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傷の手当て
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しおりを挟む「さようならー」
「はい、さようなら」
廊下をはしゃいだ生徒らが駆け抜けて行く。まっすぐ帰宅したり、部活にいそしんだり……多分今が一番楽しい頃なのだろう。夢中になれる何か、私にそんな時期はあったのだろうか。
そう思い返せば、この年頃は確か無垢が来た頃だったのを思い出す。私は日々高校から足早に帰宅して、共働きの両親の代わりに家事をしながら無垢の面倒を見ていた。あの頃の無垢は学校でからかわれただの、偏食がひどく野菜が嫌いだの、夜は怖くて一人では眠れないだのとよく泣く子供で仕方なかった。無垢が泣く度に私は悩み、結局はただどうしようもなくてただ抱きしめ寄り添って過ごしていた。真夏になっても無垢は私の隣で眠り、おねしょ癖がなおらないものだから、夜中に起きて確認するのも毎日のこと。子供は苦手だったんだ、私の身の回りにはいなかったから。
「弟だと思いなさい、自分より弱い者の面倒を見てあげることはいつか自分の為になるのよ」
母に幾度となく繰り返された言葉。確かにその通りだった、無垢との日々がなかったら私は今程人と関わることを積極的には望まなかったし、過去の対人恐怖が治ったのも思えば周りの人が優しかったからなのだろう。両親も、私の後を絶えず追う無垢も……母の言った言葉は、確かに間違いではなかったようだ。
「向島先生、ちょっといいですかぁ」
「む、……どうした小鳥遊」
「あのさ砂和さん、今晩食べたいものある?」
「え?」
「今夜の夕食は俺が作ろうかと思って」
階段を降りて職員室に向かうところで無垢に会った。それにしても彼にしては珍しいことを言う。近頃ますます遊びに夢中で夜だって遅いくせにと返すと無垢は言葉に詰まり、『特にないなら今夜はカレーライスだからな』と言って去って行く。夕焼け空、廊下に残された私の影が伸び下校を知らせるチャイムの中、静かに一日が終わって行った。
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