渇望のレノ、祝福の朝

雨水林檎

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サクリファイス・レノ

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 首都、国立医学製薬研究所・ソフィア製薬部。
 タワービルを前にボストンバッグを手にして正装をしたレノはエントランスで受付の女性に声をかける。数人の見覚えのある男達がエレベーター前に立っている。過去はもう捨てたはずだった、しかしこうして今また訪れてしまうと複雑な心境になる。

「ヴァイス・ジャン・リー部長がお待ちです、あちらのゲートからどうぞ」

 エントランスのゲートを通りエレベーターに乗れば無音のフロアが広がっていた。秘書の女性に案内されて面談室にてレノは彼と対面をする。ヴァイス・ジャン・リー、彼はレノのかつての上司だった。

「やあ、レノ、元気にしていたかい」
「お久しぶりです、早速ながら今回の件ですが」
「まあそう慌てない、高級なカタの花のジュースを手に入れてね」
「結構です、それよりも早く彼のことを」

 ***

「レノ……?」

 グローザは早朝、誰かが部屋から出て行った気配で目が覚めた。レノが新聞でも取りにいったのだろう。そう思って暫しベッドで横になっていたが一向にレノが帰って来ないのを見て、胸騒ぎがした彼は慌てて寝室を飛び出した。リビングには朝食と手紙に小さな薬包が。
 手紙をそっと開けば、レノらしい几帳面で美しい文字がつづられている。

『君に過去を返そうと思う、どうか、幸せに』

 この薬を飲めば、失くした記憶を取り戻せると言うのか?
 グローザは戸惑い、座り込む。
 失った記憶とレノと過ごしたここでの暮らし。そんなもの天秤にかけるとしたら……。

「レノ……!」
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