29 / 69
テミスと2人、ひょんな依頼編
27.口利き
しおりを挟む
密入国のバレたシエロは冷や汗を浮かべた。
見つからない自信もあったし上手くいった確信もあった。
それなのに見つかってしまったのだから、今後の事態を想定してしまうのは仕方のないことだろう。
「お前ここの生徒や無いな? ワシは生徒全員の顔を覚えとるがお前みたいなやつは知らん。ちぃとこっち来いや」
グイッと腕を引っ張る水谷に、シエロは小さな悲鳴を上げた。
そのままどこかへ連れて行こうとする水谷に、怜央は待ったをかける。
「水谷先生! すみません、その子は自分の連れなんです」
シエロばかりに意識が向けられてた水谷は怜央の存在にこの時気付いた。
「おお、坊ちゃんやないですか。なんですか、この娘さんとは一体どういう関係で?」
「えーと、話せば長くなります……」
その後水谷は事情を聞くために、3人を別室へと案内した。
◆◇◆
「異世界から女引っ掛けてくるとは流石坊ちゃんですなぁ」
水谷は豪快に笑っていた。
その様子に緊張感の薄らいだ怜央は訂正した。
「いやだから、ギルドに勧誘しただけですって。――まだ作ってはないですけど」
「いやはや、どっからどう見ても妾やないですかい。夏目学長や若との血は争えませんなぁ」
不安から、ということもあったかはわからないが、シエロはいつもより少しだけ強く怜央の腕に絡みついていた。
その様子を見た水谷がそう思うのも無理はない。
「まあ、本来異世界から許可なく人を連れてくるんは禁止されてることですが、何事にも抜け穴というものはあります。これくらいのことでしたらワシがどうにかこうにかしたりましょう」
その言葉にシエロと怜央は顔を見合わせて思わず笑みを零した。
「「ありがとうございます!」」
「ええんですよ。今回は何者でもない坊ちゃんの頼みですからね――ちょっと吸ってもよろしいですか?」
水谷は懐からタバコを取り出した。
怜央は昔からタバコの匂いというのが好きではなかったのだが、今回ばかりは水谷の世話になっているためノーとは言えなかった。
「ええ、どうぞ」
「坊ちゃんも1本どうです?」
そう言ってタバコを差し出すも、怜央は手を振って断った。
「まだ未成年ですから。気持ちだけ貰っておきます」
「おお、そうでしたな。ですが未成年だから吸えんってのは日本での話でしょう。こっちの世界にはそういった法律はありませんから坊ちゃんの歳で吸っても問題は特にありません。この機会に嗜んでみてはいかがです?」
「んー……」
怜央はすぐさま断るのも失礼だとわざと考える振りをしたが、心の中では答えは決まっていた。
しかしそれを言う前にテミスが物申した。
「ちょっとオッサン。それ臭いやつでしょ?髪に臭い着くからやめてくれないかしら?」
テミスは歯に衣着せぬ物言いで、この状況においても一切遠慮しない。
一瞬ピリッとした雰囲気が漂うも、水谷は大人だ。
タバコを嫌う人を前にむざむざ吸うこともなかった。
「……まっ、ええでしょう。ワシもわざわざ嫌がる人の前で吸うこともないわ。んで、話は戻りますがやはり――ギルドを作ってない現時点では、そちらのシエロはんをギルドメンバーとして登録することもできません。そうなると必然、この世界には居られんのですが……ワシの知り合いがある会社を経営してましてね。そこは学園とも提携している人材派遣の会社『サルヴェイション』ちゅうところです。坊ちゃんの部屋にもお手伝いさんが居るでしょう? それらを派遣してるところです。色々あるんですがまあ、そこで働く人っちゅうんが異世界から連れてきた人なんですわ。なもんでシエロはんをそこで働かせればこちらに居させることができるっちゅう訳です」
「なるほど。しかしそうなるとシエロとは一緒に依頼とかは受けれないんですかね?」
「そこは心配せんでください。ワシの方から話を通して坊ちゃんの部屋で働くようさせときますんで。お手伝いさんらは業務の一環として依頼に同行させることもできますから」
「ただそうなると問題はお金ですよね。1月幾らぐらいかかるんでしょうか」
「なーに、そんなこと。夏目学長には日頃お世話になってましたからそれくらい任せといてください」
「いや、流石にそこまでしてもらうのは悪いですよ」
「ええんですええんです。ここで雇ってもらってから暫く経ちますが、大分金銭的にも余裕がありますから。変な事に使うより余っ程いい使い道ですわ」
怜央は眉を寄せて流石に申し訳ないという念に駆られていたが、水谷は念押しをして気にするなということを伝えてきた。
「そんなに気になるんでしたら出世払いということでも構いませんから。とりあえず今はワシに任せといてください」
「……わかりました。今はお言葉に甘えますが、近いうちに必ず返します」
水谷は頷いて、席を立った。
「それじゃシエロはんをちょっと預かります。手続き済ませたら部屋に戻らせますさかい、後のことはワシに任せといて下さい」
怜央はシエロにアイコンタクトを送ると、シエロは名残惜しそうに腕を解き、水谷の方へと行った。
「また何かあったらワシに言うて下さいよ」
「ええ、ありがとうございます。お願いします」
怜央は一礼して、水谷とシエロを見送った。
見つからない自信もあったし上手くいった確信もあった。
それなのに見つかってしまったのだから、今後の事態を想定してしまうのは仕方のないことだろう。
「お前ここの生徒や無いな? ワシは生徒全員の顔を覚えとるがお前みたいなやつは知らん。ちぃとこっち来いや」
グイッと腕を引っ張る水谷に、シエロは小さな悲鳴を上げた。
そのままどこかへ連れて行こうとする水谷に、怜央は待ったをかける。
「水谷先生! すみません、その子は自分の連れなんです」
