天使のお仕事 -Khiry-

胡蝶

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5.歪な感情

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 「え?」

 佐藤は、何を言われたのか理解が出来なかった。その心中を察することなくキーリィは続ける。

 「与一、出会った頃と見違えるくらいキラキラしてるよ。きっともう悪魔も寄ってこないと思う。」






『与一が大丈夫になるまで何度でも来るから』






 「あ・・・」

 佐藤はキーリィと出会った三日目の朝の言葉を思い出す。
 大丈夫になったら、この生活は終わるのだ。 
 不安そうな佐藤に、悲しそうに微笑むキーリィ。

 「そんな顔しないで。与一なら大丈夫だよ。」

 わかってたはずなのに、こんなに急に別れが来るなんて思いもしなかった。

 「今日で、終わりなのか?」
 
 キーリィは、ゆっくりと頷いた。

 「この生活は終わりだけど、僕たちの関係が終わるわけではないよ。僕たちLINEでつながってるでしょ。また、おいしいものでも食べにいこう」


 キーリィ・・・俺は・・・お前がいないと・・・


 「大丈夫。きっと、大丈夫だから。」

 佐藤の、固くこぶしを握る手に、キーリィ―が手を添える。

 「なにかあったらいつでも呼んで。文字通り、飛んで来るから!」

 行って欲しくない。でも、キーリィと俺はそんなことを言える関係ではない。そんなことはわかっている。このまま永遠のお別れじゃないだけマシじゃないか。

 佐藤は精いっぱいの笑顔で、キーリィとお別れをした。




 始めこそ、キーリィに心配をかけまいと、佐藤は頑張って改善した生活を維持していたのだが、疲れて家に帰ってもキーリィはいない。一人だと家事をするのも面倒で、食事はすぐに出来合いのものやインスタントに戻った。お互いの勤務時間も異なるため、LINEのやり取りも途切れ途切れで、既読がついているのに返信が来ないことに苛ついた。課長のパワハラも耳を通らない。何も手につかないのだ。考えることはキーリィのことばかり。あれから漫画を描く気力も無くなっていた。
 キーリィと別れてひと月が過ぎた頃、佐藤のスマホに見知らぬ番号からの電話が掛かった。市外局番は東京で、そんなところから掛かってくるなんて詐欺か、もしくは・・・・。期待が胸を跳ねた。通話ボタンを押す。

 「●●出版の山田と申します」

 




 佐藤は、電話の内容に喜んだ。
 これで、キーリィを呼ぶ口実が出来ると。















 「佳作おめでと~!」
 「ありがとう」

 数日後、佐藤とキーリィは居酒屋でお祝いをしていた。
 佐藤の漫画が賞を取ったのだ。キーリィは自分の事のように喜んだ。久しぶりに見るキーリィは何か雰囲気が変わっていて、髪を高い位置に結っているからなのかもしれないと、見知らぬ髪留めをみながら佐藤は考えた。

 「次の増刊号でのっけてくれるって」
 「本当?!絶対買う!!それにしても与一、元気そうでよかった」

 全然元気ではなかったのに、なにもわかっていないキーリィに佐藤はまた苛ついた。

 「キーリィは髪型変えた?」
 「ああ、うん」

キーリィは照れながら髪飾りを触った。

 「このほうがいいって同僚が」

 ああ、この感じ・・・

 佐藤は嫌な予感がした。キーリィの頬が少し赤いのは、きっとお酒だけのせいではないと。

 「それって、ただの同僚?」
 「あっあたりまえでしょ!次、何飲む?」

 話題を逸らそうとドリンクメニューを開けて顔を隠すキーリィだが、耳まで真っ赤だ。佐藤はすぐに悟った。少なくともキーリィにとってはただの同僚ではないのだろう。佐藤の前で美味しそうにつまみを食べ、お酒を飲んで、佐藤が描いた漫画の話をして、今はどんな漫画を描いているのかと聞いているキーリィの言葉を適当に返しながら、佐藤は考えていた。その髪留めを送った相手は誰なのかを。
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