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近未来編
41.潜入
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怜央は時計やネックレスといった装飾品は付けない。
それは単に、つけたらつけたで違和感を感じるからだ。
指輪に関しては仕方ないとしても、極力身につけたくないというのが怜央の本音である。
しかしシエロの手前、頂いた腕輪は身につけていた。
それは普段、学ランの裾に入って見えはしないがいつもしている。
今日のような目的において特に、その腕輪は真価を発揮した。
「とりあえず潜入は成功だな」
「それはいいけど……これ、なんとかならない?」
透明になっているテミスは怜央と繋いだ手を持ち上げた。
「ばっかお前、俺だって好きでやってる訳じゃないんだぞ? 腕輪は2つしかないんだから我慢しろ!」
幸い先の件もあって、ほとんどの職員は避難済みであった。
中にいる人は少なく、いてもセキュリティーが要所要所に立っている程度だ。
小声でヒソヒソ話すのは、声まで透明にすることは出来ないからである。
「あら、そんなこと言って乙女の柔肌を楽しんでるんじゃないの?」
「誰が乙女だ? 自惚れるのも大概にしろよ。俺は――」
「あ、ここ右」
怜央はグイッと引っ張られまたもや言いたいことを遮られた。
「テミスさん。嬉しいのはわかりますが、そんな乱暴にしないでください。夏目様が痛がっています」
「大丈夫よ。怜央はこれくらいじゃビクともしないわ。逆に喜んでるわよ」
「え、本当ですか?」
「なわけあるか。口車に乗せられるなシエロ」
「ほーら、そんなこと言ってる間に着いたわよ。あそこの入口だけ、警備員が二人もたってる。恐らくあそこね」
そこには銃を携帯したセキュリティーが守りを固めていた。
そもそも扉には電子ロックがかかっており、現状手を出すのは憚られた。
「どうしたものか……」
「とりあえずあの二人、消しときますか?」
「平然と怖いこと言わない。殺しはだめだよ。なんの罪もない人達なんだから」
シエロは耳を項垂れて謝った。
どうやって入るか悩んでいると、丁度通路の向かい側から地位の高そうな軍人が歩いてきた。
「……チャンスよ!」
テミスはそういうと、扉の前に立ち暗証番号を入力する軍人の背中にピタリと付けた。
そして軍人の動きに同調して、上手に部屋の中へと入ることが出来た。
[上手くいったな。――しかしまあ、燃えただけあって、やはり臭いな]
[そうね、ただ燃えるといっても変な薬品も焼けてるのかも。妙に鼻につくわ]
通信は指輪やスマホを持っていないシエロには聞こえていなかった。
だが視線やジェスチャーだけでも意思疎通はできる。
同じ腕輪で透明になったもの同士は、その姿を見ることが出来たのだ。
[んで、この後はどこに行けばいいんだ?]
[……今探してる]
[そんな行き当たりばったりで大丈夫なのか……?]
[私を誰だと思ってるの? 運の方から私に寄ってくるわ]
確かにテミスの感の良さはバカにできない。
現にここまで来れたのも全て、テミスの感であった。
それを以前から感じていた怜央も変に言い返しにくかった。
[……ああそうかい。それなら早めに頼む]
それから少し歩いていると、突然テミスは手を挙げて止まれ! と指示した。
すると、その瞬間隣のドアが開いて人が出てきた。
怜央達は職員に当たらないよう上手く躱すと、自動扉が閉まる前にテミスが片足を突っ込んだ。
そして異常を検知した扉が再び開く。
[……見つけたわ。ここよ!]
[まじか……?]
中へと入った3人は部品の山に迎えられた。
「まじか……」
そこは倉庫。
いくつかの部屋を居抜きしたかのような、そこそこの広さの部屋にびっしりと奥まで棚が伸びている。
よく見れば箱の中にはパーツや試験武装などが整然と並べられていた。
「テミス、リストを」
「わかってるわ」
テミスはラニング博士から受け取ったリストを取り出すと目を閉じた。
怜央はリストと並んでいる部品を見比べていると、テミスが目を閉じているのに気づいた。
「……テミス? テミスどうし――」
「しっ! 静かに! 今ちょっと集中してるから話しかけないで!」
その気迫に圧された怜央は思わず謝った。
そしてテミスの目が開くと、怜央とシエロに指示した。
「これとこのパーツはあそこのB棚、この大きめのパーツは奥のL棚3段目にあるわ。私はこれとこのパーツを取ってくるからそっちはお願いね」
テミスは怜央の手を離して部品を取りに行った。
「あ、おい! 見つかるぞテミス!」
倉庫内に人の姿は見えないといえ、誰がいつ入ってくるかもわからない。
それを危惧した怜央は引き留めるもテミスは止まらない。
「大丈夫よ、少なくとも私達が集め終わるまで絶対入ってこないから!」
テミスはそう言い残してさっさと奥の方へと行ってしまった。
怜央は頭を掻きながら困惑するも、まあテミスのことだしなんとかなるか……などと、謎の信頼を寄せ始めた。
怜央はシエロにアイコンタクトすると、バラバラに別れてそれぞれがパーツ集めに動いた。
そして不思議なことに、始めて来たはずのテミスが言った場所に、そのパーツと思しきものがあった。
(おいおい、本当にあったよパーツが……。あいつは神か……? いやでもそんな……うーん)
怜央は数々の現象に、テミスの神性を感じずにはいられなかった。
だがそれを認めたくないという気持ちが反発して、結論は煮えきらずにいた。
しばらく考えに考え、今考えることでもないなと冷静に判断した怜央は他のパーツも回収してから入口へと戻った。
「思ってたより量がありますね……。如何いたしましょうか? 流石にこれだけの量となると全て透明化は難しいかと……」
そう、透明化に必要な条件は腕輪の装着者と触れていること。
衣服や少しの携行品程度なら何とかできても、抱えるくらいに大量となると厳しいところがあった。
「そうだな……おっ」
怜央は辺りに視線をやって、大きな箱を見つけるとそれを取ってきた。
「ちょっと詰めるの手伝ってくれ上手く詰めれば詰めるほど、荷物が軽くなる」
シエロとテミスはワケもわからず手伝うと、封をした箱を怜央はアイテムボックスに収納した。
「わあ! すごいです!」
「ちょっと、こんな事ができるなら早く教えなさいよ。というか残りも全てそれに入れて頂戴」
少なくなったとはいえ、パーツはまだまだあった。
「いや、意外とこれ容量が少ないんだ。1つの物体が3つまでしか入れられない。既にみんなの服で1つ、今の荷物で1つ、あと一つももう埋まってる」
「はー……つっかえ」
「そういうな、これで手に持って運べるくらいには少なくなっただろ」
「はい! あとは脱出するだけですね!」
シエロと怜央が荷物を持つと、テミスは腕を組んで妙に立ち尽くしていた。
「どうした?」
「……ねぇ、ちょっとその腕輪貸してもらえないかしら」
「え? ……何に使うの?」
「やり残したことをやるのよ」
「やり残したことって?」
「……」
人に言えないことなのか、テミスは目を泳がせた。
絶対ろくなことに使わないだろうなと踏んだ怜央は断る。
「いや……だめ」
「……なんならそこの廊下でランニングしてきてもいいのよ?」
「ナチュラルに脅すのやめろ」
「まあまあ、夏目様。ここまで来れたのもテミスさんのお陰ですし、良ければ私のをお使い下さい」
シエロは自分の腕輪を取ってテミスに渡した。
「あら、良いのかしら?」
「はい、幸い少なくなった荷物では片手でも持てますから」
そういうとシエロは怜央の手に指を絡めた。
テミスは何か察することもあったようだが声に出すほど無粋ではない。
「ふーん……。そう、ならお言葉に甘えようかしらね」
「あの腕輪、もう帰ってこないと思った方がいいかもしれんぞ?」
「お黙り。――それじゃ、シエロちゃん。有難く借りていくわね」
「はい、テミスさんもお気をつけて」
「……早めに戻ってこいよ」
「ええ。約束はできないけど」
怜央らはテミスと別れると、元来た道を戻り博士邸へと向かった。
◆◇◆
無事、軍の施設を抜け出せた怜央とシエロは、博士邸まであと10分というところまで来ていた。
必要は無いのに未だ手を繋いだままで。
「この部品で彼女、本当に直せるのかな。かなり破損状況が酷かったけど……」
「夏目様がここまでして助けようとしているんです。きっと神様も日頃の行いを鑑みて、助けてくれますよ!」
「はは……そうだといいけど」
そんなことして歩いていると、アリータから通信が入った。
[怜央! 大変よ! 今すぐ戻ってきて!!!]
その声音には普段聞かないアリータの焦りの色が伺えた。
[そんなに慌ててどうした? 今もうそっちに向かってるから、あと10分もしないでそっちに着くぞ]
[そんな呑気にしてる暇ないわよ! 変な集団に家を囲まれてるのよ! もう入ってきそ――]
通信にはガラスの割れる音とコバートの叫び声が聞こえ、そこで途切れた。
[アリータ? アリータ!?]
