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第二章 王国奪還・記憶の煌き

28  記憶の煌き、神気を解き放て!

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今回はちょっとテイストが違うかもです

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 俺の脳裏に、封印されていた記憶の最後のピースがはめ込まれるような映像が浮かぶ。

 あや、俺が生涯唯一心から愛した女性。あの町で隣に住んでいた1つ歳上の女の子。体があまり丈夫じゃなかった彼女の手を引っ張って、よく外へ出かけた。可愛いらしいストレートの赤毛がかった髪の毛。目鼻立ちもはっきりとしていて、大きな瞳に小さな口。強気で強情で意地っ張り、短気でやきもち焼き、でも本当は優しくてさみしがり屋で、俺にいつも甘えてくれて、それが可愛くて仕方なかった小柄な女の子。俺の練習や試合にはいつも母親と一緒に見に来てくれた。子供のくせに生意気にも将来の約束をしたんだ。俺がプロになって大金を稼いで、彼女の体を治してやる。それが夢の一つになっていた。でも帰国することになって…。

「行かないで! ずっと一緒だって言ったじゃない!」

 泣きながら叫んだ彼女の心の慟哭。

「プロになって、この国に戻って来るから。少しの間我慢しててくれ…」

 そんなカッコつけた台詞を吐いて帰国した俺を待っていたのは、負担の大きい土のピッチだった。慣れなかった、ようやく感覚が掴めてきて、プロクラブからのオファーを貰ったところだった。膝に取り返しのつかない重傷を負ったのは。それからどんなにリハビリしても、本来のプレーが全く出来なくなった。勿論契約も…。夢を失った俺は、その鬱憤を晴らすかのように喧嘩三昧だった。そんな自分を見失っているときだ、彼女の母親から国際電話が届いたのは…。

 俺は必死でアルバイトして渡航費用を稼ぎ、飛行機に飛び乗った。プロになって帰ると約束したってのに。でも俺が着いた時にはもう、全てが遅かった。俺が最後に目にすることが出来たのは、少し大人びた容姿になった死に化粧の彼女だった。彼女の母親は「ごめんね」という、彼女の俺への最後の言葉を伝えてくれた。「あなたの人生はこれからなんだから、この子のことは忘れて幸せにならないとダメよ」と励ましてくれたおばさん。でも忘れられるわけがなかった。何で謝るんだよ、謝らないといけないのは俺の方だ。涙と後悔しかなかった。

 そうか…、あのときに俺はもう既に壊れていたのか…。病気は後々になってそれが表面化したってことだったんだな。彼女を救う、守ってみせる? 俺は大嘘吐きだ、また守れなかったじゃないか…。彩を残った左手で抱き起こす。

「ふふ、彩、って、呼ん、でくれ、たね…。やっぱり、ナギくん、だったんだ…。そんな、気が、し、てたんだ…」

 彼女の大きな瞳から涙が零れ落ちる。

「つ…っ、何で、俺を助けたりしたんだ…」

 だめだ、もう涙で目の前はぐしゃぐしゃだ。

「だって…、いつ、も守っ、て、くれ、た…、から…」

 そんなことない! 俺は結局君を救えなかった。守るなんて言っておいて、大嘘吐きだ。しかもまた会えたというのに、今度は守られた。なんて情けない…、俺はなんてクズ野郎なんだ!

「また、どこかで、会え、るから…ね。泣き虫、なのも、変わら、ない、ね。ごめ、んね…」

 彩が目を閉じる。なんでまた君が謝るんだ、謝らなければならないのは俺の方じゃないかよ…。生きている君に会えたのは何十年振りだったのに。これだけしか話も出来なかった。何だよ、世界ってのは、本当に愛している人と一緒にいることさえも許されないっていうのか。

「これが、俺みたいな奴には相応しい、世界のことわりだとでも、言うのか…」

 声にならない嗚咽がもれる。だが、もう彼女は…。どれだけ涙を流そうとも戻ってこないんだ。どこかで会える? この広い世界でまた生まれ変わった君を探して見つけることなど、不可能だ…。俺は、何て無力なんだ!!!! 砕けた拳を何度も床に叩きつける。

「なるほど、前世からの悲恋か。よくあることだな、下らん。だが心配するなカーズよ、お前もすぐに同じところへ送ってやろう」

 パズズの声が聞こえる。うるせえよ、同じところってどこだよ、嘘吐きの俺が彼女と同じところになんて行けるわけがないだろうが。そうか…、神のテメーにとっては下らない程こんなことは目にしてきたって言いたいのか。うるせえ、他と一緒にするんじゃねえ…。俺にとって彼女は唯一人なんだよ!

「彩ああああああああああ!!!!」

 ゴウッ!!!!

 何だ? 今までに感じたことのない力が俺から溢れだした。記憶の最後の封印が外れたことで深層心理の奥に隠されていた神格が輝き始めたのか…、今ならそれがわかる。様々な感情が絡まり合って脳も心もズタズタだが、この心の奥底に眠っていた神格から暖かい力が溢れてくるのが。そして俺の体を覆うように燃え盛る銀色の炎のようなオーラ、それを真紅の光が炎の先端を覆うように縁取っている。これが俺の神気か…。

<神格が解放されました、それに伴い神気が発動します。全能力が大幅にアップ、各スキルのランクが解放、更新されます。神気が発動したことにより奥義が使用可能になります>

 そうか、奥義を使えるか…。それは神気があってはじめて可能だったってことだな。いや、今は彩の傷を治さなければ! だがどれほど回復魔法を、しかも最高ランクの<ヒーラガ体力・HP完全回復>を使っても治らない! くそっ、もう助けられないのか?! 神格が認識できても、神気があっても唯の一人も助けられないじゃないか…。どうしたらいいんだ!?

