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第五章 竜族との戦い
第157話 弔い
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「こんにちは」
セドリックは地上5デリ程の所でプカプカ浮きながら胡座をかいて静止する。ヴィンダウスはまだ悲しみに暮れていたが、目の前の隔絶した神聖なる気配に顔を上げた。賢者然とした風貌の中年の男性に見える。
「初めまして」
「…初め、まして」
セドリックはそれを聞いてにこやかに微笑む。どんなに塞ぎ込んでしまった者でも絶対的な安心感をもたらす笑みにヴィンダウスの表情がほんの少し柔らかくなった。
「大丈夫、何もしません。僕はセドリック、あなたは?」
「…ヴィンダウス・ジャルク」
「ヴィンダウスさん。ヴィンダウスさんは『獣の消えた森の調査』の依頼を受注したという事で良いですか?」
「そう…そこで、私以外の全員があの悪魔達に殺された。私は何とか魔法で応戦し、時間を稼いだ」
「それで実力を魅入られ、眷属契約を結ばされたのですか?」
ヴィンダウスは苦虫を噛み潰した様な表情で頷く。セドリックは悪魔達が浄化された所に目をやり、僅かに残っている残骸を不機嫌そうに見た。
「そうなのですか。辛かったですね…」
「…精神まで汚されるのは堪らないと思って、自身の精神を封じる術式を行使した。だから、奴らに従わさせられていた時、手を血で染めたか分からない」
そう言って、ヴィンダウスは自分の手を見る。セドリックはゴツゴツしたその手を優しく握った。
「大丈夫です。あなたは誰も手に掛けていません、僕が保証します。それで…もしあなたの気があるなら、あなたの魂に食い込んだ悪魔の因子を取り除けますが、どうしますか?」
「…それは、人間に、戻れると言う事か?」
セドリックはどこまでも受け入れる優しい目でヴィンダウスを正面から見る。
「ええ。あなたもこのまま王都には戻りたく無いでしょう?大丈夫です、僕たちが責任を持って王都まで送り届けます」
その瞬間、ヴィンダウスの目が大きく揺れた。そして、滂沱の涙を溢し始める。
「戻りたい…!仲間達をしっかり弔ってやりたい!また笑顔を見るのが叶わなくても…10年同じ仲間でやり続けていたんだ、もう今更だが、遺骨だけでも…!!」
「…分かりました。では直ぐに人間に戻すので、その後ゆっくり弔いましょう」
セドリックが神の力を行使し、ヴィンダウスに埋め込まれた悪魔の因子を取り払う。瞬く間に頭の角が塵と消え、闇の力が霧散した。
「もう大丈夫です、一緒にお仲間の所に行きましょう」
セドリックはどこまでも優しく彼の体を摩り続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺たちは仲間だと言う4人の遺骨を弔った。通常、死体はそのまま放置すると負の気が入ってアンデッドと化してしまうが、この森ではあの悪魔共が負の気を食い尽くしていた為アンデッドにならず、遺骨として腐敗してしまっていた。可能な限りの遺骨を集め、丁寧に洗ってやり、そして一部の遺骨を除き輪廻に還元した俺たちは聞かれないよう念話で話し合う。
(ねぇ、これで良かったのかな。手段があるのにそれを知らせず伏せちゃうの…)
(僕も分からない。この遺骨に魂を埋めて肉体を再度作ってあげればこの世に死者を蘇らせる事は出来るだろうけど…それが本当に正しいのかは僕たち神にも知り得ない事だよ)
難しい声色でそう言うセドリックにブレアが憐憫を含む声を上げる。
(けど、1人位生きていた方が良いんじゃ無いかとは思うけど…)
(今の僕には分からないけど、生死神セルストリーゼの話では彼は残して来た家族と平和に暮らすって言ってるから。そこまで孤独な未来では無いよ)
セドリックは苦笑混じりにそう言う。彼曰く、生涯の幸と不幸は大体トントンになる様になっているらしい。だから彼は今こそ不幸だが、これから幸が多くなるだろうーって言っていた。
「ありがとうございました。こんな最後を迎えられて仲間たちも幸せだったと思います。この遺骨は王都に帰ったら教会で祈りを捧げて貰います」
「いえ、礼には及びません。どうぞ、お仲間さん達を最後まで見送ってあげて下さい。彼らにとってはそれが最高の土産でしょうから」
セドリックは柔和に微笑む。それを見て、ヴィンダウスは完全に立ち直った様だった。涙で赤くなった目に精一杯の元気さを見せ、彼はお辞儀を一度した。
帰りは同行者がいると言う事で俺は外に止めてあった風を装いジープ(車)で帰途に着いた。舗装の“ほ”の字も知らないデコボコ道も、俺の車にかかれば快適な旅路となる。ヴィンダウスは初めて乗る車に驚きを隠せていなかったが、特にツッコミが入ることは無かった。
精霊達は軽く事情を聞いたが大した情報は得られなかった。彼女達にどうするのか聞いた所、一度精霊の力が強い土地に移動し力を復活させてからこの森を復旧するらしい。
