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第三章 大奥義書グラン・グリモワール
45 心の在り方
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まだ天界です
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…ここは何処だ? 見たこともない景色に、地球よりも遥かに高度な文明。その街が、世界が炎に包まれている。逃げ惑う人々、悲鳴に叫び、銃火器の鳴り響く音。そこかしこで爆発音も聞こえる。人々を襲っているのは…、この高度な文明には似つかわしくない、時代錯誤のような剣や槍を手にした輝く鎧を纏った奴らだ。そして、これは…、地下深くの避難シェルターか? 避難しているのは…、前世の姿の俺とアヤ? いや、似ているが少し違う…。周りに身を寄せ合って震えているのは家族や友人達、その家族か? それに俺達の抱いているのは赤ん坊?
ドオオーーーン!!!
シェルターの壁が破壊される。
「漸く見つけました。残りの清らかな魂の2人、いや、特異点の…」
これは…、泣いている、アリアか? だが全身血塗れだ、返り血だろうか?
「あの2人以外は殲滅かよ…、全く嫌な仕事だ…」
「天界の総意である以上、私達に拒否権はないわ…。二度目とはいえ…。苦痛を感じる前に魂を刈り取るしかない…」
ルクスにサーシャか? だが何て冷たい目だ…。そして二人もアリア同様夥しい返り血で汚れている。
「くそっ…、こんなところまで…。何なんだ、お前らは…?」
震えている。それに神の神気による威圧で身動きが取れない。
「私達は天界から降臨した神…。欲望に狂った全ての人間達の粛清…、そしてナギストリア、アガーシヤ、あなた方2人の魂の救済に来たのです…」
「救済…? どういうことだ! 神が直々に人間を殺しておきながら…、何を言ってるんだ…?」
「私とナギの2人だけ…? じゃあここに居るみんなは、それにこの子は…? まだ産まれたばかりなのに…」
「申し訳ありませんが…、例外は認められていないのです…」
涙を流しながら答えるアリア。
「悪いな…、そういうことだ…」
「せめて苦しまないように…、それが私達にできる唯一のこと…」
家族や友人達、その家族が次々と、一瞬の内に命を奪われていく絶望的な光景。悲哀、憤怒、後悔、引き離されまいと足掻く必死の抵抗。神の、人間の、互いの心の痛みが伝わって来る。何度もフラッシュバックする絶望しかない光景。世界が、この地上が滅びる…。誰か助けてくれ! この神の名を語る悪魔から…。絶対に許さん…、こいつら神々を、無力な自分を…。絶対に忘れない、いつの日か必ず…。無念さと恨みの気持ちを心の奥底にしまい込むも、負の感情に支配されていく…。救済だと? この光景の何処にそんなものがあるというんだ…。
「うあああああ!!!」
叫びながら上半身を起こす。今のは…夢? それにしては、余りにもリアル過ぎる…。
「…っ…、何だったんだ、ハァ、ハァ…、今のは…?」
全身すごい汗だ。そして拭った涙には血が混じっている…。なんて最悪の目覚めだ。
「あれは…、大虐殺のときの…? ヤツの記憶、なのか…?」
アイツに接触したことで、俺の中にヤツの記憶の一部が流れ込んできたということなのか? 体は…、異常はない。体力も魔力も全回復している。だが…
「カーズ! どうしましたか?!」
扉を開けてアリアが駆け込んで来る。ここは? そうだ、大神殿の中の一室だ。まるで王城の一室のような造り。俺が寝ているのはベッドか。アリアが側にやって来る。
「大声が聞こえたので…。…酷い汗です。それに涙と一緒に血まで…。何があったのです? まだ体調が優れませんか…?」
「アリア…、いや、体調はお陰様で問題ないよ。…夢を見たんだ。恐らくあれは大虐殺のときのヤツの記憶…。それにあれは…、俺達には子供がいたのか…?」
「ナギストリアとの接触の影響でしょうか…。あれはあなた自身でもある、きっと互いに同調する力が強かったのでしょう…。それに、はい…、あの時あなた達には小さな子がいました…。ですが…」
「例外は認められない…か」
「…ごめんなさい、あなたには嫌な思いをさせてばかりですね…。この世界で幸せに生きて欲しいと願ったはずなのに…」
顔を拭こうとしてアリアが手を伸ばしてくる。だがその手が、あの返り血で真っ赤に染まった手の記憶と重なり、脳内にフラッシュバックする。
「うわああああ!!」
バシッ!
「カ、カーズ…?!」
無意識にその手を払いのけてしまった。自分の心臓の鼓動が響く音がうるさい。俺は…、今恐怖を感じたのか?
「すまない、アリア…、そんなつもりじゃなかったのに…。でも、今のままじゃ…、俺は…、多分アイツとは、戦えない…」
いくら凄いスキルや肉体を貰おうとも、俺自身の心は只の人間だ。アイツは俺、そして俺よりも多くの苦しみを抱えている。ヤツの気持ちも理解できる。ヤツに攻撃したときに剣を抜けなかったのは、無意識とはいえ、そういうことだろう。今のままでは勝てない…。言葉も届かない…、無力だ…。単純なレベルやら技の問題じゃない。これは、心の在り方の問題なんだろう…、心が燃えない…。
「…わかりました…。あなたが苦しんでいることも…。アレは私達神の手で決着をつけなければならない相手。私達の行いへの贖罪も…。あなたが背負うべき業ではないのです。落ち着くまではここで静かに過ごすのも悪くないでしょう。ゼニウス様達にも伝えておきましょう」
アリアが贖罪と考えているのもわかる。裏切者達も含め、これが全て神の問題だと言うのなら、人間の俺には関係のないことだと言えるだろう。だが俺の体にも神の与えてくれた神格、血が流れている。簡単に割り切れない。もっと多くの神々を投入すればあっさり片が付くかも知れない。いや、でも…。くそっ、心が定まらない…。
「まあ待て、アリアよ」
フッ、とゼニウスにサーシャ、ルクスが側に転移して来た。
「そうだぜ、まだ混乱してるだけだ。カーズは人間だが神格を分けた弟。半分は神なんだ、こいつの気持ちも汲んでやれ」
「そうね、私達でさえ衝撃的だったのだから。カーズが葛藤し、悩むのは人間だからこそ。それこそが愛すべき人の心なのよ」
この2人の血塗れの姿も冷たい視線も、脳内にフラッシュバックする。くそっ、忘れろ。彼らにまで同じ対応をしたくはない。
「カーズよ、お主の抱える苦しみの全てが理解できるとは言わん。だからこれから、お主がどうしたいのか、時間が掛かってもよい、お主の言葉で話してくれぬか?」
過去はどうあれ、この人たちは俺のことをまるで家族のように考えてくれているのか。只の人間の俺を…。だが、心の中はぐちゃぐちゃだ。昏い闇の色と血の紅がマーブル模様のように渦巻いている。こんな状態でうまく言葉にできるのだろうか…。
「…先ずは、4人共ありがとう。それに、さっきは済まなかった、アリア。正直、自分でもどうしたらいいのかわからない。神々の業だとしても、全て任せて知らんぷりするのも違う気がするし…、ヤツの気持ちも理解できる…。ヤツとの決着は俺自身が付けなければきっと後悔すると思う。でも…、今の俺は…心の中がぐちゃぐちゃなんだ…。だからと言っていつまでもじっとしている訳にもいかない。俺なりの答えを見つけなければ。このままじゃあヤツには勝てないし、刃も曇ったままだ。何が正しい答えなのか、わからないんだ…。このままでは…、何の為に剣を抜くべきかもわからないままだ…。そんな状態でこの力を振るうのは…、何の意味もない只の悪質な暴力と同じだ…」
自分でも何を言っているのか…、支離滅裂だな。心の中はまだぐちゃぐちゃだ。正しい答え、そんなものがあるのか? だが、それを見つけない限りは…、俺はきっと前に進めない。
「…、ならばカーズよ、受けてみるか? ドベルグの道を進む神の試練を。その最下層へ辿り着くことができれば…、お主の探す答えが見つかるかも知れぬ。それはお主にしか見つけられないものなのだからな」
「…神の試練? ドベルグの道? その一番奥に俺が探す答えが…?」
「ゼニウス様! 人間のカーズにあれを受けさせるなど…、正気ですか!?」
アリアがゼニウスに食って掛かる。そんなに危険なのか…? だが、こうして迷っていても何も変わらない…、時間の無駄だ。ならばどれだけ辛かろうとも、それに挑む価値はある…かもしれない。
「…、アリア、大丈夫だ。俺が俺自身の答えを見つけるためにも、それがもし見つかるのなら、どんなに危険だろうが挑む理由はある。それに時間も惜しいしな」
「ハハッ、顔つきが変わったな。確かにここでウジウジと悩み続けるよりは暴れてくる方がスカッとするだろうよ」
「そうね、それにカーズはじっとしていられない性分なのでしょう? 分かり易いわ」
「はあ…、あなた達まで…。わかりました、でしたらもう止めません。それに、止めるだけ無駄でしょうし。でも、危ない時は無理せず戻るのですよ」
アリアも折れたか…、それに俺の性格上、言っても無駄だとわかってるしな。
「ああ、悪いなアリア、聞き分けが悪い弟で」
「いいえー、では師としてあなたに試練を与えます。抜刀術をモノにしてきなさい。鍛錬はしているようですが、まだ使いこなせていないでしょう? 心に迷いがある限りは使えない、だからこそ、この試練は予備を含めて女神刀二本で挑むこと、いいですね?」
「…ああ、わかった。必ずモノにしてみせる。ありがとう、姉さん」
先刻よりは気が楽になったような気がする。そうだ俺はどうやら立ち止まったらダメなタイプだったな、思い出したよ。
「では準備できたら案内しよう。大神殿の外へ来るがよい」
「「また後でね/な」」
3人の気配が消える。
準備を整え、ソードとナイフ、グローブもアリアへ渡す。そして予備の女神刀を受け取った。
「カーズ、いいですか…。神の試練を通過できた人族はいません。あなたなら大丈夫だと信じていますが…。能力も制限されるし、あの試練は心の強さを試される…、自分を強く持つのですよ」
「…ああ、ウジウジ考えるのはもうやめだ。俺なりの答えを見つけてくるさ。弟を信じて待っててくれよ」
大神殿の外へと転移する。3人は既に待ってくれている。丘の上から見下ろすエリシオン、あれだけドンパチやって荒れていた大地が何事もなかったかのように元通りとは…、謎だ。うん、これは考えたら負けなやつだ。そしてゼニウスの立つ後ろの空間に巨大な扉が出現している。何処から出したんだよ、全く…。
「これが神の試練、ドベルグの道へと続く扉。カーズよ、我らが神格を受け継ぎし子よ、必ず無事で帰って来るのだぞ」
「ああ、絶対に戻って来る」
頷き、答える。
「「「カーズ!」」」
アリア達が俺の背に向けて名前を呼ぶ。
「じゃあ、行ってくるよ。必ず乗り越えてみせる」
振り向いて答えてから、俺は試練の巨大な扉を開け、その中へ入った。
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さあカーズは何を見つけるのかな?
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…ここは何処だ? 見たこともない景色に、地球よりも遥かに高度な文明。その街が、世界が炎に包まれている。逃げ惑う人々、悲鳴に叫び、銃火器の鳴り響く音。そこかしこで爆発音も聞こえる。人々を襲っているのは…、この高度な文明には似つかわしくない、時代錯誤のような剣や槍を手にした輝く鎧を纏った奴らだ。そして、これは…、地下深くの避難シェルターか? 避難しているのは…、前世の姿の俺とアヤ? いや、似ているが少し違う…。周りに身を寄せ合って震えているのは家族や友人達、その家族か? それに俺達の抱いているのは赤ん坊?
ドオオーーーン!!!
シェルターの壁が破壊される。
「漸く見つけました。残りの清らかな魂の2人、いや、特異点の…」
これは…、泣いている、アリアか? だが全身血塗れだ、返り血だろうか?
「あの2人以外は殲滅かよ…、全く嫌な仕事だ…」
「天界の総意である以上、私達に拒否権はないわ…。二度目とはいえ…。苦痛を感じる前に魂を刈り取るしかない…」
ルクスにサーシャか? だが何て冷たい目だ…。そして二人もアリア同様夥しい返り血で汚れている。
「くそっ…、こんなところまで…。何なんだ、お前らは…?」
震えている。それに神の神気による威圧で身動きが取れない。
「私達は天界から降臨した神…。欲望に狂った全ての人間達の粛清…、そしてナギストリア、アガーシヤ、あなた方2人の魂の救済に来たのです…」
「救済…? どういうことだ! 神が直々に人間を殺しておきながら…、何を言ってるんだ…?」
「私とナギの2人だけ…? じゃあここに居るみんなは、それにこの子は…? まだ産まれたばかりなのに…」
「申し訳ありませんが…、例外は認められていないのです…」
涙を流しながら答えるアリア。
「悪いな…、そういうことだ…」
「せめて苦しまないように…、それが私達にできる唯一のこと…」
家族や友人達、その家族が次々と、一瞬の内に命を奪われていく絶望的な光景。悲哀、憤怒、後悔、引き離されまいと足掻く必死の抵抗。神の、人間の、互いの心の痛みが伝わって来る。何度もフラッシュバックする絶望しかない光景。世界が、この地上が滅びる…。誰か助けてくれ! この神の名を語る悪魔から…。絶対に許さん…、こいつら神々を、無力な自分を…。絶対に忘れない、いつの日か必ず…。無念さと恨みの気持ちを心の奥底にしまい込むも、負の感情に支配されていく…。救済だと? この光景の何処にそんなものがあるというんだ…。
「うあああああ!!!」
叫びながら上半身を起こす。今のは…夢? それにしては、余りにもリアル過ぎる…。
「…っ…、何だったんだ、ハァ、ハァ…、今のは…?」
全身すごい汗だ。そして拭った涙には血が混じっている…。なんて最悪の目覚めだ。
「あれは…、大虐殺のときの…? ヤツの記憶、なのか…?」
アイツに接触したことで、俺の中にヤツの記憶の一部が流れ込んできたということなのか? 体は…、異常はない。体力も魔力も全回復している。だが…
「カーズ! どうしましたか?!」
扉を開けてアリアが駆け込んで来る。ここは? そうだ、大神殿の中の一室だ。まるで王城の一室のような造り。俺が寝ているのはベッドか。アリアが側にやって来る。
「大声が聞こえたので…。…酷い汗です。それに涙と一緒に血まで…。何があったのです? まだ体調が優れませんか…?」
「アリア…、いや、体調はお陰様で問題ないよ。…夢を見たんだ。恐らくあれは大虐殺のときのヤツの記憶…。それにあれは…、俺達には子供がいたのか…?」
「ナギストリアとの接触の影響でしょうか…。あれはあなた自身でもある、きっと互いに同調する力が強かったのでしょう…。それに、はい…、あの時あなた達には小さな子がいました…。ですが…」
「例外は認められない…か」
「…ごめんなさい、あなたには嫌な思いをさせてばかりですね…。この世界で幸せに生きて欲しいと願ったはずなのに…」
顔を拭こうとしてアリアが手を伸ばしてくる。だがその手が、あの返り血で真っ赤に染まった手の記憶と重なり、脳内にフラッシュバックする。
「うわああああ!!」
バシッ!
「カ、カーズ…?!」
無意識にその手を払いのけてしまった。自分の心臓の鼓動が響く音がうるさい。俺は…、今恐怖を感じたのか?
「すまない、アリア…、そんなつもりじゃなかったのに…。でも、今のままじゃ…、俺は…、多分アイツとは、戦えない…」
いくら凄いスキルや肉体を貰おうとも、俺自身の心は只の人間だ。アイツは俺、そして俺よりも多くの苦しみを抱えている。ヤツの気持ちも理解できる。ヤツに攻撃したときに剣を抜けなかったのは、無意識とはいえ、そういうことだろう。今のままでは勝てない…。言葉も届かない…、無力だ…。単純なレベルやら技の問題じゃない。これは、心の在り方の問題なんだろう…、心が燃えない…。
「…わかりました…。あなたが苦しんでいることも…。アレは私達神の手で決着をつけなければならない相手。私達の行いへの贖罪も…。あなたが背負うべき業ではないのです。落ち着くまではここで静かに過ごすのも悪くないでしょう。ゼニウス様達にも伝えておきましょう」
アリアが贖罪と考えているのもわかる。裏切者達も含め、これが全て神の問題だと言うのなら、人間の俺には関係のないことだと言えるだろう。だが俺の体にも神の与えてくれた神格、血が流れている。簡単に割り切れない。もっと多くの神々を投入すればあっさり片が付くかも知れない。いや、でも…。くそっ、心が定まらない…。
「まあ待て、アリアよ」
フッ、とゼニウスにサーシャ、ルクスが側に転移して来た。
「そうだぜ、まだ混乱してるだけだ。カーズは人間だが神格を分けた弟。半分は神なんだ、こいつの気持ちも汲んでやれ」
