渇望のレノ、祝福の朝

サクリファイス・レノ

09

「一体彼が何をしたのですか？」
「その件については君に開示しなければいけない理由はない」
「僕を罠にかけたのは、あなたがたでしょう？」
「はは、君はあの件にまだ恨みを持っていたのか？　運が悪かっただけだよ。その証拠に今回の件がうまくいけば、君をソフィア製薬部に戻しても構わない。君の才能が田舎でくすぶっているようなものじゃないのは、私だって理解しているさ」

　どうかこの薬は悪い方向へ使わないで欲しい。研究中からレノが折りを見ては周りの研究者達に訴えていたことだった。記憶操作薬、通称『サクリファイス計画』、誰かの意思で誰かを犠牲にしてはならない。そう訴え続けるレノが疎ましく思ったのだろう。一部の研究者達が彼に論文改竄、製薬研究においての闇取引、秘密事項の暴露の疑いをかける。いくら違う覚えがないと言ってももう遅い、話し合いにすらならず罪人扱いのレノはこの計画とソフィア製薬部から強制的に去ることになってしまった。その間際、レノは出来る限りのデータの削除を行ったが、それは十分ではなかったらしい。

「もうこの研究所に未練はありません。一生を東カリクで終える覚悟があります、それよりもグローザさんが何をしたと言うんですか？」
「グローザ？　あの男は今はそんな名を名乗っているのか」

　その瞬間だった、面談室のドアを開けた屈強な警備員がレノを取り囲んだ。

「残念だったね、こちらからすれば積極的な参加を期待していたのだが。連れて行け」

　床に押し付けられて身動きが取れない。レノはただグローザの無事だけを祈っていた。