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2章

魔人

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「失礼ですが、お客様には拒否権が無いのです。」

六花にとって凛奈をおさえられている現状において、確かに彼女の言う通り六花に拒否権はなかった。例え、六花がその実験をどう考えようとも。

「では、お客様。まず、お身体を調べます。」

グレートヒェンはそう言うと、強引に六花に迫って来た。

「ちょ、ちょっと待てよ。」

「?何ですか、お客様。」

「つまり、その実験が成功した時もう死んでるんだな。」

彼女の言う通りならば、六花もまた、“サタン”と同じように魔力マナを生命源としていると考えられるのだ。

「はい、お客様。その可能性は十分に考えられます。」

全く意地の悪い話だ。高橋美沙は六花が死ぬ恐れがあるのにも関わらず、凛奈を人質としたのである。

「まあ、しょうがない。俺の命で何か守れるのなら、お得って考えるべきなんだろうな。」

六花はそう言って、自虐的に笑った。芽生のいない世界___その世界で生きることに六花はもう疲れてしまっていた。

「もう 覚悟はよろしいでしょうか、お客様?」

「ああ。もう覚悟はついたぜ。さあ、実験を始めよう。」

六花ははやく死にたいと思っていた。

「了解致しました、お客様。」

そう言って彼女は六花に拘束具を取り付ける。

「少々、痛みますが堪えて下さいお客様。」

そう言って彼女は隣にあるバイタルに何か入力する。

___痛い。
六花を強烈な痛みが襲う。麻酔をかけられずに、内臓をえぐり取られるような痛み。

「ぐはァ。」

「お客様、もう少しの辛抱ですよ。今、お客様の魔力マナを解析しておりますので。」

六花の体が悲鳴をあげる。

「お客様?しっかりして下さい。」

意識が朦朧とする。

「お客様?お客……」

「ハッ。」

六花は目を覚ますとそこにはグレートヒェンが、変わらぬ様子で立っていた。

「お気ずきになりましたか、お客様。」

「ああ、あれからどれくらいたった?」

「十分程です、お客様。」

なんという残酷な話だろうか。

「嘘だ…ろ?」

六花は自分でも長い間意識が飛んでいるような予感がした。否、魔力マナがそれを六花に教えていた。

「いいえ、本当の事ですお客様。しかし、今回のスキャンでお客様と魔力マナの関係が明確なものとなりました。お客様にとって魔力マナは神経のようなものであると分かりました。」

だからだろうか。六花は気絶していたのにも関わらず、このように自分が気絶していた事を理解しており、それが長時間続いたと勘違いしたのである。

「これは非常に大きな発見ですよ、お客様。魔力マナとは、埋め込むことでなくても、移植可能であることが証明されたのです。」

そう言ってグレートヒェンは興奮していた。

「で、俺の魔力マナを移植すれば人を不死身にすることが可能なんだな?」

「はい、お客様。しかし、お客様だけの魔力マナを変換している神経のようなものを移植するがだけでは、出来て人一人をやっと不死身に出来る程でしかありません。」

強欲にも彼女はそう言った。

「じゃあ、どうするって言うんだ?」

「ここに来て役に立つのがホムンクルスですよ、お客様。」

「て言うと、俺を大量生産するってことなのか?」

「はい、お客様。」

六花が自分が自動車工場でつくられる自動車のように無数に並んでいる姿を想像してゾッとした。

「ですが、お客様の場合、生産するのはその例の神経のようなもののみですが。ご不満ですか?」

六花のその様な態度をみて少し方向のずれた回答をするグレートヒェン。

「ああ、少し気が楽になったよ。」

六花は自分の代わりに並ぶ神経を想像した。

「では、この神経の様なものは魔力回路として高橋に報告しておきますね。」

___高橋美沙。
その名を聞いて六花は凛奈が人質とされていることを思い出した。

「気絶していた時間が十分で良かったぜ。」

六花は自分が十分しか気絶していなかったこと、研究が進んだ事に対して安堵を覚えていた。彼にとって、悠久に感じられた時間を実際は短かった事に感謝していた。

「お客様、今日はここまでにしましょう。」

「な?おい、ちょっと待てよ。早く研究結果が欲しいって言ったのはお前達だろ?俺はまだやれるぞ。」

六花は焦った様にそう言った。

「お客様、ひどくお疲れの様です。今日はどうかお休み下さい。」

「なんでだよ?俺は……」

六花は茫然とした。

「どうか、死に急がないで…下さい。」

瞳を潤わせた少女がそこには立っていた。

「おい…ちょっと待てよ……」

六花は彼女を呼び止めるが彼女はそのまま消えていってしまった。

「クソォ!」

六花は六花以外誰も居ない部屋の中でそう叫んだ。グレートヒェンに六花が凛奈を守りたいという偽善を盾にとり、死に急いでいる事を見抜かれたことが、彼女があの様に涙を流していたことが、六花にとって堪らなく恥ずかしく、そして嬉しく

「あんな顔、出来るのかよ……」

六花は孤独の中でそう掠れた声で呟いた。
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