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プロローグ

変化

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 暗闇の中で、走馬燈の様に嘗て仲間達と過ごした日々が流れていた。
 互いに協力し合い、巨大な敵を倒す為に幾つもの時間と命を削って来た……。
 その中でも、大賢者として名を連ねて来たが、どうやらここまでのようらしい。
 俺は世界に見捨てられ、仲間達にまでも見放された……。
 これ以上、滑稽な話があるだろうか?
 クク、と自分を笑った。

「ここで死ぬのなら……本望なのかもしれないな」

 セツナやクレンの言う通り、俺は不要となった。
 世界共通で最底辺の恩恵「魔喰らい」は、邪悪なモノを呼び寄せるものだ。
 他の皆からすれば、当然有害でしかない。
 だとしても俺は────こんな結末は間違っている!!

「起きろ……」

 おっさんの声が脳内に響き渡る。
 誰だ? 俺を呼ぶのは……?

「起きて戦え。それが貴殿に出来る事だろう?」

 ハッ、と我に返った俺は目を見開いた。

「ここは……?」


 見慣れた城内の風景。
 何度も入り浸った覚えがあるそこは、俺が世話になったカバルト王国。
 そして、目線の先にいる白髭の生えたおっさんは……国王陛下だ。

「セツナに聞いた。無事に女神から恩恵を授けられたらしいな。セツナ達は貴殿より先に戦場に向かうと言っていたぞ。向かってくれるな?」

 国王陛下直属の言葉に、真意はいらない。
 嘗て独り身だった俺を救ってくれたのは、紛れもないこの人だ。
 俺はこの人を裏切れない。

 ────たとえ、これがセツナ達の策略だったとしても────

「……わかりました」

 国王に返事を返した俺は、集まる騎士達に一瞥もくれず先へ急いだ。
 足を運ぶ最中、騎士達が小言で話をしているのが聞こえた。

「全く迷惑な話だよなぁ。魔喰らいだってよ?」
「ああ、例の最底辺の恩恵だろ? 他の四人はさらに巨大な恩恵を手に入れたって話だ」
「国王陛下もあんな使えない男、さっさとクビにすればいいのにね」

 丸聞こえである。
 俺に降りかかる冷たい眼差しや、心臓を鷲掴みされるような声が痛感する。
 右手でギュッと胸を掴む。
 魔喰らいという恩恵だけで、こんなにも周囲の評価は下がるものなのか?
 先日までは「大賢者様!!」などと、俺を快く慕ってくれた連中が、今では虫の息だ。
 平気で人を貶し、悪評することが本当に騎士のすることなのか?
 否、断じて否だ。
 今まで俺がして来た功績はこの国の為に役立ってきたはずだ。それをたった一つの恩恵で崩壊するなんて……。
 何かあるはずだ……。
 俺がここまで地位を落とされる。本当の理由がな。
 首を横に振るい、忘れるようにその場を後にした。
 目標は、現在国に襲撃を仕掛けようとしている魔物達の対処。
 先にセツナ達が先陣切っていると国王が漏らしていたが、その真意も定かではない。
 俺を蹴落とした連中が協力して戦う何て真似はしないだろう。
 十中八九、この機に生じて仕掛けてくる……か?
 いや、考え過ぎか。

 城から外へ出ると、冷たい風が頬を横切る。
 空は曇り。街並みは殺風景だ。
 何万人といた人達が、皆姿を隠したように見える。
 当然といえば当然だろう。
 魔物が襲撃してくると事前に知っていれば、民家に身を隠すのは常識だ。
 気がかりなのは、淀んだ空気と鼻にツンと来る異臭。
 この異臭が何なのか不明だが、今は先を急ぐとしよう。

 静音が続く中で、魔物の声や爆発音などはしない。
 無音とまではいかないが、ここまで静かだと余計不気味である。
 最も、聞こえるのは俺の足音だけだ。
 出口までさほど遠くはない。が、転移魔術を使えば一瞬でそこへ辿り着く。
 しかし……、転移した先で何が待ち構えているのか……。
 それを知らない限り、無暗に使うわけにもいかない。
 ゆっくりと歩を進め、視界に門が入る。

「開いている……?」

 妙だな。
 魔物が来るとしっていながら民家に隠れる人々とは対照的に、門は「さぁ、入ってください」と言わんばかりに開いている。
 と言うよりも、これでは襲撃も何もないじゃないか。

「どうなってるんだ……?」

 疑問が疑問を呼ぶ。
 嫌な胸騒ぎで俺は悪循環に陥っていた。

「これは…………ッ!?」

 視界に映るソレは、酷い惨状。
 門目前まで来ていた魔物の死体と、それに駆け付けた騎士達の無残な姿が残されていた。
 同士討ちにしてはおかしな点が多いが、俺はその光景を目の当たりにし……。
 その瞬間に事態を把握した。

「……敵に寝返ったのか」
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