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プロローグ
prologue
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時とは不変で、直線的な概念に他ならない。しかし書物――本は相違である。時はただ前進し本は遡る。時を留め、或いはその中に独自の時を描き出すのが本であり、それは直線的ではなく変動し、流動する。中身にせよ、読み手の読み方にせよ、即ち本の中の時は、本来の時の在り方とは根本的に異なるのである。
しかし、ここにそうではない本が一冊ある。日毎、事毎に中身を変え、どこから読んだとしてもその中身を直線的に伝える本、それが『歯車の本』である。その名の通り、表紙に幾重にも複雑な歯車の施された革装本で、そこに何らかの差異があるとすれば、自ずと万人は表紙だと口をそろえて言うであろう。歯車とは、機械時計である。剥き出しのトゥールビヨンが独特の立体感を描き出す姿は正に時計そのものだ。そして驚く事に、この歯車には間違いなく金属の質感が宿っているのである。さてどういう理屈であろうか、しかし誰に聞いても誰も理由は知らない。ではその立体感を確認すべく側面から覗き込んでみれば、本は本らしく表紙は平面であり、そこに凹凸なんてものはないのである。この奇怪で、珍妙で、魔法じみた歯車の本は正しく時を刻むことはなく、独自の時を描き出し、独自の時を刻み行く。
読み解く持ち主は少女ミシェル、本の短針は時を告げ、長針は――
しかし、ここにそうではない本が一冊ある。日毎、事毎に中身を変え、どこから読んだとしてもその中身を直線的に伝える本、それが『歯車の本』である。その名の通り、表紙に幾重にも複雑な歯車の施された革装本で、そこに何らかの差異があるとすれば、自ずと万人は表紙だと口をそろえて言うであろう。歯車とは、機械時計である。剥き出しのトゥールビヨンが独特の立体感を描き出す姿は正に時計そのものだ。そして驚く事に、この歯車には間違いなく金属の質感が宿っているのである。さてどういう理屈であろうか、しかし誰に聞いても誰も理由は知らない。ではその立体感を確認すべく側面から覗き込んでみれば、本は本らしく表紙は平面であり、そこに凹凸なんてものはないのである。この奇怪で、珍妙で、魔法じみた歯車の本は正しく時を刻むことはなく、独自の時を描き出し、独自の時を刻み行く。
読み解く持ち主は少女ミシェル、本の短針は時を告げ、長針は――
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