俺は一仕事終えた後の達成感に浸りながら、馬車道をジープで走っていた。
…ここからとんでもない仕事が飛んで来るの何て露程も知らず。
セドリックは地上5デリ程の所でプカプカ浮きながら胡座をかいて静止する。ヴィンダウスはまだ悲しみに暮れていたが、目の前の隔絶した神聖なる気配に顔を上げた。賢者然とした風貌の中年の男性に見える。
「初めまして」
「…初め、まして」
セドリックはそれを聞いてにこやかに微笑む。どんなに塞ぎ込んでしまった者でも絶対的な安心感をもたらす笑みにヴィンダウスの表情がほんの少し柔らかくなった。
「大丈夫、何もしません。僕はセドリック、あなたは?」
「…ヴィンダウス・ジャルク」
「ヴィンダウスさん。ヴィンダウスさんは『獣の消えた森の調査』の依頼を受注したという事で良いですか?」
「そう…そこで、私以外の全員があの悪魔達に殺された。私は何とか魔法で応戦し、時間を稼いだ」
「それで実力を魅入られ、眷属契約を結ばされたのですか?」
ヴィンダウスは苦虫を噛み潰した様な表情で頷く。セドリックは悪魔達が浄化された所に目をやり、僅かに残っている残骸を不機嫌そうに見た。
「そうなのですか。辛かったですね…」
「…精神まで汚されるのは堪らないと思って、自身の精神を封じる術式を行使した。だから、奴らに従わさせられていた時、手を血で染めたか分からない」
そう言って、ヴィンダウスは自分の手を見る。セドリックはゴツゴツしたその手を優しく握った。
「大丈夫です。あなたは誰も手に掛けていません、僕が保証します。それで…もしあなたの気があるなら、あなたの魂に食い込んだ悪魔の因子を取り除けますが、どうしますか?」
「…それは、人間に、戻れると言う事か?」
セドリックはどこまでも受け入れる優しい目でヴィンダウスを正面から見る。
「ええ。あなたもこのまま王都には戻りたく無いでしょう?大丈夫です、僕たちが責任を持って王都まで送り届けます」
その瞬間、ヴィンダウスの目が大きく揺れた。そして、滂沱の涙を溢し始める。
「戻りたい…!仲間達をしっかり弔ってやりたい!また笑顔を見るのが叶わなくても…10年同じ仲間でやり続けていたんだ、もう今更だが、遺骨だけでも…!!」
「…分かりました。では直ぐに人間に戻すので、その後ゆっくり弔いましょう」
セドリックが神の力を行使し、ヴィンダウスに埋め込まれた悪魔の因子を取り払う。瞬く間に頭の角が塵と消え、闇の力が霧散した。
「もう大丈夫です、一緒にお仲間の所に行きましょう」
セドリックはどこまでも優しく彼の体を摩り続けた。
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俺たちは仲間だと言う4人の遺骨を弔った。通常、死体はそのまま放置すると負の気が入ってアンデッドと化してしまうが、この森ではあの悪魔共が負の気を食い尽くしていた為アンデッドにならず、遺骨として腐敗してしまっていた。可能な限りの遺骨を集め、丁寧に洗ってやり、そして一部の遺骨を除き輪廻に還元した俺たちは聞かれないよう念話で話し合う。
(ねぇ、これで良かったのかな。手段があるのにそれを知らせず伏せちゃうの…)
(僕も分からない。この遺骨に魂を埋めて肉体を再度作ってあげればこの世に死者を蘇らせる事は出来るだろうけど…それが本当に正しいのかは僕たち神にも知り得ない事だよ)
難しい声色でそう言うセドリックにブレアが憐憫を含む声を上げる。
(けど、1人位生きていた方が良いんじゃ無いかとは思うけど…)
(今の僕には分からないけど、生死神セルストリーゼの話では彼は残して来た家族と平和に暮らすって言ってるから。そこまで孤独な未来では無いよ)
セドリックは苦笑混じりにそう言う。彼曰く、生涯の幸と不幸は大体トントンになる様になっているらしい。だから彼は今こそ不幸だが、これから幸が多くなるだろうーって言っていた。
「ありがとうございました。こんな最後を迎えられて仲間たちも幸せだったと思います。この遺骨は王都に帰ったら教会で祈りを捧げて貰います」
「いえ、礼には及びません。どうぞ、お仲間さん達を最後まで見送ってあげて下さい。彼らにとってはそれが最高の土産でしょうから」
セドリックは柔和に微笑む。それを見て、ヴィンダウスは完全に立ち直った様だった。涙で赤くなった目に精一杯の元気さを見せ、彼はお辞儀を一度した。
帰りは同行者がいると言う事で俺は外に止めてあった風を装いジープ(車)で帰途に着いた。舗装の“ほ”の字も知らないデコボコ道も、俺の車にかかれば快適な旅路となる。ヴィンダウスは初めて乗る車に驚きを隠せていなかったが、特にツッコミが入ることは無かった。
精霊達は軽く事情を聞いたが大した情報は得られなかった。彼女達にどうするのか聞いた所、一度精霊の力が強い土地に移動し力を復活させてからこの森を復旧するらしい。
俺は一仕事終えた後の達成感に浸りながら、馬車道をジープで走っていた。
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