異世界の地、七光りの冒険

mikasaball

文字の大きさ
上 下
18 / 69
学園説明会編

16.学長室

しおりを挟む
 学長室があるのは学園北側のクリスタルタワー。
名前の通りガラスがふんだんに用いられた建物である。
そこの最上階こそが学長室であった。

 怜央が扉をノックすると中から「どうぞ」という声が聞こえる。
それに応じて扉を引き開けると、中にはピティオン、ヨハネス、ドロシーの三人がいた。
ピティオンは奥の学長机に、ヨハネスとドロシーはその手前の応接用ソファに対面する形で座っていた。

 流石学長室というべきか、その部屋にある調度品は全て一流。
素人目から見ても高価なものばかりだとわかる。

「やあ。君が怜央君だね? 待っていたよ。ささ、座って座って !」

 ピティオンはヨハネスの隣に移動しながらドロシーの横に座るよう怜央に促した。

「今日は何で呼ばれたかわかるかい?」
「祖父の件……でしょうか?」
「その通り。君のお爺様である夏目煌龍さんはここの学長を務める御方でした。しかし、怜央君が入学する3年ほど前、突如として姿を消した……。私達もあらゆる手を使って探しましたが、なんの成果も得られず今に至ります。肉親である怜央君ならば何か知っているのでは。  ――そう思い、今日お呼びした次第なのです」

 怜央は小さく何度も頷き、相手方の話を理解した旨を示す。
ピティオン、ヨハネス、ドロシーの視線が集まるところからも、怜央から何らかの情報が得られるのではという期待が掛けられてると推測出来た。
しかし、怜央の返事は彼らの期待に沿うものではなかった。

「……なるほど。しかし残念ながら、先生方が求める情報は私ももっていないと思います。なぜなら私は――1度も祖父にあった事がないからです」

ピティオン、ヨハネスは互いに顔を見合わせた。
恐らく2人にとって怜央の発言は予想外だったのだろう。

 そしてピティオンがヨハネスに合図を送ると、スケルトンなタブレットを怜央に差し出してきた。
怜央が手に取ると、煌龍学長についての綿密な捜査資料が表示される。

「なんでもいいんだ……。そこにある情報以外に知っていることがあれば教えて欲しい……」

何時何分どこで煌龍学長が目撃されたか、疾走直前の周囲に話していた会話の内容、居ると推測される世界での調査報告など、ありとあらゆる手を使って探したというのは嘘でないことがわかる。
しかし、それらは全て怜央の知っている情報より勝っているものであり、怜央本人の情報はそれ以下であった。

 また、怜央の知っている情報といえど、基本的には龍雪から聞いた人物像程度。
怜央が言った通り、彼らの求める情報など一切持ってなかった。

「申し訳ありませんが本当に何も……。――あっ、でも手紙は貰いました」

その手紙とやらにピティオン・ヨハネスは食いつく。

「手紙……?  差し支えなければ見せて貰えたりしないかな……」
「ええ、構いませんよ」

すると怜央は目の前に小さな異空間を出現させ、中から手紙を取り出した。

「ほう……アイテムボックス。貴重なものを持ってるんですね」
「ええ、これはその手紙と一緒に龍雪さ……じゃなくて、父から受け取ったんです。祖父からの贈り物だと言ってました」

ピティオンは頷きながら手紙を受け取ると、中身を取り出して読んだ。
その手紙にはこう書かれていた。

――――――
我が孫へ。

君は必ず異世界を選択すると、私は確信していたよ。
さて、そうなると君は私の創った学園に入るのだが、それに際して是非ともやってもらいたいことが4点ある。

1.ギルドを作り、信頼できる仲間を集めること

2.階級は最上位のブラックダイアモンドを目指すこと

3.装備は良いものを揃えておくこと

4.学園生活で不満に思ったこと、改善すべきことがあればメモしておくこと

これは学園で生活する上での心構えの様なものだ。
しっかりと実行すれば、何れは君自身のために、そして何より、私の助けになることは間違いない。
君の学園生活が実り多きものとなるよう祈っている。

