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4.夢を見ていた
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「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
大晦日の朝、いつものようにリビングのさっしに足を掛け、飛び立っていくキーリィ。天使には年末年始は関係ないらしい。佐藤は洗い物を終え、押し入れから段ボールを取り出した。捨てるはずだった漫画道具。それを机に広げ、数年ぶりにインクの蓋をあける。
「まだ、使えるかな?」
佐藤は夢中で絵を描き始めた。
気づくと、真横から日差しが射している。
寝てしまったのか。
「それ、僕の絵?」
「うわぁ!!」
「隠さなくてもいいのに!」
口を尖らせて話すキーリィに、恥ずかしそうに絵を差し出す。
「みていいの?」
「うん」
佐藤が描いた絵を見て、笑顔になるキーリィ
「うわ~すごく可愛く描いてくれてる!」
本当はもっと綺麗に描きたかったのだが自分の画力では限界だったということは言えなかった。
「すごい!僕絵が描けないからほんと尊敬するよ!」
自分の絵を見て喜んでくれるキーリィをみて、とても嬉しく思う佐藤。
もっとキーリィの喜ぶ顔がみたい。
「もし、俺が漫画描いたら、読んでくれる?」
「・・・描くの?」
「また描いてみようと思って・・・」
「読む!やった~!楽しみにしてるよ!」
「うん」
キーリィがお風呂から出ると、佐藤はコタツにノートを広げ、真剣に何かを書いていた。その様子は、今まで見たなかで一番生き生きしていて、とても楽しそうだった。
「はい。コーヒー」
「ありがとう。テレビ、つけていいよ」
「ううん。大丈夫。僕、静かなのも好きだから」
キーリィは佐藤の向かいに座り、本を読み始めた。部屋には、鉛筆がノートを走る音と、ページをめくる音が響いていた。
「ふぅ~」
佐藤は作業がひと段落すると、大きく背伸びをした。時計をみると23時。いつの間にか三時間以上も経っていた。ふとキーリィがいないことに気づき立ち上がると、向かい側で寝ていた。
「キーリィ、コタツで寝ると風邪ひくよ」
「う~ん・・・もう少し・・・」
「年越しそばは食べないの?」
返事は無くなってしまった。確かにコタツで寝るとこうなってしまうのはわかるが、朝起きて全身の痛さとじっとり汗をかいた身体に後悔することも知っている。
佐藤はキーリィをコタツから引きずり出して、寝室へ運んだ。ベッドの上に寝かせると、コタツの暑さで頬が色づいており、汗で首筋には長い髪の毛が張り付いていた。その様子が扇情的で、生唾を飲んだ。張り付いた髪の毛を丁寧に剥がし、キーリィの頬を撫でる。起きる気配はない。ゆっくりと、自分の唇をキーリィの唇に近づける。
その瞬間、低い鐘の音が響いた。佐藤は我に返り、キーリィに布団をかぶせてやると、リビングへ戻った。何度も鳴る鐘に、急に恥ずかしくなる佐藤。
「はぁ。俺の煩悩もこの鐘と一緒に消えてしまえばいいのに」
佐藤は高ぶった気持ちを落ち着かせるために、浴室へ急いだ。
三か月後
いつものようにキーリィが窓から帰って来ると、漫画を描き始めてからずっと家では机に向かって作業をしているはずの佐藤が、ゆったりとリビングでくつろいでいた。
「おかえりキーリィ」
「ただいま与一!もしかして完成したの?」
佐藤は恥ずかしそうに「うん」と頷き、隠すように置いてあった封筒をキーリィに差し出した。
キーリィは待ってましたとばかりに封筒を受け取り、その場に座り込んだ。原稿を丁寧に取り出す。
「『天使のお仕事』・・・僕の話?!これ、僕?!!」
「・・・モデルだけど」
キーリィは嬉しそうに、じっくりとページをめくり、真剣に読んでいる。佐藤は自分の作品を目の前で読まれていることが恥ずかしくて、飲み物を持ってくることを理由にその場を離れてしまった。コーヒーを入れている間、キーリィの様子を覗き見する。仕事を終えて疲れてるであろうに、真っ先に佐藤の原稿を読んでいるキーリィを、佐藤は愛しく思う。
