異世界の地、七光りの冒険

mikasaball

文字の大きさ
上 下
64 / 69
ロステマ帝国編

55.協力要請

しおりを挟む
 夕方、コバートを除く3人は、高級な部類に入るレストランに集合していた。
 身なりの良さから貴賓席に通された3人は、そこに用意されていた寝台に寝そべりながら、順次運ばれるてくる数々の料理に手をつけている。
食事の席での話題は勿論、収集した情報についてであった。

「ねえ、知ってる? ここの床に描いてある魚の骨って魔除の意味があるらしいのよ。ここのヤツらってエビの殻とか貝の食べかすを床に放るじゃない? それなのになんでか、床に落としたものは不吉だーって言って、奴隷に片付けさせるらしいの」
「それってそもそも床に捨てなければいい話なのに、よくわからないわね」

 テミスの返しにアリータが肩を竦めるあいだも、怜央は2人の報告をメモにまとめていた。

「――オッケー、他には?」

 怜央が問いかけるとテミスが答えた。

「そういえばもう、円形闘技場は見た? なにやらあそこで見せ物をやってるらしいわね」
「見せ物? どんな?」

 アリータは別方向を探索してたため、闘技場を知らない。

「今日はやってなかったから実際に見たわけじゃないけど、剣闘士が戦うらしいわ。相手は獣だったり、同じ剣闘士だったり。それはもう、血湧き肉躍る見せ物だって言ってたわね」
「へー。鮮血が飛び交うところはちょっと興味あるかも。明日、見に行こうかしら」
「野蛮だな……」

 怜央はメモしながらボソッと呟いた。
そんなのを見て喜ぶ奴の気が知れないとでも言いたげである。

「でも残念。明日もやらないらしいわ」
「えー!? なんでよ!」
「明日はこの街で、年に1度のお祭りがあるらしいの」

アリータはムスーっとして尋ねた。

「私の邪魔をするそのお祭りはどんなお祭りなの? つまらないものだったら許せないわ!」
「詳しくは聞かなかったんだけど、何か美味しい料理が振る舞われるらしいわ。まあそれも、一部の有力者と大金を払える金持ちにだけらしいけど」
「はーっ、つっかえ! そんな祭りの何がいいんだか!」

 アリータが呆れて喚いていると、遅れてきたコバートが入ってきた。
その表情は暗く、いつものコバートではない。
怜央もすぐに察した。

「おうコバート、お前おそか――どうした? そんな浮かない顔して」
「ああ、ちょっとな……」

 怜央は起き上がり、寝台の半分を空けることで、コバートに座るよう促した。
目論見通りそこに腰を下ろしたコバートだったが、やはり元気がない。
何か思い詰めたようなコバートの表情に、怜央もほっとくことはできない。

「コバート、お前がそんなんになるなんてだいぶ変だ。一体何があった?」
「……明日、お祭りがあるって知ってるか?」
「ああ、それなら丁度聞いたよ。なんか一部のやつは美味いもん食べれるってやつだろ?」
「その美味いもんが――問題なんだ……!」
「というと?」
「人間……だ!」

 怜央はコバートの口から出た言葉に、思わず眉を顰めた(ひそめた)。
アリータ・テミスも同様に、お互いの顔を見合う。

「人間てそりゃあ……人を食べるってことだよな?」
「ああそうだ。生きた人間を引き裂き、神への供物として捧げたあとみんなで食べる。――イカれた祭りだよ……!」

 コバートの目からは憤りの色が見て取れた。
それを察したテミスは尋ねる。

「コバートが気に入らないのは分かったけど、それはなぜ? だってコバートには直接関係のないことじゃない。嫌なら見なければいい――そうでしょ?」

テミスの言葉にも一理あると感じた怜央・アリータは、コバートの方を見て、答えを待つ。
コバートは顔に影を落とし、やがて口を開いた。

「運がいいのか悪いのか――俺はその、たった1人の少女いけにえと出会い、彼女の気持ちを知っちまった……」

コバートは話した。
ラフマから聞いた全てを。
思ったことの全てを。


◆◇◆


 あれは、みんなと別れてそう間もない頃。
俺は1人の少女に出会った。
最初はなんてことない、課題のために話しかけただけだったんだ。
 それから俺は、話の流れでとんでもない話を聞いちまった。
目の前の少女が、ラフマが、明日の祭りの生贄に選ばれているってことだ。
 俺は勿論尋ねた。

「それってつまり、ラフマは死ぬってことだろ? 嫌じゃないのか!?」

そしたらラフマは言うんだ。

「ううん、名誉なことだから」

って。
 口では望んでいるように言うが、顔を見ていればわかる。
本当の意味で、好きでやりたいだなんて思ってないことぐらいな。

 だから俺は無遠慮に、根掘り葉掘り聞いた。
そしたら、ラフマは親に売られた奴隷であることがわかったんだ。
そのために、本来なら断る生贄役を、半ば無理やりやらされていることもわかった。
 どうみても彼女は、自分の心に嘘をついて、自分を守ろうとしている。

