上 下
157 / 228
第五章 竜族との戦い

第157話 弔い

しおりを挟む
「こんにちは」

セドリックは地上5デリ程の所でプカプカ浮きながら胡座をかいて静止する。ヴィンダウスはまだ悲しみに暮れていたが、目の前の隔絶した神聖なる気配に顔を上げた。賢者然とした風貌の中年の男性に見える。

「初めまして」
「…初め、まして」

セドリックはそれを聞いてにこやかに微笑む。どんなに塞ぎ込んでしまった者でも絶対的な安心感をもたらす笑みにヴィンダウスの表情がほんの少し柔らかくなった。

「大丈夫、何もしません。僕はセドリック、あなたは?」
「…ヴィンダウス・ジャルク」
「ヴィンダウスさん。ヴィンダウスさんは『獣の消えた森の調査』の依頼を受注したという事で良いですか?」
「そう…そこで、私以外の全員があの悪魔達に殺された。私は何とか魔法で応戦し、時間を稼いだ」
「それで実力を魅入られ、眷属契約を結ばされたのですか?」

ヴィンダウスは苦虫を噛み潰した様な表情で頷く。セドリックは悪魔達が浄化された所に目をやり、僅かに残っている残骸を不機嫌そうに見た。

「そうなのですか。辛かったですね…」
「…精神まで汚されるのは堪らないと思って、自身の精神を封じる術式を行使した。だから、奴らに従わさせられていた時、手を血で染めたか分からない」

そう言って、ヴィンダウスは自分の手を見る。セドリックはゴツゴツしたその手を優しく握った。

「大丈夫です。あなたは誰も手に掛けていません、僕が保証します。それで…もしあなたの気があるなら、あなたの魂に食い込んだ悪魔の因子を取り除けますが、どうしますか?」
「…それは、人間に、戻れると言う事か?」

セドリックはどこまでも受け入れる優しい目でヴィンダウスを正面から見る。

「ええ。あなたもこのまま王都には戻りたく無いでしょう?大丈夫です、僕たちが責任を持って王都まで送り届けます」

その瞬間、ヴィンダウスの目が大きく揺れた。そして、滂沱の涙を溢し始める。

「戻りたい…!仲間達をしっかり弔ってやりたい!また笑顔を見るのが叶わなくても…10年同じ仲間でやり続けていたんだ、もう今更だが、遺骨だけでも…!!」
「…分かりました。では直ぐに人間に戻すので、その後ゆっくり弔いましょう」

セドリックが神の力を行使し、ヴィンダウスに埋め込まれた悪魔の因子を取り払う。瞬く間に頭の角が塵と消え、闇の力が霧散した。

「もう大丈夫です、一緒にお仲間の所に行きましょう」

セドリックはどこまでも優しく彼の体を摩り続けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺たちは仲間だと言う4人の遺骨を弔った。通常、死体はそのまま放置すると負の気が入ってアンデッドと化してしまうが、この森ではあの悪魔共が負の気を食い尽くしていた為アンデッドにならず、遺骨として腐敗してしまっていた。可能な限りの遺骨を集め、丁寧に洗ってやり、そして一部の遺骨を除き輪廻に還元した俺たちは聞かれないよう念話で話し合う。

(ねぇ、これで良かったのかな。手段があるのにそれを知らせず伏せちゃうの…)
(僕も分からない。この遺骨に魂を埋めて肉体を再度作ってあげればこの世に死者を蘇らせる事は出来るだろうけど…それが本当に正しいのかは僕たち神にも知り得ない事だよ)

難しい声色でそう言うセドリックにブレアが憐憫を含む声を上げる。

(けど、1人位生きていた方が良いんじゃ無いかとは思うけど…)
(今の僕には分からないけど、生死神セルストリーゼの話では彼は残して来た家族と平和に暮らすって言ってるから。そこまで孤独な未来では無いよ)

セドリックは苦笑混じりにそう言う。彼曰く、生涯の幸と不幸は大体トントンになる様になっているらしい。だから彼は今こそ不幸だが、これから幸が多くなるだろうーって言っていた。

「ありがとうございました。こんな最後を迎えられて仲間たちも幸せだったと思います。この遺骨は王都に帰ったら教会で祈りを捧げて貰います」
「いえ、礼には及びません。どうぞ、お仲間さん達を最後まで見送ってあげて下さい。彼らにとってはそれが最高の土産でしょうから」

セドリックは柔和に微笑む。それを見て、ヴィンダウスは完全に立ち直った様だった。涙で赤くなった目に精一杯の元気さを見せ、彼はお辞儀を一度した。


帰りは同行者がいると言う事で俺は外に止めてあった風を装いジープ(車)で帰途に着いた。舗装の“ほ”の字も知らないデコボコ道も、俺の車にかかれば快適な旅路となる。ヴィンダウスは初めて乗る車に驚きを隠せていなかったが、特にツッコミが入ることは無かった。

精霊達は軽く事情を聞いたが大した情報は得られなかった。彼女達にどうするのか聞いた所、一度精霊の力が強い土地に移動し力を復活させてからこの森を復旧するらしい。

俺は一仕事終えた後の達成感に浸りながら、馬車道をジープで走っていた。

…ここからとんでもない仕事が飛んで来るの何て露程も知らず。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

追放された付与術士、別の職業に就く

志位斗 茂家波
ファンタジー
「…‥‥レーラ。君はもう、このパーティから出て行ってくれないか?」 ……その一言で、私、付与術士のレーラは冒険者パーティから追放された。 けれども、別にそういう事はどうでもいい。なぜならば、別の就職先なら用意してあるもの。 とは言え、これで明暗が分かれるとは……人生とは不思議である。 たまにやる短編。今回は流行りの追放系を取り入れて見ました。作者の他作品のキャラも出す予定デス。 作者の連載作品「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」より、一部出していますので、興味があればそちらもどうぞ。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...