渇望のレノ、祝福の朝

サクリファイス・レノ

12

「グ、グローザ！　これは……」
「言っただろう？　レノ、フリージャーナリストの人脈を馬鹿にするなと」

　マスコミの集団はヴァイスと警備員を取り囲んでフラッシュを浴びせている。テレビカメラは今まさにこのソフィア製薬部の犯した事件の終わる瞬間を生放送で都市中に伝えている。

「はかったな！　キャスレット！」
「いくら騒いでも遅い、然るべきものは然るべき場所へ。全ての終わりだな、観念しろ！」

　これで全てが終わるはずだった。一人の警備員が鈍く光るナイフを持ってグローザに向かう。それに気がついたのは彼ではなくレノだった。

「逃げて、グローザ！」

　＊＊＊

「レノ、もう少しの辛抱だからな……」

　グローザの胸には抱き抱えられたレノがいた。白い白衣は赤く染まって、その目は閉じて開く様子もない。しかしそこにあったのは少しの間だけしか過ごせなかった二人の未練にも似た愛情で、その時初めて優秀な研究者は恋を知った。グローザにとってもレノが大切なのは忘れることのない事実でもある。
　東カリクももうすぐ雨の季節は終わるだろう、その時にはまた二人で一緒に朝食をとるのだ。それは何よりも変えがたい幸せの形にほかならない、失いたくない記憶のひとつだった。