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3章
八岐
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「さて、それでは皆様話合いを始めて下さい」
夜が明けました。まるで人狼ゲームの様にそう言う。
「本日の議題は現れた使徒についてです」
顔色を伺う様に、そう言う。
「使徒……と言ったかね?」
闇の中から返事が返って来る。
老人の声だ。この手の老人はどうもリスクを認めたがらない傾向が強い。
不思議に思う。彼等は何故リスクをこうも恐るのか?薬はあんなに有り難がるのに、リスクは何故?
「はい。確かにそ言いました」
辟易とした内心を悟られない様に司会を勤める男はそう言った。
「那須太一だっけ?」
今度は若い声が闇から返って来る。
「はい。というのも彼_____榮倉の殺害を彼が行った事による議題です」
「そんな事資料を読めば分かるよ」
生意気だ。男はそう思った。
「君のミスじゃないのかね?」
今度は彼を糾弾しようとする声が挙がる。
全く、勘弁して欲しいものだ。今は男の不手際を責め立てる場ではないのに…… 男はそんな事を思った。
「彼が本当に使徒であるとすれば____それは最早事故の様なものです」
本当はそうなのだけれど。まあ、これも戯言か。
用意した、厳密には彼女から押し付けられた背広を窮屈に思いながら彼はセンチメンタリズムに囚われる。
「でもさ、本当に彼が使徒なら君の上司に動いてもらうより他ならないんだけど」
生意気な声がそう言った。
彼女は彼の背広姿をみて似合っていると言っていたが、本当に自分に似合っているのだろうか?
榮倉凪。彼の後釜として自分はその責務を果たしているのだろうか?
戯言だ。男はそう嗤う。
「邪魔者の排除は承りました」
精一杯の皮肉を込めて男はそう言った。
暗闇の中にいる寝間着が似合いそうな生意気な声に向かってそう応えた。
「そう、怒るなよ」
その後には特に当たり障りのない美辞麗句が並べられた。
「どうだった?会議」
単刀直入に、藪から棒に彼女はそう聞いた。
普段は管制塔の様な室内は陽気な彼女の妖気に当てられている。
「大変でしたよ」
窮屈な背広を振り払う様にして彼はそう愚痴を零す。
「あら、楽しいだけの仕事なんてこの世にはないのよ?」
いつの間に入り込んだのだろうか、彼女は男の胸元にまで迫っていた。
「じゃあ、あの世にでも行きますよ」
その細い指先で擦る様に彼の胸元を手繰り寄せて来る。
それを振り払う様に、誤魔化す様に男は、戯言を吐く。
「逝ってらっしゃい」
ワンテンポ遅れた上司の挨拶に男は不機嫌になったのかソッポを向いた。
「あら、私はここに居るのよ?」
柳に風。彼女はそう頓珍漢に言った。
「ハァ……名は体を表すとは良く言ったものですよ」
「柳凪さん」
男はそう言う。といっても、彼女の前ではどんな強風であろうと循環されるのだろうけれど。
「私、あんまりその名前好きじゃないのよ」
「ピッタリですよ。百万円あげたい位に」
「あら、私生憎だけれど味覚には自信があるのよ」
彼女はその背後に滴る肉塊の血を端目にそう言う。
洒落にならない、な。男はそう思い、今更ながらその鉄くさい匂いに鼻を曲げる。
「嘘つけ!そんな人ならキチンと後片付け位しておいて下さいよ!貴女は料理に感動しないから感謝しないんだ!」
段々と慣れていく自身の嗅覚の残酷さと彼女の食意地の悪さに憤りを感じながらそう言う。
「それで、副賞は何かしら?」
「本家でもそんなの出ませんよ!」
暖簾に風押し。といっても自分が店を預かるのならば彼女だけには暖簾を押して貰いたくはない、そう彼は真剣に考える。
「そうね。私は貴方と一緒に暖簾を掛ける側だものね」
からかう様に彼女は指をそっと彼の胸元から離しそれから指を彼の唇に当ててそう言う。
「ふ……」
嘘だ!男はそうとんでもないものを発見したかの様に叫ぶ。
声にならない声で。
「お口はチャックして」
男は詐欺師だ。彼女のこの言動がただ彼をからかう為のものである事は早々にして気が付いていた。
「これで暖簾分け」
指をそっと持ち上げてそのまま自分の唇に当てて彼女は妖艶にそう言う。
「じゃあ、今度は其方が行って下さいよ」
不機嫌にそう言う。
「あら、貴方が暖簾分けした方じゃなくて?」
「生憎、この指は貴方の唇よりも先に私のものですからね」
そんな事を本気にして言うもんだから仕方がない。
詐欺師も嘘には弱いのだ。
「じゃあ行って来ますよ」
彼としても事実そちらの方が都合が良いのでそう行って去ろうとした矢先、
「ああ、それと。イッテラッシャイ_____神鷹慶照。」
彼女は呼び止める様にそう言う。
「総合思念体ってもんは全く面倒ですね」
洞ヶ峠を決め込んだ柳の姿を見つめて彼、神鷹はそう言う。
「どれか一つに絞って貰いたいもんですよ」
あの連中も、アナタ方も‘。
「ほら、彼を取り逃がすと元の木阿弥だよ」
またしてもそう言う彼女の姿を捉えて、今度こそ神鷹は言った。
「いってきます」と。
夜が明けました。まるで人狼ゲームの様にそう言う。
「本日の議題は現れた使徒についてです」
顔色を伺う様に、そう言う。
「使徒……と言ったかね?」
闇の中から返事が返って来る。
老人の声だ。この手の老人はどうもリスクを認めたがらない傾向が強い。
不思議に思う。彼等は何故リスクをこうも恐るのか?薬はあんなに有り難がるのに、リスクは何故?
