2 / 19
呪いの発現編
2、魔法剣士の男
しおりを挟む
『君が――ミューさん?』
「えっ――!?」
突然、声をかけてきた男の声に、ジョッキに視線を落としていたミューは、顔を上げた。
声の主は、黒髪の穏やかな笑みを浮かべた若い男。
剣を腰に差し、軽鎧を着ていることから、冒険者のようだった。
「あっ、えっと、あのあのぉ……っ!?」
いきなり声をかけられ、驚きに顔を赤くし、両手をバタバタと忙しなく動かす。
「驚かせてごめんね、俺の名前はユーリ。魔法剣士の冒険者。君、仲間を探してるんだよね? ローザさんから話しは聞いたよ。良かったら――俺と組まない?」
「……え、えぇっ!?」
驚きに、ミューは目を見開く。
彼女はユーリと名乗った男の顔を確認し、話に出てきた女主人のローザへと、交互に視線を向ける。
席から遠くにあるカウンターで、客の応対を終えたローザは、ミューの視線に気づいたのか、こちらを向いた。
そして、意志の強さを感じさせる勝気な顔で、ニィっと笑うと、右手の親指を立てる。
頑張れよ、と応援してくれていた。
それを見た、ミューは表情を輝かす。
瞳を潤ませ、両手の指を組み、感極まりながら立ち上がった。
「よ、よよよっ、よろしくお願いしましゅっ!!」
――こうして、一組のパーティーが誕生する。
何故、この二人が組むことになったのか。
ユーリはこれまでの出来事を、思い返す――。
*
ユーリは、若くして優秀な魔法剣士だった。
冒険者になって三年。
その間に、数多くの依頼をこなし、依頼の失敗はひとつもない。
凄腕と評判だった。
他の冒険者とも多く仕事をこなし、順風満帆だった彼の人生だったが、問題が起きる。
組んでいたパーティー内で、痴情のもつれによる人間関係の泥沼に、巻き込まれたのだ。
ユーリを含め、パーティーは全員で六人。
男女それぞれのカップルが二組と、ユーリと、もう一人の女冒険者の構成だ。
そのカップル二組の間で、浮気があったらしく、いさかいが起きた。
ユーリと、もう一人の女冒険者が間に入り、その場は何とか治まったが、問題はその後。
モンスターとの戦闘中にかこつけて、浮気相手を亡き者にしようとし始めたのだ。
魔法や弓矢による誤射、知っておきながら、故意に罠を踏ませようとしたりなど、パーティー全体が危険に晒される行為が始まった。
無論、収拾に当たったユーリともう一人の女冒険者だったが、頭に血の上った四人は聞き入れるはずもなく、このままでは危険だと、パーティーを解散することとなったのだ。
その後のカップル二組がどうなったのかを、ユーリは知らない。
彼と一緒に冒険していた女性は、別のパーティーに誘われたようだった。
それ以来、人間関係でのストレスから逃げるように、ユーリは一人で冒険者として働く日々を送る。
他者がいない冒険は、意外と上手くいってはいるものの、問題点も見えてきた。
先ず、彼が強力な魔法や身体強化、解呪や解毒が出来ないこと。
彼はある程度の魔法は使える位には器用だが、プロフェッショナルではない。
それ故、頑丈な肉体を持つモンスターとの戦闘では、威力の高い魔法がないため、苦戦を強いられた。
他にも、敵からかけられる強力な呪いに対しては、無力であること。
ある程度のレベルまでであれば、アイテムを用いて解呪や解毒が出来るが、それ以上のものであった場合、彼の力ではどうしようもない。
と、このような冒険を送る上での課題が、頭を悩ませた。
だが、それだけではない。
何より――彼は寂しかった。
これまでの冒険では、常に仲間に囲まれ、賑やかな雰囲気での旅や食事をしてきた。
それがなくなった途端、孤独が彼を襲ったのだ。
気楽とはいえ、いつも独りでいるということは、冒険の途中では気を抜くことが出来ない。
背中を預けられる存在がいるということの、安心感。
そういったものが消え去り、仕事は達成出来ても、何処かしら満たされない日々を送っていた。
(――信頼出来る仲間が、欲しい)
そのような思いから、当時の彼は、懇意にしていた酒場の主人、ローザに相談を持ち掛けることにした――。
「えっ――!?」