「おもしろかった!」
「ほんと?」
「うん!特にね、主人公のエクルヴェージュが恋をした人間のルチアを悪魔から救うところでね、自分の天使の力を犠牲にしてまで悪魔を倒しちゃうところ!悲劇的な宿命を背負ってたルチアの運命ごと一緒に背負って生きていくと誓うなんて・・・僕もこんな天使になりたいって思っちゃった!感動したよ~!」
目をウルウルさせながら早口で一気に話すキーリィ。その様子に佐藤は、頑張って完成させてよかったと、心から思った。
「これ、どこかに出すの?」
「あ・・・そこまで考えてなかった。」
「え~もったいない!出してみたら?」
「でも・・・多分駄目だとおもうから・・」
「駄目じゃなかったらラッキーくらいの気持ちでだしてみればいいじゃん~せっかく三か月もかけて描いたんだよ?休日も寝る間も惜しんでさ。ね!僕も一緒に郵便局行くからさ!」
「・・・じゃあ、出してみる」
「やったー!僕、次の土曜日休みだよ?与一は?」
「俺も」
「じゃあその日で!ついでに美味しいものでも食べよ!」
「うん」
キーリィと佐藤はその後も漫画の話を続けた。次の漫画はこんなキャラクターを出したいとか、どんな展開が好きだとか。どんな話を描きたいだとか、あの作品が好きだとか、学生の頃の修学旅行の夜みたいに、話は尽きなかった。
土曜日。
佐藤は郵便局で、窓口の局員に封筒を渡す。緊張していた佐藤だったが、隣のキーリィをみると、いつもの笑顔で笑ってくれた。
安心した。
その後、二人でファミレスに入り、昼食を取る。
「キーリィ、ありがとう。」
「え?なにが?」
トマトを口に運ぶ手は止めずに、きょとんと佐藤を見たが、穏やかな顔でキーリィを見つめる佐藤に、食べるのをやめ、きちんと向き直る。
「俺、キーリィに出会えたおかげで、今楽しいっていうか・・また漫画も描けるようになったし、すごく、充実してる。仕事は、相変わらずきついけど、少しは課長に言い返せるようになってきたし、キーリィのおかげだ。ありがとう」
改めてお礼を言われて、照れるキーリィ。そして、にっこりと笑った。
「どういたしまして。じゃあ、もう大丈夫だね」
「行ってらっしゃい」
大晦日の朝、いつものようにリビングのさっしに足を掛け、飛び立っていくキーリィ。天使には年末年始は関係ないらしい。佐藤は洗い物を終え、押し入れから段ボールを取り出した。捨てるはずだった漫画道具。それを机に広げ、数年ぶりにインクの蓋をあける。
「まだ、使えるかな?」
佐藤は夢中で絵を描き始めた。
気づくと、真横から日差しが射している。
寝てしまったのか。
「それ、僕の絵?」
「うわぁ!!」
「隠さなくてもいいのに!」
口を尖らせて話すキーリィに、恥ずかしそうに絵を差し出す。
「みていいの?」
「うん」
佐藤が描いた絵を見て、笑顔になるキーリィ
「うわ~すごく可愛く描いてくれてる!」
本当はもっと綺麗に描きたかったのだが自分の画力では限界だったということは言えなかった。
「すごい!僕絵が描けないからほんと尊敬するよ!」
自分の絵を見て喜んでくれるキーリィをみて、とても嬉しく思う佐藤。
もっとキーリィの喜ぶ顔がみたい。
「もし、俺が漫画描いたら、読んでくれる?」
「・・・描くの?」
「また描いてみようと思って・・・」
「読む!やった~!楽しみにしてるよ!」
「うん」
キーリィがお風呂から出ると、佐藤はコタツにノートを広げ、真剣に何かを書いていた。その様子は、今まで見たなかで一番生き生きしていて、とても楽しそうだった。
「はい。コーヒー」
「ありがとう。テレビ、つけていいよ」
「ううん。大丈夫。僕、静かなのも好きだから」
キーリィは佐藤の向かいに座り、本を読み始めた。部屋には、鉛筆がノートを走る音と、ページをめくる音が響いていた。
「ふぅ~」
佐藤は作業がひと段落すると、大きく背伸びをした。時計をみると23時。いつの間にか三時間以上も経っていた。ふとキーリィがいないことに気づき立ち上がると、向かい側で寝ていた。
「キーリィ、コタツで寝ると風邪ひくよ」
「う~ん・・・もう少し・・・」
