72 / 228
第三章 成長
第72話 産業革命in異世界 大商会の長side
しおりを挟む
あの時はほんの気まぐれだった。いつも商会の管理で忙しい
ものだから、偶には昼くらい休みを取って優雅なひと時を過ごそうと思ったのだ。
商会長と言う仕事は常に忙しい。昼夜問わず流れて来る注文を確認し、それらを
適切に送り届けたり、店頭物販を行ったり。だからこうやって外でご飯を食べる
ことは愚か、商会長室の窓越し以外に陽主の光を浴びる事すら難しい時もある。
そう思い、レストラン街の広場にあるカフェのような露店の珈琲を買い、ふうと
一息を吐く。道行く人を眺めながら、一口二口、ノンシュガーブラックのコーヒー
を口にする。今日はお忍びで来ているので、談笑しながら歩いていく都民が
私の正体に気づいていると言うこともなさそうだ。
ふと、店を一つ隔てた向こう側の店で注文をする4人組の男が目についた。
1人は近頃王城が探している男と同じ緑髪の男である。もう1人茶色の髪色の
一番小柄な男に、残り二人は金髪をしていた。どうやら彼らは皆チキンスープを
買ったらしい。あそこのスープはなかなか良いと思い出した。
私は興味を失い再び街並みに視線を戻す。
そして帰った後の仕事の多さにふと嫌気が差したその時、風に乗ってとても良い
香りが流れて来た。様々な香辛料と肉の香り。私は香りの発生源を無意識に
探していた。そうして行き着いた先は、先ほどの若者4人衆。彼らは
チキンスープ以外に、焦げ茶色の見たことも無いソースにパンをつけた物を
食べていた。そのパンもそのパンで、僅かに焦げ目のついた明るい茶色を
している。
(あんな物注文していなかっただろう。そもそも、あんな食事見たことが無い。
何処から用意したのだろうか。他の商会の新商品か?)
気付けば、彼らから視線を外す事が出来なくなっていた。しかし、観察できる
時間もそう長くは続かなかった。彼らは食べ終わったかと思うと、
そのソースの皿を虚空に放り込んでしまったのだ。
(な!あれは彼らの物と言うのか?ますます興味が増したぞ…)
私は急いでコーヒーカップを返して彼らを追い始めた。しかし、
ふと冷静になる。
(私が急に声をかけても、怪しまれるだけでは…?)
得体の知れない男に急に話しかけられたとなれば怪しまれるに決まっている。
私は結局、尾行するという形になってしまった。
男たちは私に気がついているのかいないのか、裏路地に入ったり偶に後ろを
振り返ったりしている。
そうしながらも、彼らは商店街に向かっているようだ。
(この先は商店街だ。となると食料品や調味料を買い込むのか?一体どんな
製法であの料理が生み出されるのか気になる所だ)
是非とも声を掛けたい。しかし彼らに声を不用意に掛けることは自殺に
等しいと私の第六感が叫んでいた。何故だか、彼らに話しかけるととんでもない
事が起こりそうな気がしてならない。
すると、4人がそれぞれ違う方向にバラけた。慌てて茶色の髪の男を追ったが、
人混みに紛れ振り切られてしまった。
(しまった…やはり声を掛けておくべきであったな。惜しい種を逃した気分だ)
…後にこの男達に目を付けた事がこの世界の産業に革命をもたらす事になるの
だが、この時は追った彼も、追われたアラン達も、知る由など無かった。
商会に帰った私は、もしかしたらと思い商会の顧客履歴を調べた。
結果は…言うまでもあるまい。
「商会長、次の案件でー…す?」
その時、丁度秘書が次の仕事を運んできた。私は書類からバッと顔をあげ
急いでそれを隠す。しかしもう遅い。バッチリ見られてしまった。
私が目を彷徨わせていると、躊躇なく秘書は入ってきて、隠した書類を全て
抜き去った。
「…ちゃんと仕事して下さい、長?」
「…すまない」
私は丸くなって頭を下げた。
ものだから、偶には昼くらい休みを取って優雅なひと時を過ごそうと思ったのだ。
商会長と言う仕事は常に忙しい。昼夜問わず流れて来る注文を確認し、それらを
適切に送り届けたり、店頭物販を行ったり。だからこうやって外でご飯を食べる
