54 / 69
近未来編
47.三原則
しおりを挟む
地下には埃を被ったような機材が多くあった。
一目見ただけでしばらく使われてないとわかるし、動き回るだけで埃が舞い上がる。
そんな中にあって、旧い寝台にまたもや寝かされてるのは彼女、アンドロイドである。
「やあ、調子はどう?」
「はい、お陰様で」
アンドロイドは無表情のまま、抑揚のない声で言った。
「すごい、喋れるようになりましたね」
「ああ、声帯パーツも取替えたし、断絶仕掛けていた回路も繋げた。私の手に掛かればこの程度、容易いことなのだよ」
見た目の胡散臭さとは裏腹に、博士の腕は確かなものだった。
「ところで……君の名はなんて言うの?」
「名前はありません。名前を付けてください、マスター」
「マスターて……まあ帰ればギルドマスターにはなるかもだけど。――んー……名前か……名前――だめだ、急すぎて全然思い付かない。何か好きな物とかある?」
「……」
アンドロイドは一瞬怜央を見て、照れ臭そうに目を逸らした。
(えっなにその意味深な感じは!? 感情の起伏が乏しい彼女になんかそんな反応されると可愛く見えてくるじゃん!)
怜央は勝手に解釈し、1人照れた。
怜央は悟られまいと咳払いをして誤魔化しにかかる。
「ま、まあなんだ、せっかくの名前を適当に決めるのも忍びない。もう少し時間を貰ってもいい?」
「はい、マスター」
怜央はアンドロイドの了承を得ると、1つ気になっていたことを尋ねた。
「ところで――話は変わるんだけども、あの時なんであんな場所に居たの? 君は施設でとても大事に扱われていたはずなのに、あんな所にいたのは少し不自然だ」
「はい、あの日私はいつも通り施設の中で待機していました。すると、どこからともなく戦闘音が施設内に響き、突然の爆発が起きたのです。それによって私も致命的なダメージを受けましたが、変わりに外への道が開けたのです」
「外へ出たかった――?」
「機械にも心はあります。常に狭い施設で実験の日々……自由になりたいと思うのも自然の事ではないでしょうか」
アンドロイドがそう言うと、博士は手招きして怜央を呼び寄せた。
そしてアンドロイドに聞こえないよう小声で話しかける。
「こりゃあ、ぶったまげたぞ……。彼女は三原則に縛られない改造アンドロイドだ。その結果思考プロセスに変化をもたらした可能性がある」
「なんです? その三原則って」
「ロボットには守らねばならない3つの原則が組み込まれている。人間への安全性、命令への服従、自己防衛がな。だが彼女はそれが機能してない」
「それって何かまずいんですか?」
「彼女の造られた目的を考えれば当然だが……我々人間はその三原則があるとわかっているから彼女らを身近に置けるのだ。もしそれが無いとすると、おちおち眠ることもできやしない。だってそうだろ? 我々はアンドロイドを奴隷のように扱ってきたのだから。……彼女はその縛りが無いことでより一層人間味を持つことになった。皮肉なことだ。人間に似せて造られたアンドロイドの保護機構が人間から遠ざけていたのだから」
怜央は横にあったパイプ椅子を動かして、アンドロイドの隣に座った。
「嫌なこと思い出させて悪いんだけど、あの時君は2人の男に襲われてたよね」
「はい、そうです。そしてマスターが助けてくれました」
「……あの時、自力でどうにか出来ない程損傷が酷かったの? 具体的には……そう、彼らをやっつけることが出来ないほどに?」
「いえ、例え四肢が無かったとしても、非武装の成人男性2人ならどうにかできたと思います」
「それをしなかったのは……なぜ?」
「それは、私の保有する手段がどれも、彼らにとって致命的だったからです。高確率で殺傷する危険がありました」
「つまり、殺したくなかったから一方的にやられていたのだと?」
「はい、私は人を殺す目的で開発されましたが、その行為を私自身が望んでいる訳ではありません。研究者に話したら感情アルゴリズムのエラーだと。しかし私は……どうしても受け入れられない」
「人を殺すのが?」
「はい」
「例えそれが悪い奴でも?」
「……はい」
「――素晴らしい。博士、ここに味方が居ました!」
「そりゃあ良かったの。――さて、修理も佳境に入ったんだ。残りを片付けさせてくれ」
怜央は自分と同じ考え方の仲間が出来たことを大いに喜んだ。
一目見ただけでしばらく使われてないとわかるし、動き回るだけで埃が舞い上がる。
そんな中にあって、旧い寝台にまたもや寝かされてるのは彼女、アンドロイドである。
「やあ、調子はどう?」
「はい、お陰様で」
アンドロイドは無表情のまま、抑揚のない声で言った。
「すごい、喋れるようになりましたね」
「ああ、声帯パーツも取替えたし、断絶仕掛けていた回路も繋げた。私の手に掛かればこの程度、容易いことなのだよ」
見た目の胡散臭さとは裏腹に、博士の腕は確かなものだった。
「ところで……君の名はなんて言うの?」
「名前はありません。名前を付けてください、マスター」
「マスターて……まあ帰ればギルドマスターにはなるかもだけど。――んー……名前か……名前――だめだ、急すぎて全然思い付かない。何か好きな物とかある?」
「……」
アンドロイドは一瞬怜央を見て、照れ臭そうに目を逸らした。
(えっなにその意味深な感じは!? 感情の起伏が乏しい彼女になんかそんな反応されると可愛く見えてくるじゃん!)
