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呪いの発現編
2、魔法剣士の男
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『君が――ミューさん?』
「えっ――!?」
突然、声をかけてきた男の声に、ジョッキに視線を落としていたミューは、顔を上げた。
声の主は、黒髪の穏やかな笑みを浮かべた若い男。
剣を腰に差し、軽鎧を着ていることから、冒険者のようだった。
「あっ、えっと、あのあのぉ……っ!?」
いきなり声をかけられ、驚きに顔を赤くし、両手をバタバタと忙しなく動かす。
「驚かせてごめんね、俺の名前はユーリ。魔法剣士の冒険者。君、仲間を探してるんだよね? ローザさんから話しは聞いたよ。良かったら――俺と組まない?」
「……え、えぇっ!?」
驚きに、ミューは目を見開く。
彼女はユーリと名乗った男の顔を確認し、話に出てきた女主人のローザへと、交互に視線を向ける。
席から遠くにあるカウンターで、客の応対を終えたローザは、ミューの視線に気づいたのか、こちらを向いた。
そして、意志の強さを感じさせる勝気な顔で、ニィっと笑うと、右手の親指を立てる。
頑張れよ、と応援してくれていた。
それを見た、ミューは表情を輝かす。
瞳を潤ませ、両手の指を組み、感極まりながら立ち上がった。
「よ、よよよっ、よろしくお願いしましゅっ!!」
――こうして、一組のパーティーが誕生する。
何故、この二人が組むことになったのか。
ユーリはこれまでの出来事を、思い返す――。
*
ユーリは、若くして優秀な魔法剣士だった。
冒険者になって三年。
その間に、数多くの依頼をこなし、依頼の失敗はひとつもない。
凄腕と評判だった。
他の冒険者とも多く仕事をこなし、順風満帆だった彼の人生だったが、問題が起きる。
組んでいたパーティー内で、痴情のもつれによる人間関係の泥沼に、巻き込まれたのだ。
ユーリを含め、パーティーは全員で六人。
男女それぞれのカップルが二組と、ユーリと、もう一人の女冒険者の構成だ。
そのカップル二組の間で、浮気があったらしく、いさかいが起きた。
ユーリと、もう一人の女冒険者が間に入り、その場は何とか治まったが、問題はその後。
モンスターとの戦闘中にかこつけて、浮気相手を亡き者にしようとし始めたのだ。
魔法や弓矢による誤射、知っておきながら、故意に罠を踏ませようとしたりなど、パーティー全体が危険に晒される行為が始まった。
無論、収拾に当たったユーリともう一人の女冒険者だったが、頭に血の上った四人は聞き入れるはずもなく、このままでは危険だと、パーティーを解散することとなったのだ。
その後のカップル二組がどうなったのかを、ユーリは知らない。
彼と一緒に冒険していた女性は、別のパーティーに誘われたようだった。
それ以来、人間関係でのストレスから逃げるように、ユーリは一人で冒険者として働く日々を送る。
他者がいない冒険は、意外と上手くいってはいるものの、問題点も見えてきた。
先ず、彼が強力な魔法や身体強化、解呪や解毒が出来ないこと。
彼はある程度の魔法は使える位には器用だが、プロフェッショナルではない。
それ故、頑丈な肉体を持つモンスターとの戦闘では、威力の高い魔法がないため、苦戦を強いられた。
他にも、敵からかけられる強力な呪いに対しては、無力であること。
ある程度のレベルまでであれば、アイテムを用いて解呪や解毒が出来るが、それ以上のものであった場合、彼の力ではどうしようもない。
と、このような冒険を送る上での課題が、頭を悩ませた。
だが、それだけではない。
何より――彼は寂しかった。
これまでの冒険では、常に仲間に囲まれ、賑やかな雰囲気での旅や食事をしてきた。
それがなくなった途端、孤独が彼を襲ったのだ。
気楽とはいえ、いつも独りでいるということは、冒険の途中では気を抜くことが出来ない。
背中を預けられる存在がいるということの、安心感。
そういったものが消え去り、仕事は達成出来ても、何処かしら満たされない日々を送っていた。
(――信頼出来る仲間が、欲しい)