「そうね、私達でさえ衝撃的だったのだから。カーズが葛藤し、悩むのは人間だからこそ。それこそが愛すべき人の心なのよ」
この2人の血塗れの姿も冷たい視線も、脳内にフラッシュバックする。くそっ、忘れろ。彼らにまで同じ対応をしたくはない。
「カーズよ、お主の抱える苦しみの全てが理解できるとは言わん。だからこれから、お主がどうしたいのか、時間が掛かってもよい、お主の言葉で話してくれぬか?」
過去はどうあれ、この人たちは俺のことをまるで家族のように考えてくれているのか。只の人間の俺を…。だが、心の中はぐちゃぐちゃだ。昏い闇の色と血の紅がマーブル模様のように渦巻いている。こんな状態でうまく言葉にできるのだろうか…。
「…先ずは、4人共ありがとう。それに、さっきは済まなかった、アリア。正直、自分でもどうしたらいいのかわからない。神々の業だとしても、全て任せて知らんぷりするのも違う気がするし…、ヤツの気持ちも理解できる…。ヤツとの決着は俺自身が付けなければきっと後悔すると思う。でも…、今の俺は…心の中がぐちゃぐちゃなんだ…。だからと言っていつまでもじっとしている訳にもいかない。俺なりの答えを見つけなければ。このままじゃあヤツには勝てないし、刃も曇ったままだ。何が正しい答えなのか、わからないんだ…。このままでは…、何の為に剣を抜くべきかもわからないままだ…。そんな状態でこの力を振るうのは…、何の意味もない只の悪質な暴力と同じだ…」
自分でも何を言っているのか…、支離滅裂だな。心の中はまだぐちゃぐちゃだ。正しい答え、そんなものがあるのか? だが、それを見つけない限りは…、俺はきっと前に進めない。
「…、ならばカーズよ、受けてみるか? ドベルグの道を進む神の試練を。その最下層へ辿り着くことができれば…、お主の探す答えが見つかるかも知れぬ。それはお主にしか見つけられないものなのだからな」
「…神の試練? ドベルグの道? その一番奥に俺が探す答えが…?」
「ゼニウス様! 人間のカーズにあれを受けさせるなど…、正気ですか!?」
アリアがゼニウスに食って掛かる。そんなに危険なのか…? だが、こうして迷っていても何も変わらない…、時間の無駄だ。ならばどれだけ辛かろうとも、それに挑む価値はある…かもしれない。
「…、アリア、大丈夫だ。俺が俺自身の答えを見つけるためにも、それがもし見つかるのなら、どんなに危険だろうが挑む理由はある。それに時間も惜しいしな」
「ハハッ、顔つきが変わったな。確かにここでウジウジと悩み続けるよりは暴れてくる方がスカッとするだろうよ」
「そうね、それにカーズはじっとしていられない性分なのでしょう? 分かり易いわ」
「はあ…、あなた達まで…。わかりました、でしたらもう止めません。それに、止めるだけ無駄でしょうし。でも、危ない時は無理せず戻るのですよ」
アリアも折れたか…、それに俺の性格上、言っても無駄だとわかってるしな。
「ああ、悪いなアリア、聞き分けが悪い弟で」
「いいえー、では師としてあなたに試練を与えます。抜刀術をモノにしてきなさい。鍛錬はしているようですが、まだ使いこなせていないでしょう? 心に迷いがある限りは使えない、だからこそ、この試練は予備を含めて女神刀二本で挑むこと、いいですね?」
「…ああ、わかった。必ずモノにしてみせる。ありがとう、姉さん」
先刻よりは気が楽になったような気がする。そうだ俺はどうやら立ち止まったらダメなタイプだったな、思い出したよ。
「では準備できたら案内しよう。大神殿の外へ来るがよい」
「「また後でね/な」」
3人の気配が消える。
準備を整え、ソードとナイフ、グローブもアリアへ渡す。そして予備の女神刀を受け取った。
「カーズ、いいですか…。神の試練を通過できた人族はいません。あなたなら大丈夫だと信じていますが…。能力も制限されるし、あの試練は心の強さを試される…、自分を強く持つのですよ」
「…ああ、ウジウジ考えるのはもうやめだ。俺なりの答えを見つけてくるさ。弟を信じて待っててくれよ」
大神殿の外へと転移する。3人は既に待ってくれている。丘の上から見下ろすエリシオン、あれだけドンパチやって荒れていた大地が何事もなかったかのように元通りとは…、謎だ。うん、これは考えたら負けなやつだ。そしてゼニウスの立つ後ろの空間に巨大な扉が出現している。何処から出したんだよ、全く…。
「これが神の試練、ドベルグの道へと続く扉。カーズよ、我らが神格を受け継ぎし子よ、必ず無事で帰って来るのだぞ」
「ああ、絶対に戻って来る」
頷き、答える。
「「「カーズ!」」」
アリア達が俺の背に向けて名前を呼ぶ。
「じゃあ、行ってくるよ。必ず乗り越えてみせる」
振り向いて答えてから、俺は試練の巨大な扉を開け、その中へ入った。
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