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呪いの発現編
1、神官ちゃん
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(カッコイイなぁ……ユーリさん)
女神官、ミューは目の前で勇ましく戦う魔法剣士の男、ユーリに見惚れていた。
剣を振るう度に、彼の黒髪が揺れ、普段は優しい瞳が、敵を捉える今は凛としている。
中肉中背で、身体に軽鎧を纏った上からでも、鍛錬で形作られた逞しさが認められた。
現在、二人は依頼のため踏み入れた、遺跡の内部にいる。
壁に埋め込まれている魔石が、室内を照らしているため、視界は悪くない。
その空間で、ユーリは魔法で作られた炎を剣に纏わせ、モンスター達を次々と切り伏せていった。
毛や肉などなく、骨だけで作られた犬の姿をしたモンスター、スカルドッグ。
俊敏に動き回るため、その姿を捉えるのは難しいはずだが、彼は飛び掛かってくる怪物を、容易く倒していく。
危険な敵の群れに囲まれているというのに、女神官は助力する必要がないほど、魔法剣士ひとりで魔物を圧倒していた。
「ふぅ――終わったか。ミューさん、大丈夫だった?」
殲滅が終わり、安全が確保されると、ユーリはミューへ柔らかな表情を向けた。
「ひゃ、ひゃいっ! だいじょうぶれふっ!!」
顔を赤らめ、見惚れていたのがバレていないか、彼女は慌てふためいている。
「そっか。大丈夫なら良かった」
彼は、微笑んだ。
柔らかく、優しく。
その笑顔に、ミューは胸をときめかせてしまう。
(本当に、ユーリさんと出会えて良かったです――)
その笑顔を見つめながら、彼女は出会った頃を思い返す――。
*
魔法と魔物が存在する世界、エティスール。
剣と魔法に彩られたこの世界では、凶暴な魔物や、人に近い姿をした魔族が人類を脅かすことなど、日常茶飯事。
そんな世界に生まれ落ちたミューは、孤児だった彼女を育てた神官であり、師匠でもある女性が亡くなったのを機に、田舎を出て、街で一人前の冒険者になる事で、生計を立てようとしていた。
この世界の酒場では、依頼などの情報や、夢見る冒険者達が集まるのが普通だ。
彼女はそこを訪れ、仲間を募り、冒険者としての一歩を踏み出すつもりであった。
ミューは酒場の隅の席に座り、果物を絞ったジュースを、チビチビと独りで飲んでいる。
栗色の柔らかく長い髪。
少し重めな前髪の奥に見える、大きく綺麗な青い瞳。
小さい背丈に、抱き心地の良さそうな、少しムッチリとした身体。
自信の無さが伝わってくる猫背に、手に収まりきらない大きな胸。
座っている椅子が、嬉しい悲鳴を上げそうなほど、丸くボリュームのあるお尻。
神官らしい、白いローブを着て、恩師の形見である木製の杖をテーブルに立てかけている。
「はぁ……」
ジョッキの中のブドウジュースと睨めっこしながら、ため息がこぼれた。
(どうしよう……?)
周囲を見渡す。
酒を飲みかわし、大声で笑う者。
酔って、寝る者。
腕相撲や、カードでの賭け事に興じる者達の姿がある。
酒場は、様々な冒険者をはじめとした人々で賑わっていたが、ミューの雰囲気は、彼らとは真逆で暗い。
(ああいう人達に話しかけたりとか、私ぃ、無理ですぅ……っ!!)