『カーズ、聞こえますか、カーズ』

 この声、念話か!?

「アリアか? そっちはどうなった? いや、そんなことよりも彩が…」

『封印が壊れちゃったんですね…、辛かったでしょうに…』

「俺のことはいい! 彩を助けられないのか!?」

『彼女の体からはもはや魂が抜けています。回復魔法では無理です…』

「じゃあ、あの魔法は? リザレクション死者復活、あれなら助けられるだろ!?」

『あの魔法は死者を復活させるという、世界の因果を捻じ曲げてしまう程の魔法。下位魔人の意識を復活させるのとは訳が違う、神格を持っていたとしても、純粋な神にのみ使用できる代物なのです。今の状況では使えません…』

「…っ、じゃあどうしようもないってのか?! 折角また会えたというのに…、こんなのってあるかよ…」

『一つだけ…。彼女にあなたの神格の一部を授ける、あなたの使徒として新たな命を与えるということなら出来ます』

「だったらそれでいい! どうやるんだ?」

『でもよく考えて下さい。神格を与えるということは、今のカーズ、あなたと同じ、不老不死に人を超える力を与えるということと同義。彼女は人としての生を送れなくなるということなのですよ』

「そうだな、そうかも知れない…。でも彼女を救うことの方が、世界がどうかとかよりも…俺にとってはよっぽど優先事項なんだよ。それにこれからずっと永い時を一緒に過ごせるのなら、俺には迷う理由はない。それに俺がこういう答えを出すなんてとっくにわかってるんだろ?」

『はぁー、そうでしょうね。あなたはそういう人ですよね、分かってましたよ。ただ覚悟を知りたかっただけですから。では彼女にあなたの血を与え、使徒化の儀式、血の盟約を行って下さい』

「血はたくさん流れてるからいいとして、儀式なんてどうやるんだよ?」

『できますよ。神格が解放されたことで、あなたは<もう既に知っている>はずです』

 そうか最初にスキルを認識したときの様な感覚か。目を閉じて神格を強く認識する、脳内や記憶から既に知っているという感覚で、その情報が伝わって来る。確かにあのときと同じ感覚だ。

「理解した。早速行わせてもらう」

『まあ可愛い妹が出来るようなものですかねー、私としては…』

 俺は一番流血が酷い右腕を、彼女の胸に空いた血が溢れていた穴の上に自身の血をポトポトと垂らし、流し込んだ。そして頭に浮かぶ祝詞のりとを読み上げる。

「我が名はカーズ。正義と公平を司る女神アストラリアの神格を受け継ぎし者。この者に我が心血を通して神格を与え、使徒と成さん。新たな永き生を我が傍らにて共に過ごせ! ここに血の盟約を完了する!」

 カッ!!! ドオオオオオオンン!!

「うおっ?!」

 眩い光の柱が天上から降り注ぎ、彼女を包む! 彼女の体から神格の輝きを感じる。成功したのか? 胸の傷も塞がっているし、真っ青だった肌は血色を帯びてきた。そしてゆっくりと目を開ける彩。良かった…、成功したんだな。

『うんうん、成功ですねー』

「彩! 大丈夫か? しっかりしろ、返事をしてくれ!」

「あはは、大丈夫だよ。それに力が溢れてくるような感じ」

 彩をがばっと片腕で抱きしめる。良かった…、もう決して失いはしない! また涙が溢れ出す。

ナギくん、痛いよ。苦しい、また死んじゃうよ…」

 彩の声も涙声だ、そしてその腕で俺を抱きしめ返してくれた。ああ、本当に良かった…。

「ありがとう、君の声、暗闇の中で聞こえたよ。それに色んなことも」

「うん、まずは良かったよ…。でもまだ終わってない。ちょっと待っててくれ、あいつにキッチリ礼を返してくるからさ」

 パズズに向き直る。体はボロボロだが、不思議ともう痛みはない。

「もう茶番は済んだか、カーズよ。神格を感じ取れるようになったか。その銀色に輝く真紅の炎のようなオーラ、それがお前の神気というわけか。なるほど、燃えるような闘志を持つお前に相応しい神気だ。面白い! これで漸く戦いになるかも知れんな」

『カーズ! 神格を燃やしなさい! それは神としての心の強さ、燃焼し、爆発させることで神気は無限に高まるのです!」

「ああ、分かったよ」

 要は小宇宙みたいなもんだろ? 俺は大好きなんだよあの作品。だからイメージはばっちりだぜ!

「うおおおおお!!! 燃えろ! 俺の神格よ!! 爆発しろ!! 湧き上がれ神気よ!!!」

 さあ、決着をつけてやる。色々と御高説感謝するぜ、だが俺の心の最も大切な部分に土足で踏み入り、愛する人を傷つけた罪は例え神だろうが容赦はしないからな。



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  さすがに、次で綺麗に纏めたい!
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