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サクリファイス・レノ
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その日から強制的にレノは研究に参加させられた。彼らが作ろうとしているのは失った記憶の代わりに、さらに架空の記憶を植え付けると言うもの。そんなことをしたら人は救われるどころか逆に犯罪が生まれるきっかけになるだろう。
「……っ」
「今夜はここまでで良い、明日は午前八時から、それまでに身なりを整えて準備しているように」
監禁状態と言っても過言はなかった。レノは朝から晩まで研究所の別室に閉じ込められてデータの管理と人体のメカニズムを解明する仕事に充てられていた。食事もろくにとらせないで仕事が終われば鍵のかかった宿直室へ。窓がないその部屋は、時計がなければ朝か晩かの区別すらつかない。
「はあ……あ」
グローザ。
作りおいてきたあの薬は効いたはずだ。彼が何者なのかは知らないが、過去を取り戻してどこかで静かに暮らしてくれたら良い、どうか幸せに。短い間の関係だったが、恋に似た感情もなかったわけじゃない。
どんよりとした眠気に襲われて、レノは床に転がったまま目を閉じた。きっと夢なんか見ない、彼のいないこの部屋ではただ最低限生きていることしか出来なかった。二人でとった温かい朝食、あんな幸せは金輪際もう訪れはしないのだろう。うっすらと浮かんだ涙が床に滴る、その瞬間だった。
「誰だ!」
警備員の男の声が響きわたる。次第に足音が激しくなって、廊下は一変騒然としていた。何事かと起き上がったレノの部屋のドアノブが衝撃音とともに壊れ静かにドアが開く。
「え……」
夢じゃないかと自身を疑ったレノ、そこに立っているのはなんて背の高い……熊の絵本を読んでくれたのはレノの次兄。そこに描かれた熊に、やっぱり彼は似ている。
「レノ、迎えに来たんだ」
「グローザ、いや……本当の名前は?」
手を差し伸べたグローザに手を伸ばす。温かい手だ、なんて大きくてたくましい手。
「騒がしいな、こんな時間に何事だ」
その時レノの部屋の前に立つのはヴァイス部長、腕を組んで眉を潜ませて低い声で笑った。グローザは彼を知っているのかじっと睨みつけてため息をついた。
「……っ」
「今夜はここまでで良い、明日は午前八時から、それまでに身なりを整えて準備しているように」
監禁状態と言っても過言はなかった。レノは朝から晩まで研究所の別室に閉じ込められてデータの管理と人体のメカニズムを解明する仕事に充てられていた。食事もろくにとらせないで仕事が終われば鍵のかかった宿直室へ。窓がないその部屋は、時計がなければ朝か晩かの区別すらつかない。
「はあ……あ」
グローザ。
作りおいてきたあの薬は効いたはずだ。彼が何者なのかは知らないが、過去を取り戻してどこかで静かに暮らしてくれたら良い、どうか幸せに。短い間の関係だったが、恋に似た感情もなかったわけじゃない。
どんよりとした眠気に襲われて、レノは床に転がったまま目を閉じた。きっと夢なんか見ない、彼のいないこの部屋ではただ最低限生きていることしか出来なかった。二人でとった温かい朝食、あんな幸せは金輪際もう訪れはしないのだろう。うっすらと浮かんだ涙が床に滴る、その瞬間だった。
「誰だ!」
警備員の男の声が響きわたる。次第に足音が激しくなって、廊下は一変騒然としていた。何事かと起き上がったレノの部屋のドアノブが衝撃音とともに壊れ静かにドアが開く。
「え……」
夢じゃないかと自身を疑ったレノ、そこに立っているのはなんて背の高い……熊の絵本を読んでくれたのはレノの次兄。そこに描かれた熊に、やっぱり彼は似ている。
「レノ、迎えに来たんだ」
「グローザ、いや……本当の名前は?」
手を差し伸べたグローザに手を伸ばす。温かい手だ、なんて大きくてたくましい手。
「騒がしいな、こんな時間に何事だ」
その時レノの部屋の前に立つのはヴァイス部長、腕を組んで眉を潜ませて低い声で笑った。グローザは彼を知っているのかじっと睨みつけてため息をついた。
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