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田舎編
旅立ち【終】
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あれから時は経ち、ミコとの出会いから一週間が過ぎた。
今日は、学と両親がこの地から離れる日だ。
学は、大学近くにある一人暮らしのアパートに、両親はそこから少し離れた一軒家に戻ることとなっている。
そして、学についていくミコは、これから彼と一緒に暮らす生活が始まるのだ。
朝方の社を、学はミコとの出会いを思い返しながら、しみじみと見回す。
「これで暫くは、この景色ともお別れかな……」
少し表情に影を落とす学に、ミコは微笑みを浮かべると、
「なんだったら、すぐに戻って来れるぞ? 一度訪れた場所であれば、ワシの能力で転移して、すぐじゃっ!」
「本当、ミコさんは何でも出来るよねぇ……」
しみじみとした気持ちでいた学が、一気に緩んだ表情になった。
それを見ていたミコは得意げに胸を張り、
「神じゃからなっ! それに、ここも秋になれば紅葉が、冬は雪化粧で美しくなる。ワシはその時の景色も、お主に知って欲しいと思うておる……」と並んでいる学の手を、そっと握る。
「ワシ達がここへ頻繁に来れば、お主の祖父母ともよく顔が合わせられようになるじゃろう……」
「それは、名案だね」
「そうじゃろう? なんじゃったら、お主の両親の家に、遊びに行くのも良いのう……幼き頃のお主の話を、たくさん二人に聞いてみたいものじゃ……」
「それは……ちょっと恥ずかしいから、やめて欲しいかも」
顔を見合わせ、二人は笑う。
神と人間という違いがあるが、家族に認められ、後ろ暗いことなく共に生きられるようになったのだ。
それが二人にとって、どれほど有難いことだろう。
「さて、社に母上への文も置いておいたし、心配なかろう。いつかは、お主も会うことになるかもしれんし、そうならんかもしれん……」
「うん。出来ることなら、一度会ってみたいな……」
「うむ、ワシもお主を早く母上に紹介したいものじゃ……さて、そろそろ行くかの」
「そうだね」
手を繋いで、二人は社に背を向ける。
学は、ミコへこう問いかけた。
「ミコさん、今……幸せ?」
問われたミコの表情は、一瞬の驚きから、太陽のように明るい笑みへと変わっていく。
「当然じゃろう? お主と一緒なんじゃ。これから先、どんなものが待ち受けようと、お主と共にあるなら、ワシは幸せじゃ!!」
繋いでいた手が離れたかと思うと、ミコは学の腕に抱き着いた。
今のミコは、もう外の世界を怖がっていない――。
そう確信させてくれる、晴々とした顔だった。
*
学達は祖父母に別れを告げ、父親である勇の車に乗って、実家を出た。
ミコは、初めて乗る自動車に興奮していた。
「これが、自動車……。歩くことなく移動出来る、便利な箱じゃのう……」
箱というミコの感想に、学は小さく笑いながら、
「乗り心地はどう?」と尋ねる。
「うむ、気に入ったっ! 冷房とやらで、夏でもコンビニのように涼しいのは良いな。しかし、遠くから見ておるだけだった車に、まさかワシが乗ることになるとはのう……」
後部座席に二人は並んで座り、ミコはシートに敷いているクッションを触っては、その感触を楽しんでいる。
「座ったままだというのに、景色が流れていくのというのも、実に面白い。見知った景色も、一味違うように思えるのう……」
そして、車が進むにつれ、木や土に埋め尽くされていた視界が、徐々に変わっていく。
アスファルトと、金属、人工的に作られた物が増えていく。
信号機、広告の看板、何かの商店、木造ではない民家。
ミコにとって、漫画の中でしか見たことのない景色が今、近くを通り過ぎていく。
その表情に不安などはなく、むしろ好奇心に満ちた瞳で、
「学、あれはなんじゃっ!?」とあれこれと指を差しては、質問をぶつけていく。
「あぁ、あれはね――」
学がその度に教え、彼にとっては取るに足らないような知識を得ることに、ミコは喜びを見せる。
彼が解説を終えた時、ミコはニンマリと笑った。
「学、知っていくこととは、楽しいことじゃのう――」
彼女の返答に、学は思った。
(もう、ミコさんは大丈夫だ――)と。
この先、学が年老いて亡くなろうとも、今の彼女は、時代や文化を知っていく喜びを知っている。
未知に恐怖し、時代から取り残され、孤独なまま生きていく彼女の未来を、学は想像出来なかった。
学の両親が、ルームミラーをチラリと見て、仲良く会話する二人の様子を確認すると、頬を緩めた。
(この二人なら、きっと大丈夫――。幸せな人生を送ってくれる)
そんな、笑みを浮かべて。
車は走る――。
人が創り出し、築き上げた文明の中をかき分けて。
輝かしい未来が待つ、学とミコの家に向かっていくのだった――。
今日は、学と両親がこの地から離れる日だ。
学は、大学近くにある一人暮らしのアパートに、両親はそこから少し離れた一軒家に戻ることとなっている。
そして、学についていくミコは、これから彼と一緒に暮らす生活が始まるのだ。
朝方の社を、学はミコとの出会いを思い返しながら、しみじみと見回す。
「これで暫くは、この景色ともお別れかな……」
少し表情に影を落とす学に、ミコは微笑みを浮かべると、
「なんだったら、すぐに戻って来れるぞ? 一度訪れた場所であれば、ワシの能力で転移して、すぐじゃっ!」
「本当、ミコさんは何でも出来るよねぇ……」
しみじみとした気持ちでいた学が、一気に緩んだ表情になった。
それを見ていたミコは得意げに胸を張り、
「神じゃからなっ! それに、ここも秋になれば紅葉が、冬は雪化粧で美しくなる。ワシはその時の景色も、お主に知って欲しいと思うておる……」と並んでいる学の手を、そっと握る。
「ワシ達がここへ頻繁に来れば、お主の祖父母ともよく顔が合わせられようになるじゃろう……」
「それは、名案だね」
「そうじゃろう? なんじゃったら、お主の両親の家に、遊びに行くのも良いのう……幼き頃のお主の話を、たくさん二人に聞いてみたいものじゃ……」
「それは……ちょっと恥ずかしいから、やめて欲しいかも」
顔を見合わせ、二人は笑う。
神と人間という違いがあるが、家族に認められ、後ろ暗いことなく共に生きられるようになったのだ。
それが二人にとって、どれほど有難いことだろう。
「さて、社に母上への文も置いておいたし、心配なかろう。いつかは、お主も会うことになるかもしれんし、そうならんかもしれん……」
「うん。出来ることなら、一度会ってみたいな……」
「うむ、ワシもお主を早く母上に紹介したいものじゃ……さて、そろそろ行くかの」
「そうだね」
手を繋いで、二人は社に背を向ける。
学は、ミコへこう問いかけた。
「ミコさん、今……幸せ?」
問われたミコの表情は、一瞬の驚きから、太陽のように明るい笑みへと変わっていく。
「当然じゃろう? お主と一緒なんじゃ。これから先、どんなものが待ち受けようと、お主と共にあるなら、ワシは幸せじゃ!!」
繋いでいた手が離れたかと思うと、ミコは学の腕に抱き着いた。
今のミコは、もう外の世界を怖がっていない――。
そう確信させてくれる、晴々とした顔だった。
*
学達は祖父母に別れを告げ、父親である勇の車に乗って、実家を出た。
ミコは、初めて乗る自動車に興奮していた。
「これが、自動車……。歩くことなく移動出来る、便利な箱じゃのう……」
箱というミコの感想に、学は小さく笑いながら、
「乗り心地はどう?」と尋ねる。
「うむ、気に入ったっ! 冷房とやらで、夏でもコンビニのように涼しいのは良いな。しかし、遠くから見ておるだけだった車に、まさかワシが乗ることになるとはのう……」
後部座席に二人は並んで座り、ミコはシートに敷いているクッションを触っては、その感触を楽しんでいる。
「座ったままだというのに、景色が流れていくのというのも、実に面白い。見知った景色も、一味違うように思えるのう……」
そして、車が進むにつれ、木や土に埋め尽くされていた視界が、徐々に変わっていく。
アスファルトと、金属、人工的に作られた物が増えていく。
信号機、広告の看板、何かの商店、木造ではない民家。
ミコにとって、漫画の中でしか見たことのない景色が今、近くを通り過ぎていく。
その表情に不安などはなく、むしろ好奇心に満ちた瞳で、
「学、あれはなんじゃっ!?」とあれこれと指を差しては、質問をぶつけていく。
「あぁ、あれはね――」
学がその度に教え、彼にとっては取るに足らないような知識を得ることに、ミコは喜びを見せる。
彼が解説を終えた時、ミコはニンマリと笑った。
「学、知っていくこととは、楽しいことじゃのう――」
彼女の返答に、学は思った。
(もう、ミコさんは大丈夫だ――)と。
この先、学が年老いて亡くなろうとも、今の彼女は、時代や文化を知っていく喜びを知っている。
未知に恐怖し、時代から取り残され、孤独なまま生きていく彼女の未来を、学は想像出来なかった。
学の両親が、ルームミラーをチラリと見て、仲良く会話する二人の様子を確認すると、頬を緩めた。
(この二人なら、きっと大丈夫――。幸せな人生を送ってくれる)
そんな、笑みを浮かべて。
車は走る――。
人が創り出し、築き上げた文明の中をかき分けて。
輝かしい未来が待つ、学とミコの家に向かっていくのだった――。
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