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第三章 大奥義書グラン・グリモワール

51  激闘を終えて、ディードの覚悟

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漸く一息、かなあ?

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 大魔強襲スタンピードから3日、怪我人の治療は俺達が回復魔法ですぐ終わらせたが、城壁の外の街道や土地の整備など、色々と国が処理することがあったり、参戦した者達が休息を取れるようにとの配慮や、撃退記念のお祭り準備期間だとか。そして今夜から王城や、国を挙げてのバーティが数日続くらしい。お祭り好きだなー、この世界の人は。この国だけなのかも知れないけど。

 魔人を含め約10万以上という、歴史上初めてと言われる大規模大魔強襲スタンピードを俺達は半日も経たない時間で撃退した。これまでの大魔強襲スタンピードはどこの国でも、3日以上かけて漸く収集がつく程のもので、国内にも魔物が侵入し、犠牲者も多数出るものだったらしい。だが今回はアリアの極大魔法にアヤ、エリユズという超戦力、鍛えられまくった騎士団。前線は王国より数㎞手前で崩されず、いち早く王国全土に結界を張ったので空からも侵入はされなかった。そのせいで城壁の上から大勢の人々が、しかもあの残念王まで一緒に上から高みの見物をしていたらしい。見世物じゃねーっつうの。後でクソ親父を喚び出して相手をさせてやろうかと思っている。

 後方は俺とヨルムが大半を蹴散らした。大地が抉れたり、地面に大穴が空いたりと、多少地形を変えてしまったのは反省点だな。軽傷者は多数いても重傷者はほんの僅か、死者は出ていない。これもアヤやアリアが危ない場所を後方から回復や補助魔法で援護してくれた御陰だ。後ろ、背中を任せられるってのは大きい。守備やカバーがしっかりしているとスポーツでもそうだが、安定するってことだな。エリユズに騎士団長の2人がバーサーカーみたいになってたけどね。あの2人はまだいいとして、レイラやクレアに、実力に見合わない強力な武器を与えると良くないってのは重々理解した。人ってのは急に強い力を手にすると調子に乗ってしまうということだな。これは今後の自分への戒めにもしとく。

 ギルドでランクの更新もしてもらった。俺とエリユズの3人は無事揃ってSランクに昇格。これは国を挙げて祝福されるらしい。アヤもBランクに、そして改名して新しく登録し直したディードもBまで昇格だ。心を入れ替えて、ボロボロになっても立ち向かったんだ、それくらいは当然だろう。ギルマスのパウロはあまりの変化に驚いてたけど、これまでのことを謝罪してたし、結果的に良かったんじゃないだろうか。他国から来た冒険者達とも顔見知りになれたし、リチェスターから派遣されて来た冒険者達とも久々に会えて嬉しかった。どうやら俺は史上最短でSランクに昇格したらしいので、絶対に他の国からも注目されることになるとか。いやもう目立たないようにとか、結構諦めてきてるけどさ。怪物とか呼ぶのは勘弁して欲しい。

 今はアリアが大飯を食らっていた王城の食堂で適当に注文した軽食を、俺の滞在している部屋まで運んできてもらって、まあ雑談中だ。まだ食べたいと駄々を捏ねるアリアも連れてきた。こいつは実体でもアホみたいに食うのは変わらないのかね? 天界でのナギストリアのこと、神の試練、そして今回裏切った神々が遊戯の様に面白半分で演じている大奥義書、グラン・グリモワールについて話したところだ。ヤツの中に当時の中世の頃の記憶があるかも知れないしな。俺は無駄な記憶を破壊したから、全てを知っている訳じゃないし。昨日くらいまでは各々休息ということでだらだら過ごしてたので、それが今になったということ。はい、説明終わり!

「何だそりゃ? 魔人といい、碌な奴らがいねーな」

「へぇー、カーズの前に居た世界ってそんなのがあったのねー」

 エリユズはもう慣れてしまったようだな。さして驚きもしないし。これでいいんだろうか?

「よくそんなマニアックそうなの知ってたね」

「うーん、適当にネットサーフィンしてたら見つけたんだよ。中世に流行ってた黒魔術のフィクションだよ、悪魔を喚び出して契約したりする杖の作り方が書いてある。今はどっかの博物館に原書は保管されてるらしいけど。あの時代ってそういうの結構出回ってたみたいだし、宗教的に問題になるから禁書指定されたらしい。でもなー、遊び半分で進軍されちゃあ、やってらんねーよ。神の遊戯に付き合わされるのもな」

 アヤはあっちの記憶があるから話が楽だ。

「んー、なるほどなるほど、今カーズの記憶を読みましたけど、そのまんま模倣してますねー。しかも魔人に爵位というか冠位みたいなものを与えるとは…。彼らはもう完全に堕天してしまったようですねー」

 記憶を読むとか、毎回便利なやつだなあ。神格で繋がってるからなのかもだけど。

「それに竜王バハムートまで、無理矢理、隷属れいぞくの首輪とかいうもので操ってた。マジでふざけてやがる」

 その助けた少女は今、この部屋の予備のベッドで眠っている。首輪を破壊したせいで精神や肉体に負担が掛かったらしく、まだ目を覚まさないのだ。

「アレはこの世界では禁忌とされている、奴隷を従わせる代物の強力なものでしょうね。神気の痕跡からバアルゼビュートが作ったものでしょう」

「あの虫野郎か…。地球の伝承だと本来悪魔で蠅の王だ。その通りになったりするかもしれないよな。サタナキアの能力も奥義書通りだったし。それに、他の国でも似たようなことをする可能性もある。アリア、星の目スター・アイで何か視えないのか?」

「うーん、それがどうもあまり上手く機能してくれないんですよ。これはファーレの仕業かも知れません。次期大神候補とまで言われてた人ですからねー、チョベリバですよ」

 やっぱ言いやがった、太古の言葉を…。いつか言うとは思ってたけどな。

「おい、古代語を使うのはやめろ」

「テヘペロリンチョ!」

「それはもう聞いた、やめろっつってんだよ」

 コイツは…、全く、緊張感の欠片もないな。

「神界では分厚く猫被ってるので、反動がきました」

「やっぱりか、道理で変だと思った。絶対あのゼニウスのオッサンの影響だろ。もう脱線するからいらんこと言うな」

「まあまあ、でもそれだと他の国でもあんなのが起こってしまうってこと?」

 アヤの言葉に、うーむ、と全員が考え込む。同時に複数の国でやられたら、戦力的にもどうしようもない。サーシャとルクスも何処にいるのかわからないしな。

「あ、あのー…、今更ですけど、皆様は何の話をしていらっしゃるのですか? 神とか、悪魔とか…、話が、スケールが大き過ぎて…、何が何やらなのですが…」

「「「「あっ…!」」」」

 この数日、ふつーーに、自然に一緒にいたから存在を全く意識してなかったが、ついて来ていたディードがポカーンとしている。やっちまった!

「これは…、マズいわね…」

 ユズリハの言う通り、これは制約をかけないといけない。

「はあー、忘れていました…。ディード、ここで聞いた話を他言するのは禁止です。ちょっと手遅れですが、あなたの魂を縛ります、魂の制約ギアス!」
 
 アリアの手が光る。

「えっ?? ええーー!?」

「イヤミ、いやディードになったのよね。今アンタの魂に制約がかけられたから。ここにいる私達以外に話したら即死よ」

「まあこっちのミスだが、しゃーねーな。天界の禁足事項らしいからよ。俺らもかけられてる」

「は、はあ…。あなた方は一体何と闘って…? それにさっきの…。えーと、アリア様は何者なのですか? カーズ様のお姉様で師でもあると伺いましたけど…、え?」

「まあ仕方ありません。縛ってしまった以上、この際色々と話さないといけませんね…」


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「…ということで、私はこの世界の女神、カーズは神格を分けた弟、血の盟約を交わしたアヤちゃんも似たようなものです」

「え…? えええええ…?!」

 前回よりは大分端折ったけど、縛ってしまった以上仕方ないよな。そして当然驚くよね。意味不明だろ、いきなりそんなこと言われても。取り敢えず話題でも変えよう。

「ああ、そうだアリア、名前を与えるってのに何か意味があるのか?」

「そうですねー、憧れの人物や、力のある人物から名を貰うのは新たに生を受けるのと同義です。この子の力が急激に上がったのも、神格者のカーズが名前を与えてしまったので、普通のそれとは訳が違います。親が子に名を付けるときには、きっと様々な思いを託すのでしょう? 似たようなものです。あなたのドラゴンが強力になっていたのも、召喚術のランクに加え、名を与えたからでしょう? リスクがある訳ではないですが、その力が大きい程、相手の生き方や運命を変え、左右することもある。今回は知らなかったとはいえ、召喚獣につけるようにポンポンとやったらダメですよ」

「お前が先に色々と教えてくれてたら良かったんじゃねーか」

「何でもかんでも教えてたらどれだけ大変だと思ってるんですかー?」

「毎回それで色々言われるのは俺なんだけどな…」

 皆がくすくすと笑う。この世界の常識を知らない俺にとっては笑い事じゃないんだけどな。

「まあまあ、それよりディードはこれからどうするつもりなんですかー? 制約で縛ってしまった以上、王族はいつもここにいるから兎も角、ある程度の監視下には置かなければならないですからねー」

「あー、やっぱりそうなるか」

「ディードは、これからどうしたいの?」

 アヤが尋ねる。他のみんなも静かに答えを待った。

「それなら、わたくしも…、カーズ様と共に闘いたいです!! 名を変えたとはいえ、この国には…もう、居られないでしょうし…」

「まあ、散々悪さして来たんだし、仕方ないでしょ。自業自得よ」

 ユズリハは容赦ないなあ。エリックはどっちでも良さそうに、我関せずって感じだ。少し悲しそうな顔をするディード。

「なあ、俺にはディードがあの残りのクズ共とは違って、根っから悪い奴には思えないんだよな。何であんなのとつるんでたんだ? この際だし話してくれないか。無理にとは言わないからさ」

 俺にお願いをしてきたときの彼女は本当に真剣だったし、腐った奴があんなにボロボロになってまで闘ったりなどできない。

「…、そうですね、全てはわたくしが世間知らずだったことが原因です…」

 彼女の話では、ここから北東にある自由都市ライデン、その南部にあるエルフの隠れ里、うーんゲームとかでよくあるやつだな、そこで暮らしていたそうだが、双子の姉が優秀で、いつも比較されて辛い目に遭ってきたのだそうだ。そして、そんな自分を変えたくて里を飛び出し、この王国の近くで行き倒れていたところを運悪くあのワンコ共に拾われたそうだ。

 エルフは本来基本的に魔力が高い、ハーフのユズリハでもそうだし、それを知っていたあの雑魚軍団にうまく利用されたようだ。それに姉とのコンプレックスに悩んでいた彼女は冒険者としてランクが上がり、評価されることが嬉しくて、他を省みず、そして追い越されることを恐れるようになってしまった。朱に交われば何とやらだが、あのクズ共と一緒にいれば誰も自分を馬鹿にしてこない。そうやってどんどんと増長してしまったということだ。

 排他的な里の中で外の世界を知らずに育った彼女にとっては、認められることがただ嬉しかったのだろうが、最初に出会った奴らが悪かった。そんな世間知らずなところをつけ込まれたのだろう。後味は悪かったが、あの犬コロを半殺しにしておいて正解だったようだ。聞いてて虫唾が走った。だがここの出身でもないのに酷い名前をつけられたもんだな。双子は忌子とされるとか、そういう里もあるんだと。街に住んでるエルフはそういうのが嫌で出て来たのか、他から移って来たのだろうかね。

「…まあ、良くある話だな。世間知らずなところを偶然とはいえ、つけ込まれたのも同情はできるよ。でも俺達と一緒に来たいのなら、これまで迷惑を、自覚がなかったとはいえ、掛けてきてしまった人達全員に心から謝罪して来い。そのケジメがつけられないようなら、ただの逃げと変わらない。それじゃあ俺達だって信頼するのは難しいし、中途半端な気持ちで一緒に行動しても、すぐ死ぬことになる。魔人や神を相手にすることになるんだ。同行を許すかどうかには、それ相応の覚悟が必要だし、示してもらう。出来ないのなら、この話はナシだ。みんなの意見はどうだ?」

