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2章
追撃者
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「……やはりか。」
荒廃した地に足を踏み入れ、男はそう言った。
「どうやら実験は失敗したらしいな……」
そう言って、男は更に奥まで進もうとしたとき、
「なんだこんな時に……」
電話の呼び出し音が彼のコートのポケットから鳴る。
「そちらの具合はどうかね?」
くぐもった老人の声が電話の向こう側から聴こえて来る。
「高橋美沙の研究所は破壊されています……恐らく再起は不可能かと。」
辺りを見回しながら男はそう言った。
「そうか……やはり彼女は、高橋美沙は死んだのだね。」
「はい、この崩壊ぶりですと…既に。」
沈黙が流れる。
「君はそのまま研究データを探しなさい。」
「はい、了解しました。」
「ではよろしく頼んだよ、榮倉くん。」
榮倉と呼ばれた男は床に転がった高橋美沙の遺体をまじまじと見つめながらそう言って通信を断った。
「いやいやこうして見ると君も中々、美人じゃないか。」
榮倉は冷たくなった高橋に対してそう嬉々として言った。
「僕は以前から君に興味を抱いていたんだよ。」
ソレを榮倉は弄るように触る。
「……同じ学者としても、学者としてもねッ。」
彼女の体をなおも弄る。その度に彼女の尊厳は損なわれて行くのであった。
「これが……君の全てカイ?」
全身を検査、もとい弄り終えた所で彼はデータをその指でつまんで見ながらそう言った。
「そろそろ行かないと……」
名残惜しそうに彼はそう言うと、彼女の元に更に近づき、
「ああ、これが君の体か……質感は人間のソレと変わらないんだね……ああああ、味も変わらないのかッ。」
彼はそう言って彼女の腕を、指を舐め回し始める。
「ああ、なんて……なんて精巧な人形なんだね君はッ。」
彼はそう言って彼女の腕を舐め回しながら天を仰ぐ。
「君の肉は一体どんな味がするんだい?」
白目を向いてたどたどしい発音で彼はそう言って、ソレの肉を噛む。
「ああ、そうだ。そろそろ回収しないとね。君の、僕の大事なモルモットをッ。」
口の周りを血で滴らせながら、榮倉はその顔を上げた。
「君は……そこかッ。」
どこもともない方向を見て彼はそう言った。
「でも……彼女の研究室をまづは探さないと……」
そう言って彼は勃ち上がると、かつて彼女が、高橋美沙が拠点としていた領域の前へと向かう。
「ここか。」
そこには崩壊した瓦礫の山と、扉だけが厳粛と立っている厳重とは名ばかりの部屋があった。
榮倉は扉を開けて中に入る。
「全員死んでるじゃないか。」
そのセリフに似合わず、なんともつまらなそうに、彼はそう言った。
そこには大量のカプセルが並んでいた。
カプセルの中にはもう胸の鼓動を刻む事なく、沈んだ生物が入っていた。
「ああ、なんてもったいないんだろう。」
周囲を歩きながら榮倉はそう呟いた。
「安心して欲しいッ。僕が、学者としての君と、実験動物としての君を、必ず代わりに完成させてあげるからねッ。」
男女一対のホムンクルスを恍惚として見上げながら、男はそう言うのであった。
「さて、一体僕はどちらに向かおうか?」
ルーレットを回すかの様な様子で男はそこに佇んで考え込む。
しばらく後、
「よし、近い方から回収しよう。」
顔を上げて彼は眼鏡を人差し指で上げながら、そう言った。
***
「何かが…こっちに来るッ。」
彼はそう言って周囲を見回す。
「君はここから離れるんだッ。」
そう言う男の怒号が飛ぶ。彼は走った。とにかく走って行った。
こちらに向かって来るソレを迎えうつため、彼女から離れる為に。
待って、そう言う彼女の小さな声が聞こえる。
「いいか、君はここから離れるんだ。」
彼はそう言って駆けて彼方に消えて行った。
荒廃した地に足を踏み入れ、男はそう言った。
「どうやら実験は失敗したらしいな……」
そう言って、男は更に奥まで進もうとしたとき、
「なんだこんな時に……」
電話の呼び出し音が彼のコートのポケットから鳴る。
「そちらの具合はどうかね?」
くぐもった老人の声が電話の向こう側から聴こえて来る。
「高橋美沙の研究所は破壊されています……恐らく再起は不可能かと。」
辺りを見回しながら男はそう言った。
「そうか……やはり彼女は、高橋美沙は死んだのだね。」
「はい、この崩壊ぶりですと…既に。」
沈黙が流れる。
「君はそのまま研究データを探しなさい。」
「はい、了解しました。」
「ではよろしく頼んだよ、榮倉くん。」
榮倉と呼ばれた男は床に転がった高橋美沙の遺体をまじまじと見つめながらそう言って通信を断った。
「いやいやこうして見ると君も中々、美人じゃないか。」
榮倉は冷たくなった高橋に対してそう嬉々として言った。
「僕は以前から君に興味を抱いていたんだよ。」
ソレを榮倉は弄るように触る。
「……同じ学者としても、学者としてもねッ。」
彼女の体をなおも弄る。その度に彼女の尊厳は損なわれて行くのであった。
「これが……君の全てカイ?」
全身を検査、もとい弄り終えた所で彼はデータをその指でつまんで見ながらそう言った。
「そろそろ行かないと……」
名残惜しそうに彼はそう言うと、彼女の元に更に近づき、
「ああ、これが君の体か……質感は人間のソレと変わらないんだね……ああああ、味も変わらないのかッ。」
彼はそう言って彼女の腕を、指を舐め回し始める。
「ああ、なんて……なんて精巧な人形なんだね君はッ。」
彼はそう言って彼女の腕を舐め回しながら天を仰ぐ。
「君の肉は一体どんな味がするんだい?」
白目を向いてたどたどしい発音で彼はそう言って、ソレの肉を噛む。
「ああ、そうだ。そろそろ回収しないとね。君の、僕の大事なモルモットをッ。」
口の周りを血で滴らせながら、榮倉はその顔を上げた。
「君は……そこかッ。」
どこもともない方向を見て彼はそう言った。
「でも……彼女の研究室をまづは探さないと……」
そう言って彼は勃ち上がると、かつて彼女が、高橋美沙が拠点としていた領域の前へと向かう。
「ここか。」
そこには崩壊した瓦礫の山と、扉だけが厳粛と立っている厳重とは名ばかりの部屋があった。
榮倉は扉を開けて中に入る。
「全員死んでるじゃないか。」
そのセリフに似合わず、なんともつまらなそうに、彼はそう言った。
そこには大量のカプセルが並んでいた。
カプセルの中にはもう胸の鼓動を刻む事なく、沈んだ生物が入っていた。
「ああ、なんてもったいないんだろう。」
周囲を歩きながら榮倉はそう呟いた。
「安心して欲しいッ。僕が、学者としての君と、実験動物としての君を、必ず代わりに完成させてあげるからねッ。」
男女一対のホムンクルスを恍惚として見上げながら、男はそう言うのであった。
「さて、一体僕はどちらに向かおうか?」
ルーレットを回すかの様な様子で男はそこに佇んで考え込む。
しばらく後、
「よし、近い方から回収しよう。」
顔を上げて彼は眼鏡を人差し指で上げながら、そう言った。
***
「何かが…こっちに来るッ。」
彼はそう言って周囲を見回す。
「君はここから離れるんだッ。」
そう言う男の怒号が飛ぶ。彼は走った。とにかく走って行った。
こちらに向かって来るソレを迎えうつため、彼女から離れる為に。
待って、そう言う彼女の小さな声が聞こえる。
「いいか、君はここから離れるんだ。」
彼はそう言って駆けて彼方に消えて行った。
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