彼女は、人見知りだった。
穏やかな農村で育った彼女は、温かな周囲の人々に囲まれ、優しさに包まれて育ってきた。
その為か、自身から積極的に人と関わることなく、基本受け身の人生を送って来ている。
気性の荒い者ばかりの冒険者を前にすると、緊張してしまい、声をかけることすら出来ない。
そんなこんなで仲間も出来ず、一週間が経ち、冒険者としての進展がない。
だが、他に進展がないわけでは、ない。
この酒場は宿屋も兼ねているらしく、彼女を見かねた、元冒険者でもある酒場の女主人ローザが、気を利かせてくれたのだ。
ミューを雇い、ここの清掃を手伝う代わりに、宿の一室を貸してもらえるようになっている。
しかし、ミューの望みは、冒険者として一人前になること。
(こんなんじゃ、立派な冒険者になるなんて……夢のまた夢ですね)
本日、何度目かわからないため息をついた時、彼女に近付く影があった――。
女神官、ミューは目の前で勇ましく戦う魔法剣士の男、ユーリに見惚れていた。
剣を振るう度に、彼の黒髪が揺れ、普段は優しい瞳が、敵を捉える今は凛としている。
中肉中背で、身体に軽鎧を纏った上からでも、鍛錬で形作られた逞しさが認められた。
現在、二人は依頼のため踏み入れた、遺跡の内部にいる。
壁に埋め込まれている魔石が、室内を照らしているため、視界は悪くない。
その空間で、ユーリは魔法で作られた炎を剣に纏わせ、モンスター達を次々と切り伏せていった。
毛や肉などなく、骨だけで作られた犬の姿をしたモンスター、スカルドッグ。
俊敏に動き回るため、その姿を捉えるのは難しいはずだが、彼は飛び掛かってくる怪物を、容易く倒していく。
危険な敵の群れに囲まれているというのに、女神官は助力する必要がないほど、魔法剣士ひとりで魔物を圧倒していた。
「ふぅ――終わったか。ミューさん、大丈夫だった?」
殲滅が終わり、安全が確保されると、ユーリはミューへ柔らかな表情を向けた。
「ひゃ、ひゃいっ! だいじょうぶれふっ!!」
顔を赤らめ、見惚れていたのがバレていないか、彼女は慌てふためいている。
「そっか。大丈夫なら良かった」
彼は、微笑んだ。
柔らかく、優しく。
その笑顔に、ミューは胸をときめかせてしまう。
(本当に、ユーリさんと出会えて良かったです――)
その笑顔を見つめながら、彼女は出会った頃を思い返す――。
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そんな世界に生まれ落ちたミューは、孤児だった彼女を育てた神官であり、師匠でもある女性が亡くなったのを機に、田舎を出て、街で一人前の冒険者になる事で、生計を立てようとしていた。
この世界の酒場では、依頼などの情報や、夢見る冒険者達が集まるのが普通だ。
彼女はそこを訪れ、仲間を募り、冒険者としての一歩を踏み出すつもりであった。
ミューは酒場の隅の席に座り、果物を絞ったジュースを、チビチビと独りで飲んでいる。
栗色の柔らかく長い髪。
少し重めな前髪の奥に見える、大きく綺麗な青い瞳。
小さい背丈に、抱き心地の良さそうな、少しムッチリとした身体。
自信の無さが伝わってくる猫背に、手に収まりきらない大きな胸。
座っている椅子が、嬉しい悲鳴を上げそうなほど、丸くボリュームのあるお尻。
神官らしい、白いローブを着て、恩師の形見である木製の杖をテーブルに立てかけている。
「はぁ……」
ジョッキの中のブドウジュースと睨めっこしながら、ため息がこぼれた。
(どうしよう……?)
周囲を見渡す。
酒を飲みかわし、大声で笑う者。
酔って、寝る者。
腕相撲や、カードでの賭け事に興じる者達の姿がある。
酒場は、様々な冒険者をはじめとした人々で賑わっていたが、ミューの雰囲気は、彼らとは真逆で暗い。
(ああいう人達に話しかけたりとか、私ぃ、無理ですぅ……っ!!)
彼女は、人見知りだった。
穏やかな農村で育った彼女は、温かな周囲の人々に囲まれ、優しさに包まれて育ってきた。
その為か、自身から積極的に人と関わることなく、基本受け身の人生を送って来ている。
気性の荒い者ばかりの冒険者を前にすると、緊張してしまい、声をかけることすら出来ない。
そんなこんなで仲間も出来ず、一週間が経ち、冒険者としての進展がない。
だが、他に進展がないわけでは、ない。
この酒場は宿屋も兼ねているらしく、彼女を見かねた、元冒険者でもある酒場の女主人ローザが、気を利かせてくれたのだ。
ミューを雇い、ここの清掃を手伝う代わりに、宿の一室を貸してもらえるようになっている。
しかし、ミューの望みは、冒険者として一人前になること。
(こんなんじゃ、立派な冒険者になるなんて……夢のまた夢ですね)
本日、何度目かわからないため息をついた時、彼女に近付く影があった――。
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