 ちょっと厳しいかも知れないが、悪いことをしたら謝るのは当然だしな。

「なんか珍しいね、でもカーズがそう言うんなら、それでいいよ、私は。一緒にレイピアの訓練も出来そうだしね」

 さすがアヤ様、寛大でいらっしゃる。

「そうだな、俺も大将に賛成だ」

「まあ、カーズの言う通りよね。アンタだけは国から捕縛されてないってことは、そこまでのことはしてないってことでしょうし。私も大将に賛成よ」

 エリユズも賛成か。

「そういうこと。つーかその大将っての止めてくんねーかな? アリアもそれでいいか?」

「私は特にー、みんなの意見に合わせますよー。フフフー、ディードもこってりと稽古をつけてあげましょうねー」

 もう半殺しメニューをやるつもりだよ、こいつ。何だかんだでもう受け入れる気なんだなみんな、うん、良い奴らに出会えたもんだ。

「……、わかりました。では今すぐ行って、わたくしの、この覚悟が本物であることを、証明して参ります!」

 迷いなく扉を開けて行ってしまった。覚悟があるのかを確認しようと思っただけなんだけどなあ。

「なあ、アリア、天秤は?」

「うーん、多少の怖れはあるようですが、気持ちは本物ですね。覚悟もあるみたいですよ。全く、恋する乙女は頑張り屋さんですよねー」

「?何のことだ?」

「アリアさん! そういうのに鈍感なんだから、自覚させちゃダメだよ!!」

 何言ってんだ?

「俺もよくわかんねー」

 エリックもわからんのかー。何だよ一体。

「全く、これだから男共は…、ヤレヤレねー」

 俺とエリックは顔を見合わせて、?? って感じだ。

「まあ、ああ言ったものの心配だし、気配遮断して追跡で様子を見て来るよ。みんなはゆっくりしててくれ」

 席を立つ。

「あー、うん、カーズはそう言うと思ってた。行ってあげて、私も心配だし」

 アヤに言われ、俺は城外に転移。気配を消して、城から出たディードの様子を見ることにした。もし暴行とかされたら止めないといけないしな。ちょっとストーカーぽいけど、いや探偵ということに、うん考えるのはよそう。


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 数時間、彼女の様子を見ていたが、街の人には結構好意的に謝罪を受け入れてもらっていた。時折怒られたりはしていたが、暴力を受けることはなかった。やはり思った通り、彼女単独で、街ではそんなに酷いことをしていなかったようだ。あのクズ共に連れ回されていただけなのだろう。それに城壁から彼女が街の為に必死に闘っていたのを見た人々も多くいたようだ。素直に謝罪する彼女に、逆にお礼を言う人もいた。最後に…、ギルドか。ここは嫌な予感がする…、俺も入ることにしよう…。



「何今更いい子ぶってんだあ!? テメエらのせいで俺らがどんだけ迷惑被ったのか覚えてねえのか!!!」

「わたくしが今迄してきたことは、許されないかもしれません…。ですので、こうして謝罪するしかないと…、本当に申し訳ありませんで、ぐふっ!?」

「そうか、なら今迄のお返しをキッチリしてやるぜ、おい、ひん剥いちまえ!」

「「「おおおお!!!」」

 謝罪しているのに、蹴りを入れるとは…。マズイな、大騒ぎになって来た。しかもこいつらは結界の中で震えていた連中だ、これまでのことを考えるとどっちもどっちだとは思うが、新しい一歩を悔い改めて前に進もうとしている人間に対してやることじゃないな。こいつらの方が腐ってやがる。

「ごめんなさい…、ごめんなさい…」

 泣きながら訴えるディード。あいつら…、相手が下手に出てたら調子に乗るとは…、許さん。それに寄って集って殴る蹴るの暴行され、ディードの服も破られて見ていられない。気配遮断を解く、魔力をわざと威圧するように可視化して体に纏う。そしてディードの前に瞬時に移動し、囲んでた奴らを吹き飛ばした。