ことは愚か、商会長室の窓越し以外に陽主の光を浴びる事すら難しい時もある。
そう思い、レストラン街の広場にあるカフェのような露店の珈琲を買い、ふうと
一息を吐く。道行く人を眺めながら、一口二口、ノンシュガーブラックのコーヒー
を口にする。今日はお忍びで来ているので、談笑しながら歩いていく都民が
私の正体に気づいていると言うこともなさそうだ。
ふと、店を一つ隔てた向こう側の店で注文をする4人組の男が目についた。
1人は近頃王城が探している男と同じ緑髪の男である。もう1人茶色の髪色の
一番小柄な男に、残り二人は金髪をしていた。どうやら彼らは皆チキンスープを
買ったらしい。あそこのスープはなかなか良いと思い出した。
私は興味を失い再び街並みに視線を戻す。
そして帰った後の仕事の多さにふと嫌気が差したその時、風に乗ってとても良い
香りが流れて来た。様々な香辛料と肉の香り。私は香りの発生源を無意識に
探していた。そうして行き着いた先は、先ほどの若者4人衆。彼らは
チキンスープ以外に、焦げ茶色の見たことも無いソースにパンをつけた物を
食べていた。そのパンもそのパンで、僅かに焦げ目のついた明るい茶色を
している。
(あんな物注文していなかっただろう。そもそも、あんな食事見たことが無い。
何処から用意したのだろうか。他の商会の新商品か?)
気付けば、彼らから視線を外す事が出来なくなっていた。しかし、観察できる
時間もそう長くは続かなかった。彼らは食べ終わったかと思うと、
そのソースの皿を虚空に放り込んでしまったのだ。
(な!あれは彼らの物と言うのか?ますます興味が増したぞ…)
私は急いでコーヒーカップを返して彼らを追い始めた。しかし、
ふと冷静になる。
(私が急に声をかけても、怪しまれるだけでは…?)
得体の知れない男に急に話しかけられたとなれば怪しまれるに決まっている。
私は結局、尾行するという形になってしまった。
男たちは私に気がついているのかいないのか、裏路地に入ったり偶に後ろを
振り返ったりしている。
そうしながらも、彼らは商店街に向かっているようだ。
(この先は商店街だ。となると食料品や調味料を買い込むのか?一体どんな
製法であの料理が生み出されるのか気になる所だ)
是非とも声を掛けたい。しかし彼らに声を不用意に掛けることは自殺に
等しいと私の第六感が叫んでいた。何故だか、彼らに話しかけるととんでもない
事が起こりそうな気がしてならない。
すると、4人がそれぞれ違う方向にバラけた。慌てて茶色の髪の男を追ったが、
人混みに紛れ振り切られてしまった。
(しまった…やはり声を掛けておくべきであったな。惜しい種を逃した気分だ)
…後にこの男達に目を付けた事がこの世界の産業に革命をもたらす事になるの
だが、この時は追った彼も、追われたアラン達も、知る由など無かった。
商会に帰った私は、もしかしたらと思い商会の顧客履歴を調べた。
結果は…言うまでもあるまい。
「商会長、次の案件でー…す?」
その時、丁度秘書が次の仕事を運んできた。私は書類からバッと顔をあげ
急いでそれを隠す。しかしもう遅い。バッチリ見られてしまった。
私が目を彷徨わせていると、躊躇なく秘書は入ってきて、隠した書類を全て
抜き去った。
「…ちゃんと仕事して下さい、長?」
「…すまない」
私は丸くなって頭を下げた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
運命のいたずら世界へご招待~
夜空のかけら
ファンタジー
ホワイト企業で働く私、飛鳥 みどりは、異世界へご招待されそうになる。
しかし、それをさっと避けて危険回避をした。
故郷の件で、こういう不可思議事案には慣れている…はず。
絶対異世界なんていかないぞ…という私との戦い?の日々な話。
※
自著、他作品とクロスオーバーしている部分があります。
1話が500字前後と短いです。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる