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プロローグ

寝返り

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 残骸となった騎士と魔物の中を渡り歩く。
 荒野に広がるすべてが赤と緑の血に染まり、草原は気色の悪い色に変化していた。
 既に荒された後で、奥に立ちすくむ後ろ姿は…………。

「やぁ、待ってたよシンラ。到着にしては……随分遅かったね?」
「……お前がやったのか……セツナ」

 答えが欲しかった。
 僕はやっていないと、信じたかった……。
 だが、この惨状とセツナの服を見れば自然と目線を逸らしたくなるのは人の本能だろう。
 こびりついた血と、生臭い悪臭が鼻に来る。
 振り返るセツナの顔に付着している緑色の血は、それを物語っていた。

「ああ、これかい? いやぁ、僕に歯向かって来たもんだからさ……殺したよ」
「騎士もかッ!?」

 腹から込み上げる怒りを露わにした俺は強気でそう答えた。

「仕方ないでしょ。そこにいたのが悪いんだよ」

 クスリと微笑む、口元に付いた血を舌で舐める。

「……ッ他の三人は一緒じゃないのか?」
「ああ、今はいないよ。ここにいるのは僕だけだ」
「俺を待っていたとお前は言った。何で……何故俺を待っていた?」
「そうだねぇ。この惨状を見れば明らかだけど、魔物はこれだけじゃない。次の軍がまた王国に襲撃してくる。恐らくこの倍以上は来るだろうね」
「まさか、一緒に戦ってくれ……何て言いだすんじゃないだろうなぁ?」

 セツナと協力し合う何て真っ平ごめんだ。

「アハハッ、何で僕が君と仲良く協力しなくちゃいけないんだ? ふざけるなよ。次の軍は君一人で相手するんだよ。それこそ、最底辺から汚名返上する手段じゃないかなと思ってさ」
「は?」
「だからさ、僕の役目はここまでだ。あとは君の仕事だよ大賢者シンラ君」

 ザッザっと足を動かし、俺の横へ来たセツナは肩をポンと叩く。

「血反吐吐きまくって、ドロドロに……傷だらけになるまで……。この窮地を脱してくれよ大賢者……シンラ君」

 俺を煽るようにそう言葉を漏らすと、セツナは門の奥へ去って行った。
 そしてギギギと鉄音を立て閉じる。
 鼻歌混じりにリズムを取って、お気楽なもんだな。
 ふぅっと呼吸を整え、遠方から列に並んでいる魔物を発見した。
 律儀に並び、行進している姿を見ると……、不覚にバカにされているような気分だ。

「バカにしてんのか?」

 思わず苦笑を零し、やれやれと真正面に突っ込んで行った。
 仮にここで最底辺の恩恵が使えなくても、俺には大賢者としての力もある。
 魔物の目前まで到着すると……。

「ほう、一人で我々と戦いに来るとは……、バカにしているのかァッ!!?」

 グワァッ!! と一人で戦いに来た事に憤怒した魔物。
 何をそこまで怒るのだと呆気に取られていると……。

「もういい。一切合切すべて焼き尽くせぇぇえぇぇぇぇぇえええッッッ!!」

 耳にジンジンと響き渡る様な声が荒野を揺るがす。
 同時に、魔物の背後にいた魔物達は一斉に向かって来る。
 あ……、これは流石にヤバい。
 生まれて初めて、魔物の怖さを知った。
 ビクビクと震える身体が抵抗を許さない。
 魔術を発動させるほどの距離もなければ、それに対抗する手段も無い……。
 これは本当にマズい……。
 ガリガリガリイリリリッッッ!!
 と、魔物達の鋭い爪が俺の身体中を切り刻んでいく。

「うっぐぅぅぅぅぅッ!?」

 掠り傷程度だが、身体に染み付いた傷がズキズキと痛みだす。
 やがて耐えられなくなり、俺は横転する。
 そして────

「人間なんてこんなものだ。一人では何も出来ない。その愚かさが、我らに火を付けた。そして知れ、人間が如何に最弱な生き者なのかを……な」

 次々に溢れる魔物達は、俺の足や腹部や顔などを蹴るなり殴るなりしてくる。
 必死に防御しようと行使するが、それも無駄である。
 痛みが……治まらない。
 このままでは……?
 もうダメだと悟った俺は、咄嗟に腕にしがみついていた魔物を振り払おうと掲げた……。
 すると────

「……俺、強くなってる?!」

 身体中の痛みは自然と無くなり、力が込み上げてくる。
 これは……魔喰らいが発動したのだろうか……?
 そういう事か。魔喰らいは攻撃を受けるごとに強さが上昇していく。
 それなら…………。

「ハァ……ハァ……ハァ……。さぁ……遠慮なく俺に攻撃してくれッ!!」
「バカなッ!? 魔物達の攻撃を受けて……喜んでいる……だとッ!?
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