「はい。確かにそ言いました」
辟易とした内心を悟られない様に司会を勤める男はそう言った。
「那須太一だっけ?」
今度は若い声が闇から返って来る。
「はい。というのも彼_____榮倉の殺害を彼が行った事による議題です」
「そんな事資料を読めば分かるよ」
生意気だ。男はそう思った。
「君のミスじゃないのかね?」
今度は彼を糾弾しようとする声が挙がる。
全く、勘弁して欲しいものだ。今は男の不手際を責め立てる場ではないのに…… 男はそんな事を思った。
「彼が本当に使徒であるとすれば____それは最早事故の様なものです」
本当はそうなのだけれど。まあ、これも戯言か。
用意した、厳密には彼女から押し付けられた背広を窮屈に思いながら彼はセンチメンタリズムに囚われる。
「でもさ、本当に彼が使徒なら君の上司に動いてもらうより他ならないんだけど」
生意気な声がそう言った。
彼女は彼の背広姿をみて似合っていると言っていたが、本当に自分に似合っているのだろうか?
榮倉凪。彼の後釜として自分はその責務を果たしているのだろうか?
戯言だ。男はそう嗤う。
「邪魔者の排除は承りました」
精一杯の皮肉を込めて男はそう言った。
暗闇の中にいる寝間着が似合いそうな生意気な声に向かってそう応えた。
「そう、怒るなよ」
その後には特に当たり障りのない美辞麗句が並べられた。
「どうだった?会議」
単刀直入に、藪から棒に彼女はそう聞いた。
普段は管制塔の様な室内は陽気な彼女の妖気に当てられている。
「大変でしたよ」
窮屈な背広を振り払う様にして彼はそう愚痴を零す。
「あら、楽しいだけの仕事なんてこの世にはないのよ?」
いつの間に入り込んだのだろうか、彼女は男の胸元にまで迫っていた。
「じゃあ、あの世にでも行きますよ」
その細い指先で擦る様に彼の胸元を手繰り寄せて来る。
それを振り払う様に、誤魔化す様に男は、戯言を吐く。
「逝ってらっしゃい」
ワンテンポ遅れた上司の挨拶に男は不機嫌になったのかソッポを向いた。
「あら、私はここに居るのよ?」
柳に風。彼女はそう頓珍漢に言った。
「ハァ……名は体を表すとは良く言ったものですよ」
「柳凪さん」
男はそう言う。といっても、彼女の前ではどんな強風であろうと循環されるのだろうけれど。
「私、あんまりその名前好きじゃないのよ」
「ピッタリですよ。百万円あげたい位に」
「あら、私生憎だけれど味覚には自信があるのよ」
彼女はその背後に滴る肉塊の血を端目にそう言う。
洒落にならない、な。男はそう思い、今更ながらその鉄くさい匂いに鼻を曲げる。
「嘘つけ!そんな人ならキチンと後片付け位しておいて下さいよ!貴女は料理に感動しないから感謝しないんだ!」
段々と慣れていく自身の嗅覚の残酷さと彼女の食意地の悪さに憤りを感じながらそう言う。
「それで、副賞は何かしら?」
「本家でもそんなの出ませんよ!」
暖簾に風押し。といっても自分が店を預かるのならば彼女だけには暖簾を押して貰いたくはない、そう彼は真剣に考える。
「そうね。私は貴方と一緒に暖簾を掛ける側だものね」
からかう様に彼女は指をそっと彼の胸元から離しそれから指を彼の唇に当ててそう言う。
「ふ……」
嘘だ!男はそうとんでもないものを発見したかの様に叫ぶ。
声にならない声で。
「お口はチャックして」
男は詐欺師だ。彼女のこの言動がただ彼をからかう為のものである事は早々にして気が付いていた。
「これで暖簾分け」
指をそっと持ち上げてそのまま自分の唇に当てて彼女は妖艶にそう言う。
「じゃあ、今度は其方が行って下さいよ」
不機嫌にそう言う。
「あら、貴方が暖簾分けした方じゃなくて?」
「生憎、この指は貴方の唇よりも先に私のものですからね」
そんな事を本気にして言うもんだから仕方がない。
詐欺師も嘘には弱いのだ。
「じゃあ行って来ますよ」
彼としても事実そちらの方が都合が良いのでそう行って去ろうとした矢先、
「ああ、それと。イッテラッシャイ_____神鷹慶照。」
彼女は呼び止める様にそう言う。
「総合思念体ってもんは全く面倒ですね」
洞ヶ峠を決め込んだ柳の姿を見つめて彼、神鷹はそう言う。
「どれか一つに絞って貰いたいもんですよ」
あの連中も、アナタ方も‘。
「ほら、彼を取り逃がすと元の木阿弥だよ」
またしてもそう言う彼女の姿を捉えて、今度こそ神鷹は言った。
「いってきます」と。
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