 最後に俺は聞いた。

「もし、明日の役目から逃げれるとしたら、ラフマは逃げたいか?」
「運命からは逃げられないよ……それにみんなが、許してくれない」
「……いいかラフマ。他人のことなど気にせず、自分の心に素直になって、正直に教えてくれ。ラフマ、もし逃げれるなら、その役目から逃げたいか?」

 するとラフマは周囲を気にして、小さく頷いたんだ。
だから俺は、ラフマの手を取って約束した。

「わかった。明日のことなら俺に任せろ。絶対にお前を助けてやるからな」


◆◇◆


「ええ……コバートってロリコンだったの? まさか私をそんな目で今まで……!?」
「いやそういうのいいから、ふざけてる場面じゃないでしょ」

 雰囲気が雰囲気だけに、怜央は空気を読んで間に入った。

「まあ……事情はわかったよ。んで――俺は何を手伝えばいい?」

 コバートはまさか、自分から協力を申し出てくれるとは思っておらず、まさに僥倖であった。

「手伝ってくれるのか、怜央!?」
「当たり前だろ。俺とお前の仲だ……!」

 怜央は右手を振りかぶり、コバートも同様にして、お互いの手を力強く握った。

「いや、なにその友情。あんたらそういう関係だったの?」
「お前は物事を素直に受け取れないのか」

 水を差すアリータに怜央は呆れた。

「正直、怜央は協力してくれると信じてたんだ。んで、できることならアリータにもテミスにも、力を借りたいんだけど……?」

期待を込めてコバートはチラリと見遣った。
しかし、その甲斐虚しくテミスは不参加を表明した。

「私はパスするわ」
「え、マジで? テミス嬢のことだから、むしろ自分から乗ってくると思ってたんだが……」
「だってそれ、要はここの神への供物を横取りするってことでしょ? 触らぬ神に祟りなしって言葉もあるように、手を出さない方が賢明なのよ。特に、神様同士はね!」

 テミスは親指を立てながらウィンクして、自分が神であるのだと強調する。
最早いつものことなのでそこまで気にすることもなかったのだが、予想外なことに、そのふざけた理論をアリータも支持した。

「私も同意見ね。今回ばかりはテミスの言ってることが正しい」
「ツン子も!? おいおい、まじかよコレェ……」

 コバートは当てが外れたようで、額に手を当てた。

「神ってのはね、あんたらが思ってるよりよっぽど強大な存在よ? ちょっかい出してタダで済むとは思えないわ」
「……そもそも神様ってのはいるのか? 実際に見たことないからどうにもね」

 怜央は首を傾げるが、別に神様が居ないと思ってるわけではない。
ただ存在するという確証を持てないだけである。
その問にテミスは激しく自分を指差すが、怜央は無視した。

「居るか居ないか――そんなの、居るに決まってるじゃない。自分で見えないから居ないと決めつけるだなんて、愚か者のすることだわ。自分の見えてる範囲とこだけが世界じゃないのよ?」
「む……アリータの割にすごい正論じみた事を言うな」
「私の割にってなによ。失礼しちゃうわね」

 コバートは少し悩んでいる様子だったが、やがて吹っ切れた。

「まあ、最低でも俺と怜央がいればなんとかならーな」
「計画はあるのか?」
「ああ、俺の頭の中に最強の作戦があるぜ!」

自信あり気なコバートとは裏腹に、怜央はなんとも言えぬ気持ちに苛まれる。

(不安だ……)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はサバイバルを経ていかにして最強に至ったか

藤原みけ@雑魚将軍2巻発売中
ファンタジー
小さな村で平凡な日々を過ごしていた少年リオル。11歳の誕生日を迎え、両親に祝われながら幸せに眠りに着いた翌日、目を覚ますと全く知らないジャングルに居た。 そこは人類が滅ぼされ、伝説の霊獣達の住まう地獄のような無人島だった。 次々の襲い来る霊獣達にリオルは絶望しどん底に突き落とされるが、生き残るため戦うことを決意する。だが、現実は最弱のネズミの霊獣にすら敗北して……。 サバイバル生活の中、霊獣によって殺されかけたリオルは理解する。 弱ければ、何も得ることはできないと。 生きるためリオルはやがて力を求め始める。 堅実に努力を重ね少しずつ成長していくなか、やがて仲間(もふもふ?)に出会っていく。 地獄のような島でただの少年はいかにして最強へと至ったのか。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

没落貴族に転生したけどチート能力『無限魔力』で金をザックザック稼いで貧しい我が家の食卓を彩ろうと思います~

街風
ファンタジー
出産直後に、バク転からの仁王立ちで立ち上がった赤子のルークは、すでに己が生物の頂点に君臨していると自覚していた。だがそれとは対極に、生まれた生家は最低最弱の貧乏貴族。食卓に並ぶのは痩せた魚と硬いパンだけ。愛する家族のためにルークは奔走する。 「これは大変だっ、父上、母上、ルークにお任せ下さい。お金を稼ぎに冒険へでかけてきますゆえ」※0歳です。 時に現れる敵をバッサバッサと薙ぎ倒し、月下の光に隠れて、最強の赤子が悪を切り裂く! これは全てを破壊する力を持った0歳児が、家族の幸せを望む物語。 ヒロインも多数登場していきます。

処理中です...