ふぁんとむ。らいたー。

桜坂直葉

文字の大きさ
上 下
12 / 14
弐章

いずなと真実。

しおりを挟む

「文芸部? いずなとうい先生は元同級生……ってことですか?」

 うい先生は、それまでの笑顔とは一変。どこか物憂げな雰囲気を纏う。

「そう。だから、いずなちゃんが殺人事件に巻き込まれて命を落とした時は、すごく悲しくて……泣いたわ。それはもう、泣いた」

 うい先生は眼尻に雫を溜め、悲しみを滲み出す。
 こんな顔をする、うい先生を俺は初めて見た。

「いずなについて、俺はまだ何も知りません。でも……、いずながもしも、誰かの助けを必要とした時、誰かが側に居てあげなくちゃならない。それが出来るのは俺しかいないんじゃないか、不思議とそんな感じがするんです。だから……だから、その時の為に、いずなの身に何が起きたのか俺に教えてくれませんか?」

 半分勢いに任せて口を出た言葉。
 少しキザで自分でも格好つけすぎたと、顔に熱が上っていくのが感じられる。そんな言葉。
 けれども、不思議と。この発言に対して後悔はしていない。
 
 そして気づくと、うい先生の表情はいつもの笑顔に戻っていた。

「うん! アラタ君ならそう言ってくれると信じてた!」

 そして、うい先生はその時のことを思い出しながら、ゆっくりと噛み締めるようにいずなの生前のこと、いずなの身に起きたこと、そして今の状況のこと、一つずつ丁寧に教えてくれた。


〈和泉いずな〉は十八歳の時、〈伊波いづな〉の名義で小説家として、デビューを果たした。家庭環境に恵まれていなかった彼女は、執筆活動を心の拠り所としていた。小説家として大成し、数多の傑作を世に送り出し続け、デビューから八年が経ったある日、その事件は起きた。
 二六歳となった彼女は、雑誌やテレビ等のメディア露出も増え、その頃には稀代の美人作家として話題になっていった。しかし、人前で見せる笑顔とは裏腹に彼女は、ストーカーの被害に悩まされていた。
 その日もいつものように出版社での編集会議を終え、帰宅する途中だった。闇夜のなか彼女は何者かに襲われたのだ。凶器は刃物。動機は不明。急所を一撃だったそうだ。その犯人は事件から二年経ったが、未だに捕まっていない。人気作家の突然の死ということで、ファンを始めとした各方面へのパニックが起きることを避けるため、関係者各位で話し合いの場が持たれ、〈伊波いづな〉の電撃引退という形で場は収められた。


 うい先生から聞いた話を簡単にまとめると、事件の顛末はこんな感じだ。しかし、これで終わりではない。
 そう……現れたのだ。
 当の〈和泉いずな〉が。
 

 肉体を持たぬ、霊体という形となって……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Halloween Corps! -ハロウィンコープス-

詩月 七夜
キャラ文芸
この世とあの世の狭間にあるという異世界…「幽世(かくりょ)」 そこは、人間を餌とする怪物達が棲む世界 その「幽世」から這い出し「掟」に背き、人に仇成す怪物達を人知れず退治する集団があった その名を『Halloween Corps(ハロウィンコープス)』! 人狼、フランケンシュタインの怪物、吸血鬼、魔女…個性的かつ実力派の怪物娘が多数登場! 闇を討つのは闇 魔を狩るのは魔 さりとて、人の世を守る義理はなし ただ「掟」を守るが使命 今宵も“夜の住人(ナイトストーカー)”達の爪牙が、深い闇夜を切り裂く…! ■表紙イラスト作成:魔人様(SKIMAにて依頼:https://skima.jp/profile?id=10298)

処理中です...