「やばいシエロ! 今アリータから通信が入って、どうやら家が襲われてるらしい!」
「ええ!? 急ぎましょう夏目様!」
2人は荷物を抱えながらも急いで博士邸に向かった。
それは単に、つけたらつけたで違和感を感じるからだ。
指輪に関しては仕方ないとしても、極力身につけたくないというのが怜央の本音である。
しかしシエロの手前、頂いた腕輪は身につけていた。
それは普段、学ランの裾に入って見えはしないがいつもしている。
今日のような目的において特に、その腕輪は真価を発揮した。
「とりあえず潜入は成功だな」
「それはいいけど……これ、なんとかならない?」
透明になっているテミスは怜央と繋いだ手を持ち上げた。
「ばっかお前、俺だって好きでやってる訳じゃないんだぞ? 腕輪は2つしかないんだから我慢しろ!」
幸い先の件もあって、ほとんどの職員は避難済みであった。
中にいる人は少なく、いてもセキュリティーが要所要所に立っている程度だ。
小声でヒソヒソ話すのは、声まで透明にすることは出来ないからである。
「あら、そんなこと言って乙女の柔肌を楽しんでるんじゃないの?」
「誰が乙女だ? 自惚れるのも大概にしろよ。俺は――」
「あ、ここ右」
怜央はグイッと引っ張られまたもや言いたいことを遮られた。
「テミスさん。嬉しいのはわかりますが、そんな乱暴にしないでください。夏目様が痛がっています」
「大丈夫よ。怜央はこれくらいじゃビクともしないわ。逆に喜んでるわよ」
「え、本当ですか?」
「なわけあるか。口車に乗せられるなシエロ」
「ほーら、そんなこと言ってる間に着いたわよ。あそこの入口だけ、警備員が二人もたってる。恐らくあそこね」
そこには銃を携帯したセキュリティーが守りを固めていた。
そもそも扉には電子ロックがかかっており、現状手を出すのは憚られた。
「どうしたものか……」
「とりあえずあの二人、消しときますか?」
「平然と怖いこと言わない。殺しはだめだよ。なんの罪もない人達なんだから」
シエロは耳を項垂れて謝った。
どうやって入るか悩んでいると、丁度通路の向かい側から地位の高そうな軍人が歩いてきた。
「……チャンスよ!」
テミスはそういうと、扉の前に立ち暗証番号を入力する軍人の背中にピタリと付けた。
そして軍人の動きに同調して、上手に部屋の中へと入ることが出来た。
[上手くいったな。――しかしまあ、燃えただけあって、やはり臭いな]
[そうね、ただ燃えるといっても変な薬品も焼けてるのかも。妙に鼻につくわ]
通信は指輪やスマホを持っていないシエロには聞こえていなかった。
だが視線やジェスチャーだけでも意思疎通はできる。
同じ腕輪で透明になったもの同士は、その姿を見ることが出来たのだ。
[んで、この後はどこに行けばいいんだ?]
[……今探してる]
[そんな行き当たりばったりで大丈夫なのか……?]
[私を誰だと思ってるの? 運の方から私に寄ってくるわ]
確かにテミスの感の良さはバカにできない。
現にここまで来れたのも全て、テミスの感であった。
それを以前から感じていた怜央も変に言い返しにくかった。
[……ああそうかい。それなら早めに頼む]
それから少し歩いていると、突然テミスは手を挙げて止まれ! と指示した。
すると、その瞬間隣のドアが開いて人が出てきた。
怜央達は職員に当たらないよう上手く躱すと、自動扉が閉まる前にテミスが片足を突っ込んだ。
そして異常を検知した扉が再び開く。
[……見つけたわ。ここよ!]
[まじか……?]