怜央は勝手に解釈し、1人照れた。
怜央は悟られまいと咳払いをして誤魔化しにかかる。
「ま、まあなんだ、せっかくの名前を適当に決めるのも忍びない。もう少し時間を貰ってもいい?」
「はい、マスター」
怜央はアンドロイドの了承を得ると、1つ気になっていたことを尋ねた。
「ところで――話は変わるんだけども、あの時なんであんな場所に居たの? 君は施設でとても大事に扱われていたはずなのに、あんな所にいたのは少し不自然だ」
「はい、あの日私はいつも通り施設の中で待機していました。すると、どこからともなく戦闘音が施設内に響き、突然の爆発が起きたのです。それによって私も致命的なダメージを受けましたが、変わりに外への道が開けたのです」
「外へ出たかった――?」
「機械にも心はあります。常に狭い施設で実験の日々……自由になりたいと思うのも自然の事ではないでしょうか」
アンドロイドがそう言うと、博士は手招きして怜央を呼び寄せた。
そしてアンドロイドに聞こえないよう小声で話しかける。
「こりゃあ、ぶったまげたぞ……。彼女は三原則に縛られない改造アンドロイドだ。その結果思考プロセスに変化をもたらした可能性がある」
「なんです? その三原則って」
「ロボットには守らねばならない3つの原則が組み込まれている。人間への安全性、命令への服従、自己防衛がな。だが彼女はそれが機能してない」
「それって何かまずいんですか?」
「彼女の造られた目的を考えれば当然だが……我々人間はその三原則があるとわかっているから彼女らを身近に置けるのだ。もしそれが無いとすると、おちおち眠ることもできやしない。だってそうだろ? 我々はアンドロイドを奴隷のように扱ってきたのだから。……彼女はその縛りが無いことでより一層人間味を持つことになった。皮肉なことだ。人間に似せて造られたアンドロイドの保護機構が人間から遠ざけていたのだから」
怜央は横にあったパイプ椅子を動かして、アンドロイドの隣に座った。
「嫌なこと思い出させて悪いんだけど、あの時君は2人の男に襲われてたよね」
「はい、そうです。そしてマスターが助けてくれました」
「……あの時、自力でどうにか出来ない程損傷が酷かったの? 具体的には……そう、彼らをやっつけることが出来ないほどに?」
「いえ、例え四肢が無かったとしても、非武装の成人男性2人ならどうにかできたと思います」
「それをしなかったのは……なぜ?」
「それは、私の保有する手段がどれも、彼らにとって致命的だったからです。高確率で殺傷する危険がありました」
「つまり、殺したくなかったから一方的にやられていたのだと?」
「はい、私は人を殺す目的で開発されましたが、その行為を私自身が望んでいる訳ではありません。研究者に話したら感情アルゴリズムのエラーだと。しかし私は……どうしても受け入れられない」
「人を殺すのが?」
「はい」
「例えそれが悪い奴でも?」
「……はい」
「――素晴らしい。博士、ここに味方が居ました!」
「そりゃあ良かったの。――さて、修理も佳境に入ったんだ。残りを片付けさせてくれ」
怜央は自分と同じ考え方の仲間が出来たことを大いに喜んだ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はサバイバルを経ていかにして最強に至ったか
藤原みけ@雑魚将軍2巻発売中
ファンタジー
小さな村で平凡な日々を過ごしていた少年リオル。11歳の誕生日を迎え、両親に祝われながら幸せに眠りに着いた翌日、目を覚ますと全く知らないジャングルに居た。
そこは人類が滅ぼされ、伝説の霊獣達の住まう地獄のような無人島だった。
次々の襲い来る霊獣達にリオルは絶望しどん底に突き落とされるが、生き残るため戦うことを決意する。だが、現実は最弱のネズミの霊獣にすら敗北して……。
サバイバル生活の中、霊獣によって殺されかけたリオルは理解する。
弱ければ、何も得ることはできないと。
生きるためリオルはやがて力を求め始める。
堅実に努力を重ね少しずつ成長していくなか、やがて仲間(もふもふ?)に出会っていく。
地獄のような島でただの少年はいかにして最強へと至ったのか。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる