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田舎編
川辺にて
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あれから学は、ミコに導かれるまま、色んな場所を探検した。
小高い山に登り、山頂から雄大な景色を眺めたり。
今は廃村となった場所を訪れ、ノスタルジーに浸ったり。
放棄された農地の名残りとして、成っていたスイカや桃などを、ミコと一緒に食べたりもした。
それらを終え、今は森にある、涼し気な川辺に落ち着いている。
「心地良いもんだね……」
これまで、暑さで参ってしまっていた学が、手頃な岩を椅子代わりにし、一息つく。
「じゃろう? ここは涼しくてのう……それに――」
ミコが、何かを見ている。
学も彼女の視線を辿ると、透き通った水面の下に、数匹の川魚が泳いでいるのが見える。
「食い物にも困らぬ……食べてみるか?」
「う……うん」
魚を素手で取るのだろうか、と学はやり方を推測し始めるが、予想に反し、ミコは川に向け、右手をかざした。
すると、川に異なる水の流れが生じ、やがて極小の渦となる。そして、二匹の魚を絡め取ると、水飛沫と共に、宙へと打ち上げた。
――魚が宙を舞う。
放物線を描きながら、落下していく。
その身体が、地面へと叩きつけられる瞬間、空中でピタリと静止した。
時が止まったように、空間に固定された魚は、フヨフヨとミコの元へ浮遊し、その手に受け止められた。
今日、学の身体を宙に浮かせた、超能力とも呼べる、あの神通力だった。
「そういう使い方もあるんだ……」
「うむっ。これなら、釣竿等の道具も要らぬし、濡れたりせぬからのう」
それから、ミコは能力を使い、乾燥した木の枝を集め、青い炎を作ってみせると、焚き火にした。
何もない空間から、竹串を取り出し、魚に通す。火に掛け、シンプルな調理が始まる。
火によって、木が爆ぜる音。
魚が焼ける香ばしい匂いが、辺りを漂う。
「そろそろ良いな……」
焼き加減を見て、絶妙だと判断し、火から離す。
「ほれ、出来たぞ」
焚き火の前に腰を降ろした学に、完成したものを、ひとつ寄越す。
「おぉ……っ」
受け取った学は、焼き魚を回転させ、様々な角度で眺めている。
「アユの素焼きじゃ……冷めぬ内に食べよ」
物珍しげに見る学に、ミコは和んでいた。
「あ、そうだった……。まさか、アユが食べれるなんて思わなかったなぁ」
素焼きに齧り付く。
香ばしく焼けた皮はパリッとし、中身はふっくらとした食感が、口内に広がる。
「美味しい……」
「そうかそうか。ここは水も綺麗じゃからな、アユも他所と比べて美味かろう」
瞳を輝かせ、学は、また一口、もう一口と魚を貪る。
ミコは、自分の分も食べながら、見た目に似合わぬ母親のような優しい顔で、その食事風景を、目に焼き付けていた。
小高い山に登り、山頂から雄大な景色を眺めたり。
今は廃村となった場所を訪れ、ノスタルジーに浸ったり。
放棄された農地の名残りとして、成っていたスイカや桃などを、ミコと一緒に食べたりもした。
それらを終え、今は森にある、涼し気な川辺に落ち着いている。
「心地良いもんだね……」
これまで、暑さで参ってしまっていた学が、手頃な岩を椅子代わりにし、一息つく。
「じゃろう? ここは涼しくてのう……それに――」
ミコが、何かを見ている。
学も彼女の視線を辿ると、透き通った水面の下に、数匹の川魚が泳いでいるのが見える。
「食い物にも困らぬ……食べてみるか?」
「う……うん」
魚を素手で取るのだろうか、と学はやり方を推測し始めるが、予想に反し、ミコは川に向け、右手をかざした。
すると、川に異なる水の流れが生じ、やがて極小の渦となる。そして、二匹の魚を絡め取ると、水飛沫と共に、宙へと打ち上げた。
――魚が宙を舞う。
放物線を描きながら、落下していく。
その身体が、地面へと叩きつけられる瞬間、空中でピタリと静止した。
時が止まったように、空間に固定された魚は、フヨフヨとミコの元へ浮遊し、その手に受け止められた。
今日、学の身体を宙に浮かせた、超能力とも呼べる、あの神通力だった。
「そういう使い方もあるんだ……」
「うむっ。これなら、釣竿等の道具も要らぬし、濡れたりせぬからのう」
それから、ミコは能力を使い、乾燥した木の枝を集め、青い炎を作ってみせると、焚き火にした。
何もない空間から、竹串を取り出し、魚に通す。火に掛け、シンプルな調理が始まる。
火によって、木が爆ぜる音。
魚が焼ける香ばしい匂いが、辺りを漂う。
「そろそろ良いな……」
焼き加減を見て、絶妙だと判断し、火から離す。
「ほれ、出来たぞ」
焚き火の前に腰を降ろした学に、完成したものを、ひとつ寄越す。
「おぉ……っ」
受け取った学は、焼き魚を回転させ、様々な角度で眺めている。
「アユの素焼きじゃ……冷めぬ内に食べよ」
物珍しげに見る学に、ミコは和んでいた。
「あ、そうだった……。まさか、アユが食べれるなんて思わなかったなぁ」
素焼きに齧り付く。
香ばしく焼けた皮はパリッとし、中身はふっくらとした食感が、口内に広がる。
「美味しい……」
「そうかそうか。ここは水も綺麗じゃからな、アユも他所と比べて美味かろう」
瞳を輝かせ、学は、また一口、もう一口と魚を貪る。
ミコは、自分の分も食べながら、見た目に似合わぬ母親のような優しい顔で、その食事風景を、目に焼き付けていた。
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