中へと入った3人は部品の山に迎えられた。
「まじか……」
そこは倉庫。
いくつかの部屋を居抜きしたかのような、そこそこの広さの部屋にびっしりと奥まで棚が伸びている。
よく見れば箱の中にはパーツや試験武装などが整然と並べられていた。
「テミス、リストを」
「わかってるわ」
テミスはラニング博士から受け取ったリストを取り出すと目を閉じた。
怜央はリストと並んでいる部品を見比べていると、テミスが目を閉じているのに気づいた。
「……テミス? テミスどうし――」
「しっ! 静かに! 今ちょっと集中してるから話しかけないで!」
その気迫に圧された怜央は思わず謝った。
そしてテミスの目が開くと、怜央とシエロに指示した。
「これとこのパーツはあそこのB棚、この大きめのパーツは奥のL棚3段目にあるわ。私はこれとこのパーツを取ってくるからそっちはお願いね」
テミスは怜央の手を離して部品を取りに行った。
「あ、おい! 見つかるぞテミス!」
倉庫内に人の姿は見えないといえ、誰がいつ入ってくるかもわからない。
それを危惧した怜央は引き留めるもテミスは止まらない。
「大丈夫よ、少なくとも私達が集め終わるまで絶対入ってこないから!」
テミスはそう言い残してさっさと奥の方へと行ってしまった。
怜央は頭を掻きながら困惑するも、まあテミスのことだしなんとかなるか……などと、謎の信頼を寄せ始めた。
怜央はシエロにアイコンタクトすると、バラバラに別れてそれぞれがパーツ集めに動いた。
そして不思議なことに、始めて来たはずのテミスが言った場所に、そのパーツと思しきものがあった。
(おいおい、本当にあったよパーツが……。あいつは神か……? いやでもそんな……うーん)
怜央は数々の現象に、テミスの神性を感じずにはいられなかった。
だがそれを認めたくないという気持ちが反発して、結論は煮えきらずにいた。
しばらく考えに考え、今考えることでもないなと冷静に判断した怜央は他のパーツも回収してから入口へと戻った。
「思ってたより量がありますね……。如何いたしましょうか? 流石にこれだけの量となると全て透明化は難しいかと……」
そう、透明化に必要な条件は腕輪の装着者と触れていること。
衣服や少しの携行品程度なら何とかできても、抱えるくらいに大量となると厳しいところがあった。
「そうだな……おっ」
怜央は辺りに視線をやって、大きな箱を見つけるとそれを取ってきた。
「ちょっと詰めるの手伝ってくれ上手く詰めれば詰めるほど、荷物が軽くなる」
シエロとテミスはワケもわからず手伝うと、封をした箱を怜央はアイテムボックスに収納した。
「わあ! すごいです!」
「ちょっと、こんな事ができるなら早く教えなさいよ。というか残りも全てそれに入れて頂戴」
少なくなったとはいえ、パーツはまだまだあった。
「いや、意外とこれ容量が少ないんだ。1つの物体が3つまでしか入れられない。既にみんなの服で1つ、今の荷物で1つ、あと一つももう埋まってる」
「はー……つっかえ」
「そういうな、これで手に持って運べるくらいには少なくなっただろ」
「はい! あとは脱出するだけですね!」
シエロと怜央が荷物を持つと、テミスは腕を組んで妙に立ち尽くしていた。
「どうした?」
「……ねぇ、ちょっとその腕輪貸してもらえないかしら」
「え? ……何に使うの?」
「やり残したことをやるのよ」
「やり残したことって?」
「……」
人に言えないことなのか、テミスは目を泳がせた。
絶対ろくなことに使わないだろうなと踏んだ怜央は断る。
「いや……だめ」
「……なんならそこの廊下でランニングしてきてもいいのよ?」
「ナチュラルに脅すのやめろ」
「まあまあ、夏目様。ここまで来れたのもテミスさんのお陰ですし、良ければ私のをお使い下さい」
シエロは自分の腕輪を取ってテミスに渡した。
「あら、良いのかしら?」
「はい、幸い少なくなった荷物では片手でも持てますから」
そういうとシエロは怜央の手に指を絡めた。
テミスは何か察することもあったようだが声に出すほど無粋ではない。
「ふーん……。そう、ならお言葉に甘えようかしらね」
「あの腕輪、もう帰ってこないと思った方がいいかもしれんぞ?」
「お黙り。――それじゃ、シエロちゃん。有難く借りていくわね」
「はい、テミスさんもお気をつけて」
「……早めに戻ってこいよ」
「ええ。約束はできないけど」
怜央らはテミスと別れると、元来た道を戻り博士邸へと向かった。
◆◇◆
無事、軍の施設を抜け出せた怜央とシエロは、博士邸まであと10分というところまで来ていた。
必要は無いのに未だ手を繋いだままで。
「この部品で彼女、本当に直せるのかな。かなり破損状況が酷かったけど……」
「夏目様がここまでして助けようとしているんです。きっと神様も日頃の行いを鑑みて、助けてくれますよ!」
「はは……そうだといいけど」
そんなことして歩いていると、アリータから通信が入った。
[怜央! 大変よ! 今すぐ戻ってきて!!!]
その声音には普段聞かないアリータの焦りの色が伺えた。
[そんなに慌ててどうした? 今もうそっちに向かってるから、あと10分もしないでそっちに着くぞ]
[そんな呑気にしてる暇ないわよ! 変な集団に家を囲まれてるのよ! もう入ってきそ――]
通信にはガラスの割れる音とコバートの叫び声が聞こえ、そこで途切れた。
[アリータ? アリータ!?]
「やばいシエロ! 今アリータから通信が入って、どうやら家が襲われてるらしい!」
「ええ!? 急ぎましょう夏目様!」
2人は荷物を抱えながらも急いで博士邸に向かった。
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