そのような思いから、当時の彼は、懇意にしていた酒場の主人、ローザに相談を持ち掛けることにした――。
「えっ――!?」
突然、声をかけてきた男の声に、ジョッキに視線を落としていたミューは、顔を上げた。
声の主は、黒髪の穏やかな笑みを浮かべた若い男。
剣を腰に差し、軽鎧を着ていることから、冒険者のようだった。
「あっ、えっと、あのあのぉ……っ!?」
いきなり声をかけられ、驚きに顔を赤くし、両手をバタバタと忙しなく動かす。
「驚かせてごめんね、俺の名前はユーリ。魔法剣士の冒険者。君、仲間を探してるんだよね? ローザさんから話しは聞いたよ。良かったら――俺と組まない?」
「……え、えぇっ!?」
驚きに、ミューは目を見開く。
彼女はユーリと名乗った男の顔を確認し、話に出てきた女主人のローザへと、交互に視線を向ける。
席から遠くにあるカウンターで、客の応対を終えたローザは、ミューの視線に気づいたのか、こちらを向いた。
そして、意志の強さを感じさせる勝気な顔で、ニィっと笑うと、右手の親指を立てる。
頑張れよ、と応援してくれていた。
それを見た、ミューは表情を輝かす。
瞳を潤ませ、両手の指を組み、感極まりながら立ち上がった。
「よ、よよよっ、よろしくお願いしましゅっ!!」
――こうして、一組のパーティーが誕生する。
何故、この二人が組むことになったのか。
ユーリはこれまでの出来事を、思い返す――。
*
ユーリは、若くして優秀な魔法剣士だった。
冒険者になって三年。
その間に、数多くの依頼をこなし、依頼の失敗はひとつもない。
凄腕と評判だった。
他の冒険者とも多く仕事をこなし、順風満帆だった彼の人生だったが、問題が起きる。
組んでいたパーティー内で、痴情のもつれによる人間関係の泥沼に、巻き込まれたのだ。
ユーリを含め、パーティーは全員で六人。
男女それぞれのカップルが二組と、ユーリと、もう一人の女冒険者の構成だ。
そのカップル二組の間で、浮気があったらしく、いさかいが起きた。
ユーリと、もう一人の女冒険者が間に入り、その場は何とか治まったが、問題はその後。
モンスターとの戦闘中にかこつけて、浮気相手を亡き者にしようとし始めたのだ。
魔法や弓矢による誤射、知っておきながら、故意に罠を踏ませようとしたりなど、パーティー全体が危険に晒される行為が始まった。
無論、収拾に当たったユーリともう一人の女冒険者だったが、頭に血の上った四人は聞き入れるはずもなく、このままでは危険だと、パーティーを解散することとなったのだ。
その後のカップル二組がどうなったのかを、ユーリは知らない。
彼と一緒に冒険していた女性は、別のパーティーに誘われたようだった。
それ以来、人間関係でのストレスから逃げるように、ユーリは一人で冒険者として働く日々を送る。
他者がいない冒険は、意外と上手くいってはいるものの、問題点も見えてきた。
先ず、彼が強力な魔法や身体強化、解呪や解毒が出来ないこと。
彼はある程度の魔法は使える位には器用だが、プロフェッショナルではない。
それ故、頑丈な肉体を持つモンスターとの戦闘では、威力の高い魔法がないため、苦戦を強いられた。
他にも、敵からかけられる強力な呪いに対しては、無力であること。
ある程度のレベルまでであれば、アイテムを用いて解呪や解毒が出来るが、それ以上のものであった場合、彼の力ではどうしようもない。
と、このような冒険を送る上での課題が、頭を悩ませた。
だが、それだけではない。
何より――彼は寂しかった。
これまでの冒険では、常に仲間に囲まれ、賑やかな雰囲気での旅や食事をしてきた。
それがなくなった途端、孤独が彼を襲ったのだ。
気楽とはいえ、いつも独りでいるということは、冒険の途中では気を抜くことが出来ない。
背中を預けられる存在がいるということの、安心感。
そういったものが消え去り、仕事は達成出来ても、何処かしら満たされない日々を送っていた。
(――信頼出来る仲間が、欲しい)
そのような思いから、当時の彼は、懇意にしていた酒場の主人、ローザに相談を持ち掛けることにした――。
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