PS.晴れて異世界初心者になる君にアイテムを贈ろう。龍雪から受け取りたまえ。

                                                                   夏目煌龍

――――――


読み終わったピティオンらは怜央に尋ねる。

「異世界を選択とあるが……これはどういう?」
「ええ、その時私は高校卒業が目前で、父からある日、ある話を切り出されたんです。このまま大学へ進学するか、それとも異世界に進学するか――と。しかしそれがふざけて言ったものでは無いと分かっていました。私は生まれながらにして異能の力が使えましたから」
「魔力統制――だろ?」

ドロシーは怜央について調査済みだったのか、そう答えた。

「ええ、そうです。ですから異世界という突飛な話も自然と受け入れることが出来ました」
「そうだな……。僕達は異世界があると当たり前のように理解しているが、異世界全体ではその概念すら知らない者の方が多い……」
「私の世界もその1つです。科学は発展していましたが、魔法などは空想上の存在とされていました。一応異世界という概念も近年皆の知るところとなってきましたが、心の底から信じる者はほとんど居ません」
「――そんな世界において怜央君は特別な力を使えた……。」
「そうです。幼い頃から色々考えることも多く……結局、私にとって前の世界は息苦しかったんです。でもここなら、能力ちからを隠さないでもいいんだと――自分らしく生きれるんだと考えたらやはり、来ないという選択はありませんでしたね」

 ピティオン、ヨハネスは前のめりの姿勢を変えて、背もたれに深く寄りかかった。
ドロシーは変わらず手と足を組んでいる。

「なるほど、わかりました。――ではもしまた、学長に関することで思い出すようなことがあれば教えてください。今日はわざわざありがとうございました」
「いえ、とんでもないです」
「学園生活で何かわからなかったり、困ったことがあればいつでも聞きに来るといい……」
「そう。僕らは皆、怜央君のお爺様には大変お世話になったからね。気軽に遊びに来ても全然構わないよ!」
「はは、流石にそれはちょっと」
「いいのいいの。本当に、遠慮しないでね。いつでも力になるから!」
「……ありがとうございます!」

ピティオン、ヨハネスの暖かい人柄に、いい人であると気を許した怜央。

「ついでに言うと……科学学部は良いところだよ。君が選んでくれれば嬉しいな」
「こら。学部は生徒が決めることだ、変に勧誘するな」

ヨハネスの勧誘にドロシーは待ったをかける。
立ち上がった怜央は苦笑いをして失礼の無いように返す。

「考えて起きます」
「是非そうしてくれたまえ……」
「……それでは私は怜央君を見送ってきます」
「ええ、お願いします」

しかし、目上の人にそんなことさせるのも悪いと思った怜央はやんわりと断りを入れる。

「あっ、見送りなんてそんな。大丈夫ですよ」

しかしドロシーは譲らない。

「遠慮するな。ほら、行くぞ」

怜央の肩を押してやや強引に部屋から追い出すドロシー。
怜央は挨拶をして学長室を後にした。

残された2人はしばしの沈黙の後、ピティオンがヨハネスに命令した。

「……絶対に目を離さないよう、そちらの方でもお願いしますね」


ピティオンは白衣のポケットにタブレットを仕舞いこみ、端的に答える。

「……勿論です」

と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はサバイバルを経ていかにして最強に至ったか

藤原みけ@雑魚将軍2巻発売中
ファンタジー
小さな村で平凡な日々を過ごしていた少年リオル。11歳の誕生日を迎え、両親に祝われながら幸せに眠りに着いた翌日、目を覚ますと全く知らないジャングルに居た。 そこは人類が滅ぼされ、伝説の霊獣達の住まう地獄のような無人島だった。 次々の襲い来る霊獣達にリオルは絶望しどん底に突き落とされるが、生き残るため戦うことを決意する。だが、現実は最弱のネズミの霊獣にすら敗北して……。 サバイバル生活の中、霊獣によって殺されかけたリオルは理解する。 弱ければ、何も得ることはできないと。 生きるためリオルはやがて力を求め始める。 堅実に努力を重ね少しずつ成長していくなか、やがて仲間(もふもふ?)に出会っていく。 地獄のような島でただの少年はいかにして最強へと至ったのか。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...