気づいた。

(なんだあれ……妙に目が虚(うつろ)だ。何かされたのか……?)

 心配する怜央など、ラフマの眼中に含まれることもなく、ただ、空虚を見つめてひたすら歩いていた。

 やがて怜央の前も通り過ぎ、階段へと足を踏み出す。
一段一段上がる様は、ラフマの寿命をカウントダウンしているかのようである。
実際何もしなければ、この後待ち受けるのは確実な死。
だが幸か不幸か、彼女は出会った。
異世界の者達と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はサバイバルを経ていかにして最強に至ったか

藤原みけ@雑魚将軍2巻発売中
ファンタジー
小さな村で平凡な日々を過ごしていた少年リオル。11歳の誕生日を迎え、両親に祝われながら幸せに眠りに着いた翌日、目を覚ますと全く知らないジャングルに居た。 そこは人類が滅ぼされ、伝説の霊獣達の住まう地獄のような無人島だった。 次々の襲い来る霊獣達にリオルは絶望しどん底に突き落とされるが、生き残るため戦うことを決意する。だが、現実は最弱のネズミの霊獣にすら敗北して……。 サバイバル生活の中、霊獣によって殺されかけたリオルは理解する。 弱ければ、何も得ることはできないと。 生きるためリオルはやがて力を求め始める。 堅実に努力を重ね少しずつ成長していくなか、やがて仲間(もふもふ?)に出会っていく。 地獄のような島でただの少年はいかにして最強へと至ったのか。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

処理中です...