「やめろ…、そこまでにしとけよ、お前ら…」

 攻撃的に神気覇気を放って雑魚共の動きを止める。そして地面にしゃがみ込んで泣いているディードに異次元倉庫から出したローブを被せる。

「う、あ…、あいつ、Sランクの邪神ご、カーズだ…」

「何で、こんなとこにいるんだ…?」

「どこにいたんだよ…、気配なんてなかったぞ」

「どうやら自己紹介はいらねえようだな…」

 一睨みしただけでこれか…、胸糞悪い。こいつら…

「カ、カーズ様…、どうして…?」

 涙が滲んだ目でこちらを見上げて来るディード。口が切れて血が流れている。やっぱりついて来て良かったぜ。

「あんなこと言ったものの、気になったしな、こういう時にすぐ飛び出せるようにしてたんだよ。お前はよく頑張った、もういい。ここからは俺の担当だ」

 雑魚共は俺の威圧で既に腰が抜けている。だが、こいつらは少々痛い目を見てもらう。

「なんで…アンタがここにいるんだ、こいつと何も関係ないだろ!」

「あ? 関係なくねえよ、彼女、ディードは俺が新しく名を与えた。俺の大切なPTメンバーなんだよ。お前ら、結界の中で震えてただけのくせに…、彼女が過去を悔やんで懸命に闘ってたのが見えなかったのか? これから罪を清算して新しく一歩を踏み出そうとしている人間に、しかも無抵抗な女性にここまでやるとはな…。お前らの方がよっぽどクズだ。全員覚悟はいいな…」

 わざとらしく拳をバキバキと鳴らす。

「く…、Sランクとは言っても所詮一人だ、全員でかかれ!!」

「「「「おおおお!!!」」」」

 雑魚共が大勢で向かってくる。多勢に無勢じゃないと粋がれないようなチキンはぶっ飛ばしてもいい、知るか!

 ドゴーン!!! 1人目、壁に頭から突撃。

「次はどいつだ?」

「くそっ、これでも喰らえ!」

 素手の相手に刃物を抜くか…。だが無駄だ、コイツら程度に俺の魔力鎧装が破れる訳がない。

 バキィィン!!!

「なっ、届く前に剣が砕けた!!」

 ドゴォッ!! 2人目、床にめり込んだ。

 1人ずつじゃ時間の無駄だ、その後は超手加減して素手や蹴りでの大立ち回りだ。魔力なんて込めたらこいつらなんざ即死だからな。映画で見てこういうの一回やってみたかった。でも雑魚相手じゃ一方的だけど。ということでひと暴れして魔物じゃないが、討伐完了。隅で震えている奴らは強烈な威圧を飛ばしたら泡を吹いて気を失った。

「雑魚が、超えちゃいけない一線てのがあるんだよ、って聞こえてないか…。よし、ディード帰るぞ」

 遠目に見ていた他国からの冒険者達と受付のカレンさんにゴメンね、と一言謝って、ディードを背負い、さっさと壊しまくったギルドを出た。ディードに回復もかけておいた。

「あー、後でパウロに怒られるかもなー。降格させられるかもだ」

 まだ背中で泣きじゃくるディードに声をかける。

「どうして…、わたくしが、悪いことを…、して、きたのに…、あなたは、助けて、くれた、の…?」

「お前は…、過去がどうあれ、頑張ってたじゃないか。その気になればあいつら程度素手でもぶっ飛ばせただろ。なのに必死に罪を清算しようと覚悟を決めて、痛くても我慢してただろ? それにさ…、俺もガキの頃、現実が受け入れられなくて馬鹿みたいに喧嘩や悪さしてた…、そんな腐ってた時期があるんだよ。誰にでも言いたくない過去の一つや二つ、間違いだって沢山ある。俺はこの世界に来る前は何の力もない人間だった。後悔も挫折も苦しみも、世の中の理不尽さも…、嫌ってくらい味わった。でも希望を捨てずに頑張ってたら…、良いことが絶対あるんだよ。俺は病気で何もできなかったから、そういう頑張ってる奴らが眩しかった。お前が街の人達に謝罪してたとき、みんな最後は許してくれただろ? それは、お前が頑張ってたのをちゃんと見てくれてた人がいるからだ。それで充分だよ。俺はお前を利用したりなんかしない。仲間はみんな大切だ、絶対に護る。だから…、もう泣くな、俺がつけたディードって名前のハイエルフは強い人だったんだからな」

「はい…、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます…、うぐっ…、うわあああああん!!!」

 余計に泣かせちゃったか。こういうときってどんな言葉をかけていいのか、難しいな。

「今夜はお城で宴会だ、PTメンバーが増えたのもお祝いしないとな。早く泣き止まないと目が腫れて、折角の美人が台無しになるぞ」

 泣きながらしがみ付いて来る力がギュッと強くなる。日が暮れてきた街並みを、ディードが落ち着くまで、ゆっくりと歩いて城まで帰ることにした。




「あなたに出会えて、本当に良かった…」

 ディードが何かぼそっと喋ったようだが、賑やかな街の喧騒で俺にはよく聞こえなかった。




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次回はお祭りですね(笑)
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