シエロばかりに意識が向けられてた水谷は怜央の存在にこの時気付いた。
「おお、坊ちゃんやないですか。なんですか、この娘さんとは一体どういう関係で?」
「えーと、話せば長くなります……」
その後水谷は事情を聞くために、3人を別室へと案内した。
◆◇◆
「異世界から女引っ掛けてくるとは流石坊ちゃんですなぁ」
水谷は豪快に笑っていた。
その様子に緊張感の薄らいだ怜央は訂正した。
「いやだから、ギルドに勧誘しただけですって。――まだ作ってはないですけど」
「いやはや、どっからどう見ても妾やないですかい。夏目学長や若との血は争えませんなぁ」
不安から、ということもあったかはわからないが、シエロはいつもより少しだけ強く怜央の腕に絡みついていた。
その様子を見た水谷がそう思うのも無理はない。
「まあ、本来異世界から許可なく人を連れてくるんは禁止されてることですが、何事にも抜け穴というものはあります。これくらいのことでしたらワシがどうにかこうにかしたりましょう」
その言葉にシエロと怜央は顔を見合わせて思わず笑みを零した。
「「ありがとうございます!」」
「ええんですよ。今回は何者でもない坊ちゃんの頼みですからね――ちょっと吸ってもよろしいですか?」
水谷は懐からタバコを取り出した。
怜央は昔からタバコの匂いというのが好きではなかったのだが、今回ばかりは水谷の世話になっているためノーとは言えなかった。
「ええ、どうぞ」
「坊ちゃんも1本どうです?」
そう言ってタバコを差し出すも、怜央は手を振って断った。
「まだ未成年ですから。気持ちだけ貰っておきます」
「おお、そうでしたな。ですが未成年だから吸えんってのは日本での話でしょう。こっちの世界にはそういった法律はありませんから坊ちゃんの歳で吸っても問題は特にありません。この機会に嗜んでみてはいかがです?」
「んー……」
怜央はすぐさま断るのも失礼だとわざと考える振りをしたが、心の中では答えは決まっていた。
しかしそれを言う前にテミスが物申した。
「ちょっとオッサン。それ臭いやつでしょ?髪に臭い着くからやめてくれないかしら?」
テミスは歯に衣着せぬ物言いで、この状況においても一切遠慮しない。
一瞬ピリッとした雰囲気が漂うも、水谷は大人だ。
タバコを嫌う人を前にむざむざ吸うこともなかった。
「……まっ、ええでしょう。ワシもわざわざ嫌がる人の前で吸うこともないわ。んで、話は戻りますがやはり――ギルドを作ってない現時点では、そちらのシエロはんをギルドメンバーとして登録することもできません。そうなると必然、この世界には居られんのですが……ワシの知り合いがある会社を経営してましてね。そこは学園とも提携している人材派遣の会社『サルヴェイション』ちゅうところです。坊ちゃんの部屋にもお手伝いさんが居るでしょう? それらを派遣してるところです。色々あるんですがまあ、そこで働く人っちゅうんが異世界から連れてきた人なんですわ。なもんでシエロはんをそこで働かせればこちらに居させることができるっちゅう訳です」
「なるほど。しかしそうなるとシエロとは一緒に依頼とかは受けれないんですかね?」
「そこは心配せんでください。ワシの方から話を通して坊ちゃんの部屋で働くようさせときますんで。お手伝いさんらは業務の一環として依頼に同行させることもできますから」
「ただそうなると問題はお金ですよね。1月幾らぐらいかかるんでしょうか」
「なーに、そんなこと。夏目学長には日頃お世話になってましたからそれくらい任せといてください」
「いや、流石にそこまでしてもらうのは悪いですよ」
「ええんですええんです。ここで雇ってもらってから暫く経ちますが、大分金銭的にも余裕がありますから。変な事に使うより余っ程いい使い道ですわ」
怜央は眉を寄せて流石に申し訳ないという念に駆られていたが、水谷は念押しをして気にするなということを伝えてきた。
「そんなに気になるんでしたら出世払いということでも構いませんから。とりあえず今はワシに任せといてください」
「……わかりました。今はお言葉に甘えますが、近いうちに必ず返します」
水谷は頷いて、席を立った。
「それじゃシエロはんをちょっと預かります。手続き済ませたら部屋に戻らせますさかい、後のことはワシに任せといて下さい」
怜央はシエロにアイコンタクトを送ると、シエロは名残惜しそうに腕を解き、水谷の方へと行った。
「また何かあったらワシに言うて下さいよ」
「ええ、ありがとうございます。お願いします」
怜央は一礼して、水谷とシエロを見送った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はサバイバルを経ていかにして最強に至ったか
藤原みけ@雑魚将軍2巻発売中
ファンタジー
小さな村で平凡な日々を過ごしていた少年リオル。11歳の誕生日を迎え、両親に祝われながら幸せに眠りに着いた翌日、目を覚ますと全く知らないジャングルに居た。
そこは人類が滅ぼされ、伝説の霊獣達の住まう地獄のような無人島だった。
次々の襲い来る霊獣達にリオルは絶望しどん底に突き落とされるが、生き残るため戦うことを決意する。だが、現実は最弱のネズミの霊獣にすら敗北して……。
サバイバル生活の中、霊獣によって殺されかけたリオルは理解する。
弱ければ、何も得ることはできないと。
生きるためリオルはやがて力を求め始める。
堅実に努力を重ね少しずつ成長していくなか、やがて仲間(もふもふ?)に出会っていく。
地獄のような島でただの少年はいかにして最強へと至ったのか。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる