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田舎編

準備

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 それから、学はミコの住む社を訪ねるようになった。

 自分の住む都会での生活について教えたり、実家にあった漫画を、幾つか持ってきては、現代生活を学ぶ教科書にした。

 二人の仲が深まり、三日目。

 今日も二人は社に集まり、話しをしている。

「ミコさん、今日はコンビニに行かない?」
「コンビニ、じゃとッ!? あの漫画にもあった、学校の後に皆で買い食いするという、あのコンビニかッ!?」
「そう、そのコンビニ」

 学の提案に、ミコは大袈裟にも思えるような驚き方をする。

 ここから遠くない距離にコンビニはあれど、ミコは近付いたことがなく、ましてや、中に入ったことなど一度もないと言っていた。

 緊張した面持ちのミコは、
「ならば、商品を買うには金がいるのう……」と能力を使い、何も無い空間から物を取り出す。

 何かが入った、巾着袋。

 その中身を、社の床にバラ撒く。

 ジャラジャラと音を立てるその正体を、学は確認する。

「それは……ちょっと使えないかな……」
「何っ!? ダメなのかッ!?」

 床に広げられたのは、古銭――つまり、古いお金だった。

「うん。ちゃんとしたところに持っていけば、高値がつきそうだけど……近くに買い取ってくれそうなところは、なさそうだし。今日は、俺が奢るよ」
「すまぬな……」
 耳と尻尾を伏せ、落ち込むミコ。

「気にしなくていいって。後は、格好か……」

 ミコの全身を眺める。

 紅白の色をした、コスプレ感満載な巫女服っぽい衣装。
 狐の耳と、モフモフした九本の大きな尻尾。

 この格好でコンビニに行こうものなら、浮いてしまうことだろう。

 学の意図を察し、ミコは、
「ならば、こうすれば良いなっ!」と能力を使う。

 彼女の全身が、発光し、社が白い光で埋め尽くされる。

 すぐさま光は収まると、ミコの身体に変化が起きていた。

 白をメインに彩られた衣服に、襟は黒く、スカートの丈は短い。
 大きな胸の上には、赤いリボン。
 足にはスクールソックスを履いている。

 女子学生がよく着ている、セーラー服にそっくりだった。

「――どうじゃ?」

 ニヒヒと笑みを浮かべ、その場でクルクルと回って見せつけてくる。
 可愛らしい笑みと、回転に合わせ、フワリと浮き上がるスカート。
 ムッチリとした太ももが、一瞬、いつもより露わとなり、眩しく見えてしまう。
  
 学は驚きもあったが、ミコに見惚れてしまっていた。

「あ……、え、えっと、そういうことも出来るんだ?」
 照れくさそうに一瞬、視線を外す学。

 よそよそしい反応を見せる彼の頬は赤く、ミコは、そのことに気付き、同じように頬を赤らめた。

「そ、そうじゃ。ワシは神じゃからな……このぐらい朝飯前じゃ。お主が持ってきた漫画に出てきたものを、再現してみたが……どうかのう?」

「に、似合ってるよ……すごく可愛い。けど、この近くに学校とかないから、制服は流石に変かもね……」
「な、なるほどっ! それもそうじゃな……ならば――」

 再び、能力を行使するミコ。

 次に姿を現した時には、白いキャミソールにホットパンツという格好だった。
 キャミソールは、胸元が大きく開いているデザインであり、胸の膨らみの間に、深い谷間が見える。
 ホットパンツの方は、生足が強調され、思わず手を伸ばして触ってしまいたくなるような、魔力を発していた。

 背丈は小さくとも、抱き心地の良さそうな、柔らかい身体のラインが、ハッキリと伝わってくる。

 この格好も、漫画の中のキャラクターが、着ていたものだった。

 夏にピッタリなラフな格好とはいえ、露出が高いことに、学はドキリとさせられる。
 
 学の反応から、似合っているのでは、とミコは感じつつも、
「今度はどうじゃ……?」と問いかけずには、いられないようだった。
「う、うん。いいと思う……。でも、耳と尻尾は――」

「フフン。それも問題ないぞ」と彼女が言うと、狐耳と尻尾がポンっと煙を出し、跡形もなく消えた。
「あっ……」
 ケモミミ少女をケモミミ少女たらしめる存在が消えたことに、感心よりも残念そうな声を、学は出してしまう。

「……そんなに、ワシの耳と尻尾が好きかの?」
 ミコの声のボリュームが、小さくなった。

「好き……かな」とあさっての方向を見ながら、頬をポリポリと掻く。
「しょうがないのう……他の者には、見えないようにするだけにしておくかのう」

 狐耳と尻尾が復活し、学は表情を緩める。
 そんな彼につられて、ミコも柔らかな表情になるのだった。

 二人は準備を終える。
「さて、コンビニに出発じゃっ!」

 サンダルを履いたミコと共に、二人はコンビニを目指す。

 時代に取り残された神が、時代に追いつく為の一歩を今、踏み出す――。
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