「年越しそばは食べないの?」
返事は無くなってしまった。確かにコタツで寝るとこうなってしまうのはわかるが、朝起きて全身の痛さとじっとり汗をかいた身体に後悔することも知っている。
佐藤はキーリィをコタツから引きずり出して、寝室へ運んだ。ベッドの上に寝かせると、コタツの暑さで頬が色づいており、汗で首筋には長い髪の毛が張り付いていた。その様子が扇情的で、生唾を飲んだ。張り付いた髪の毛を丁寧に剥がし、キーリィの頬を撫でる。起きる気配はない。ゆっくりと、自分の唇をキーリィの唇に近づける。
その瞬間、低い鐘の音が響いた。佐藤は我に返り、キーリィに布団をかぶせてやると、リビングへ戻った。何度も鳴る鐘に、急に恥ずかしくなる佐藤。
「はぁ。俺の煩悩もこの鐘と一緒に消えてしまえばいいのに」
佐藤は高ぶった気持ちを落ち着かせるために、浴室へ急いだ。
三か月後
いつものようにキーリィが窓から帰って来ると、漫画を描き始めてからずっと家では机に向かって作業をしているはずの佐藤が、ゆったりとリビングでくつろいでいた。
「おかえりキーリィ」
「ただいま与一!もしかして完成したの?」
佐藤は恥ずかしそうに「うん」と頷き、隠すように置いてあった封筒をキーリィに差し出した。
キーリィは待ってましたとばかりに封筒を受け取り、その場に座り込んだ。原稿を丁寧に取り出す。
「『天使のお仕事』・・・僕の話?!これ、僕?!!」
「・・・モデルだけど」
キーリィは嬉しそうに、じっくりとページをめくり、真剣に読んでいる。佐藤は自分の作品を目の前で読まれていることが恥ずかしくて、飲み物を持ってくることを理由にその場を離れてしまった。コーヒーを入れている間、キーリィの様子を覗き見する。仕事を終えて疲れてるであろうに、真っ先に佐藤の原稿を読んでいるキーリィを、佐藤は愛しく思う。
「おもしろかった!」
「ほんと?」
「うん!特にね、主人公のエクルヴェージュが恋をした人間のルチアを悪魔から救うところでね、自分の天使の力を犠牲にしてまで悪魔を倒しちゃうところ!悲劇的な宿命を背負ってたルチアの運命ごと一緒に背負って生きていくと誓うなんて・・・僕もこんな天使になりたいって思っちゃった!感動したよ~!」
目をウルウルさせながら早口で一気に話すキーリィ。その様子に佐藤は、頑張って完成させてよかったと、心から思った。
「これ、どこかに出すの?」
「あ・・・そこまで考えてなかった。」
「え~もったいない!出してみたら?」
「でも・・・多分駄目だとおもうから・・」
「駄目じゃなかったらラッキーくらいの気持ちでだしてみればいいじゃん~せっかく三か月もかけて描いたんだよ?休日も寝る間も惜しんでさ。ね!僕も一緒に郵便局行くからさ!」
「・・・じゃあ、出してみる」
「やったー!僕、次の土曜日休みだよ?与一は?」
「俺も」
「じゃあその日で!ついでに美味しいものでも食べよ!」
「うん」
キーリィと佐藤はその後も漫画の話を続けた。次の漫画はこんなキャラクターを出したいとか、どんな展開が好きだとか。どんな話を描きたいだとか、あの作品が好きだとか、学生の頃の修学旅行の夜みたいに、話は尽きなかった。
土曜日。
佐藤は郵便局で、窓口の局員に封筒を渡す。緊張していた佐藤だったが、隣のキーリィをみると、いつもの笑顔で笑ってくれた。
安心した。
その後、二人でファミレスに入り、昼食を取る。
「キーリィ、ありがとう。」
「え?なにが?」
トマトを口に運ぶ手は止めずに、きょとんと佐藤を見たが、穏やかな顔でキーリィを見つめる佐藤に、食べるのをやめ、きちんと向き直る。
「俺、キーリィに出会えたおかげで、今楽しいっていうか・・また漫画も描けるようになったし、すごく、充実してる。仕事は、相変わらずきついけど、少しは課長に言い返せるようになってきたし、キーリィのおかげだ。ありがとう」
改めてお礼を言われて、照れるキーリィ。そして、にっこりと笑った。
「どういたしまして。じゃあ、もう大丈夫だね」
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