【R-18】呪いを解かない神官ちゃん

右折坊太郎

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呪いの発現編

2、魔法剣士の男

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『君が――ミューさん?』
「えっ――!?」

 突然、声をかけてきた男の声に、ジョッキに視線を落としていたミューは、顔を上げた。

 声の主は、黒髪の穏やかな笑みを浮かべた若い男。
 剣を腰に差し、軽鎧を着ていることから、冒険者のようだった。

「あっ、えっと、あのあのぉ……っ!?」
 いきなり声をかけられ、驚きに顔を赤くし、両手をバタバタと忙しなく動かす。

「驚かせてごめんね、俺の名前はユーリ。魔法剣士の冒険者。君、仲間を探してるんだよね? ローザさんから話しは聞いたよ。良かったら――俺と組まない?」
「……え、えぇっ!?」

 驚きに、ミューは目を見開く。
 彼女はユーリと名乗った男の顔を確認し、話に出てきた女主人のローザへと、交互に視線を向ける。

 席から遠くにあるカウンターで、客の応対を終えたローザは、ミューの視線に気づいたのか、こちらを向いた。

 そして、意志の強さを感じさせる勝気な顔で、ニィっと笑うと、右手の親指を立てる。

 頑張れよ、と応援してくれていた。

 それを見た、ミューは表情を輝かす。
 瞳を潤ませ、両手の指を組み、感極まりながら立ち上がった。

「よ、よよよっ、よろしくお願いしましゅっ!!」

 ――こうして、一組のパーティーが誕生する。

 何故、この二人が組むことになったのか。

 ユーリはこれまでの出来事を、思い返す――。



 ユーリは、若くして優秀な魔法剣士だった。

 冒険者になって三年。
 その間に、数多くの依頼をこなし、依頼の失敗はひとつもない。

 凄腕と評判だった。

 他の冒険者とも多く仕事をこなし、順風満帆だった彼の人生だったが、問題が起きる。

 組んでいたパーティー内で、痴情のもつれによる人間関係の泥沼に、巻き込まれたのだ。

 ユーリを含め、パーティーは全員で六人。
 男女それぞれのカップルが二組と、ユーリと、もう一人の女冒険者の構成だ。

 そのカップル二組の間で、浮気があったらしく、いさかいが起きた。

 ユーリと、もう一人の女冒険者が間に入り、その場は何とか治まったが、問題はその後。

 モンスターとの戦闘中にかこつけて、浮気相手を亡き者にしようとし始めたのだ。

 魔法や弓矢による誤射、知っておきながら、故意に罠を踏ませようとしたりなど、パーティー全体が危険に晒される行為が始まった。

 無論、収拾に当たったユーリともう一人の女冒険者だったが、頭に血の上った四人は聞き入れるはずもなく、このままでは危険だと、パーティーを解散することとなったのだ。

 その後のカップル二組がどうなったのかを、ユーリは知らない。
 彼と一緒に冒険していた女性は、別のパーティーに誘われたようだった。

 それ以来、人間関係でのストレスから逃げるように、ユーリは一人で冒険者として働く日々を送る。

 他者がいない冒険は、意外と上手くいってはいるものの、問題点も見えてきた。

 先ず、彼が強力な魔法や身体強化、解呪や解毒が出来ないこと。

 彼はある程度の魔法は使える位には器用だが、プロフェッショナルではない。
 それ故、頑丈な肉体を持つモンスターとの戦闘では、威力の高い魔法がないため、苦戦を強いられた。

 他にも、敵からかけられる強力な呪いに対しては、無力であること。

 ある程度のレベルまでであれば、アイテムを用いて解呪や解毒が出来るが、それ以上のものであった場合、彼の力ではどうしようもない。

 と、このような冒険を送る上での課題が、頭を悩ませた。
 だが、それだけではない。

 何より――彼は寂しかった。

 これまでの冒険では、常に仲間に囲まれ、賑やかな雰囲気での旅や食事をしてきた。
 それがなくなった途端、孤独が彼を襲ったのだ。

 気楽とはいえ、いつも独りでいるということは、冒険の途中では気を抜くことが出来ない。

 背中を預けられる存在がいるということの、安心感。
 そういったものが消え去り、仕事は達成出来ても、何処かしら満たされない日々を送っていた。

(――信頼出来る仲間が、欲しい)

 そのような思いから、当時の彼は、懇意にしていた酒場の主人、ローザに相談を持ち掛けることにした――。
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