突然、声をかけてきた男の声に、ジョッキに視線を落としていたミューは、顔を上げた。
声の主は、黒髪の穏やかな笑みを浮かべた若い男。
剣を腰に差し、軽鎧を着ていることから、冒険者のようだった。
「あっ、えっと、あのあのぉ……っ!?」
いきなり声をかけられ、驚きに顔を赤くし、両手をバタバタと忙しなく動かす。
「驚かせてごめんね、俺の名前はユーリ。魔法剣士の冒険者。君、仲間を探してるんだよね? ローザさんから話しは聞いたよ。良かったら――俺と組まない?」
「……え、えぇっ!?」
驚きに、ミューは目を見開く。
彼女はユーリと名乗った男の顔を確認し、話に出てきた女主人のローザへと、交互に視線を向ける。
席から遠くにあるカウンターで、客の応対を終えたローザは、ミューの視線に気づいたのか、こちらを向いた。
そして、意志の強さを感じさせる勝気な顔で、ニィっと笑うと、右手の親指を立てる。
頑張れよ、と応援してくれていた。
それを見た、ミューは表情を輝かす。
瞳を潤ませ、両手の指を組み、感極まりながら立ち上がった。
「よ、よよよっ、よろしくお願いしましゅっ!!」
――こうして、一組のパーティーが誕生する。
何故、この二人が組むことになったのか。
ユーリはこれまでの出来事を、思い返す――。
*
ユーリは、若くして優秀な魔法剣士だった。
冒険者になって三年。
その間に、数多くの依頼をこなし、依頼の失敗はひとつもない。
凄腕と評判だった。
他の冒険者とも多く仕事をこなし、順風満帆だった彼の人生だったが、問題が起きる。
組んでいたパーティー内で、痴情のもつれによる人間関係の泥沼に、巻き込まれたのだ。
ユーリを含め、パーティーは全員で六人。
男女それぞれのカップルが二組と、ユーリと、もう一人の女冒険者の構成だ。
そのカップル二組の間で、浮気があったらしく、いさかいが起きた。
ユーリと、もう一人の女冒険者が間に入り、その場は何とか治まったが、問題はその後。
モンスターとの戦闘中にかこつけて、浮気相手を亡き者にしようとし始めたのだ。
魔法や弓矢による誤射、知っておきながら、故意に罠を踏ませようとしたりなど、パーティー全体が危険に晒される行為が始まった。
無論、収拾に当たったユーリともう一人の女冒険者だったが、頭に血の上った四人は聞き入れるはずもなく、このままでは危険だと、パーティーを解散することとなったのだ。
その後のカップル二組がどうなったのかを、ユーリは知らない。
彼と一緒に冒険していた女性は、別のパーティーに誘われたようだった。
それ以来、人間関係でのストレスから逃げるように、ユーリは一人で冒険者として働く日々を送る。
他者がいない冒険は、意外と上手くいってはいるものの、問題点も見えてきた。
先ず、彼が強力な魔法や身体強化、解呪や解毒が出来ないこと。
彼はある程度の魔法は使える位には器用だが、プロフェッショナルではない。
それ故、頑丈な肉体を持つモンスターとの戦闘では、威力の高い魔法がないため、苦戦を強いられた。
他にも、敵からかけられる強力な呪いに対しては、無力であること。
ある程度のレベルまでであれば、アイテムを用いて解呪や解毒が出来るが、それ以上のものであった場合、彼の力ではどうしようもない。
と、このような冒険を送る上での課題が、頭を悩ませた。
だが、それだけではない。
何より――彼は寂しかった。
これまでの冒険では、常に仲間に囲まれ、賑やかな雰囲気での旅や食事をしてきた。
それがなくなった途端、孤独が彼を襲ったのだ。
気楽とはいえ、いつも独りでいるということは、冒険の途中では気を抜くことが出来ない。
背中を預けられる存在がいるということの、安心感。
そういったものが消え去り、仕事は達成出来ても、何処かしら満たされない日々を送っていた。
(――信頼出来る仲間が、欲しい)
そのような思いから、当時の彼は、懇意にしていた酒場の主人、ローザに相談を持ち掛けることにした――。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる