ふぁんとむ。らいたー。

桜坂直葉

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零章

アラタといずなの日常(1)。

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「ねぇねぇアラタ、あたしお腹すいたわ」

 お腹を摩りながらやや上目遣いで彼女が訴える。

「そうか。余りものの食材なら冷蔵庫に入ってるぞ」

 俺は、親指で冷蔵庫を指さす。

「えー。アラタ冷たーい。あたしが料理できないの知っているくせに」

 彼女はそう言いながら表情をむすりとさせる。

「すまないが俺は今、忙しい」
「忙しいって、アラタさっきからパソコンの前でただボーっとしているだけじゃない」
「失礼な。これでも俺は大事な考え事の最中なんだ」
「大事な考え事って、執筆のアイデアとか設定作りに煮詰まってるだけでしょ?」
「まぁ、そうだけど」

 彼女は呆れたような、嘲るような仕草をすると、言った。

「馬鹿ね、アラタは。ただじっとしているだけで面白い小説が書ける訳ないじゃない。そもそも小説っていうのはねぇ――」

 それから、いつものように彼女の小説談義が始まってしまったのだった……。

 そもそも、俺こと〈丁嵐アラタ〉と彼女こと〈和泉いずな〉の関係といえば、正直、俺自身にもよくわからない。
 強いて言うならば、家主と居候? 弟子と師匠? 後輩と先輩? うーん。どれもイマイチ違う気がする。
 なんたって、いずなは……。
 
 俺がこの部屋に引っ越して来た時には、既にこの部屋の“住人”だったのだから。
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