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勇者一行と旅に出たオスミルク種、追放されて執着美人から求婚される

前編

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執着系美人×地味三白眼オスミルク種

オスミルク種とは?
胸とちん♂から、美味しくて色んな回復効果があるミルクが出ちゃう希少種のことです!もちろん勝手に作った捏造設定です!
攻めの親カプも出てくるよ。


☆☆☆☆☆


 俺はリンド・ディングラ。

 ヒト科の中でもかなり希少な、オスミルク種の男だ。

 乳首とちんこからミルクが出るわけだが、これを飲めば体力も気力も一発回復。状態異常だって治しちまうハイレベルな代物らしい。数十年前、一人のオスミルク種が勇者と共に魔王討伐を成し遂げた話はあまりにも有名だ。

 だから俺は、回復要員として二代目勇者のパーティに同行することになった。世代制ってわけじゃないから、勇者といっても前勇者とは血の繋がりも何もない。そして、目的は魔王ではなく魔族の残党の討伐だ。

 あの時の俺は、今とは違って純粋だったからな。村の皆が憧れていた『勇者』と一緒に旅に出ることに、それはもう浮かれていた。男なのにミルクが出るとからかわれてきた身体でも、役に立つということが分かって嬉しかったんだ。

 見目がいいとは言えない三白眼を布で覆われ、聞くに堪えない声を発する口に布を噛まされても、馬鹿な俺はそれが当たり前なんだと思っていた。
 血すら出ていないただの掠り傷ばかりだったのに、回復のためだと痛いくらい吸われても。使ってやるだけ有り難いと思えと言われても。純粋で馬鹿で無知な俺は、洗脳のように受け入れていた。

 その考えが間違いだと分かったのは、とある街の道具屋で、同じオスミルク種だったという50手前の男に会った時だ。
 オスミルク種は、愛されることによってミルクの質がよくなること。アフターケアでしっかり可愛がってもらわないと体調が不安定になること。そういったことを教えてくれた。

 碌な知識を持っていなかった俺にとって、その話は衝撃そのものだった。愛されるというより道具のように使われるだけだったし、勇者やその仲間から代わる代わるミルクを飲まれても、アフターケアされることなんて一度もなかった。確かに、怠いなと思った時は一度二度の話じゃなかったな。

 俺はオスミルク種だけど、人間だ。

 その夜、勇者達にそのことを伝えて、今からでも人間扱いしてもらおうとした。やっぱり馬鹿な俺はどこまでも馬鹿だ。こんな扱いをしてきた勇者達が、俺の言葉程度で変わるわけがないのに。

 結果、今までより酷く吸われて噛まれて、生意気だと殴られた。平民の村人のくせに、醜いオスミルクのくせに、大して美味くもないミルクのくせに。

 詰られて、叩かれて、ここまで来てようやく馬鹿な俺でも気付くことが出来た。

 こいつらが必要としているのは、俺じゃなくて回復用のミルク。そして体よく性欲処理として使われていたことに。

 次の日、俺はパーティを抜けた。向こうからしてみれば追放らしい。なんでも、美しくて可憐なオスミルク種が仲間に入るからお払い箱なんだと。

 はっ、こっちがお前等を捨ててやったんだよ。自惚れんな。俺が働いて稼いだ分もあんのに、金もアイテムも全部持っていきやがって。あんな奴等に未練はないが、ここから村まで戻ろうとしても相当な距離だ。ミルクしか能がない俺は、体力はそこそこだが魔力はこれっぽっちもない。

 地道に働いて稼ぐか、それにしても妙に昨日から視線を感じるな、と考えていたところで出会ったのが、昨日出会った元オスミルク種の男だった。
 ミルクの回復効果は自分自身には効かず、殴られた痕を治療出来ずにいたからか、怪我を心配して家に招き入れてくれた。逆にこっちが心配になるくらい親切な男だ。俺が物取りだったらどうすんだ、と言ったら、そう聞いてくれる時点で君は優しい子だねと返された。腹のあたりがむずむずして落ち着かない。

 それから、エルと名乗った男は治癒魔法で俺の手当てをしてくれた。オスミルク種は、年齢と共にミルクが出なくなるものの、代わりに高度な治癒魔法を使うことが出来るらしい。不勉強で何も知らない俺に、エルはオスミルク種について更に色々なことを教えてくれた。エルの雰囲気がそうさせるのか、気が付けば俺も、俺自身のことをベラベラと喋っていた。

 勇者のパーティにいたこと、エルに教えてもらうまで知らなかったあれこれ、見切りをつけてパーティを抜けたこと。段々イラついてきて、興奮していたからか、俺は背後まで迫って来ていた人影に気付くことが出来なかった。

「──それは随分、酷い目に合わされましたね」
「っ……!?」
「おかえり、クリフ。ただ、盗み聞きはよくないよ」
「すみません、父さま。それと、愛らしいお客様。あまりにも醜悪な内容でしたので、つい口を挟んでしまいました」
「ぁ、あいら、し……?あんた、視力おかしいんじゃねぇか」

 どうやらエルの息子らしいそいつ……クリフは、誰がどう見ても文句のつけようがない絶世の美人だった。エルも整った顔をしているなとは思っていたが、若い時はこんな感じだったんだろうか。さらさらの銀髪も、柔らかい翡翠の眼も、すらりとした体躯も、どこを取っても非の打ち所がない。彼の前ではどんな人間もただの石ころになりそうだ。

 そう、俺は、まかり間違っても、そんな相手から愛らしいなんて言われる容姿じゃない。睨まれていると勘違いされることが多い三白眼に、セットしてもすぐ跳ねてしまう癖のある黒髪、オスミルク種の特性が出すぎているのかむっちりしている胸や尻。こんなの、百歩譲って個性的だって濁されるやつだろ。

「私の視力は正常ですよ。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「……リンド、だけど」
「リンドさん。名前の響きも可愛らしいですね」
「っ……、俺は男だ。可愛いなんて言われても嬉しくない」
「ああ、それは失礼しました」

 咄嗟にそう言ったものの、嬉しくないどころか鼓動が速くなってきている。親切なエルの息子だから、きっと彼も優しいんだろう。だからそう、お世辞が上手いんだ。それ以外の理由が見つからない。

「父さんが言っていたことは本当だったんですね。運命の相手というものが、こんなにも馨しく、輝いて見えるなんて」
「は?おい、何して……」

 前に回ってきたクリフが、恭しく俺の手を取った。そのまま片膝をついて、手の甲にそっと唇を寄せる姿は、まるで一枚の絵画のようだ。俺の存在がなければ、の話だが。

「リンドさん。どうか私の伴侶になっていただけませんか」
「は……?」

 言葉をなくしてしまった俺の向かい側で、エルが頭を抱えているのが見えた。

「ちょっと……、そんなところまで似なくていいのに。クリフ、彼が戸惑っているから離れようか」
「けれど、父さんはこうして攻めまくって父さまを落としたと聞きました。私もリンドさんを愛したくて堪らないんです」
「あ、あれは、僕達の事情であって……。……え?あの人、クリフにどこまで話したんだい?」
「それはもう、運命的な出会いから、熱い夜の話、二人の愛の力で魔王を倒した話、そして私を身籠った父さまがデレデレに甘えてくるはな……」
「待とうか、クリフ。それはお客様の前で話していいものじゃないから。……はぁ。ちょっと、早急にサディと話すことが出来たから席を外すけど、彼に不埒な真似をしたら勘当だよ。分かった?」
「ええ。無理強いせずに伴侶になってもらえればいいんですよね」
「微妙に分かってない気がするけれど……。すまないね、リンドくん。悪い子じゃないんだ。ただ、父親似で強引なところがあるから、嫌な時は遠慮なく殴ってやってくれ」
「え、は?」

 今の会話の中で、気になる所がありすぎるんだが。

 エルはそれだけ告げると、優しかった相貌を赤く染めて部屋から出て行ってしまった。程なくして何かを言い争うような声が聞こえてきたけど、はっきりとは聞き取れない。

 当たり前のように俺の横に座ってきたクリフは、手を握ったまま密着してくる。いくら美形とはいえ、初対面でこんなことをされて、不快になるべきなのに。どうして俺は、離れようとしないんだ。

「……いくつか、聞いていいか」
「勿論。リンドさんが興味を持ってくれて嬉しいです」
「父さまと、父さんってのは……」
「私を産んだのはエル父さまで、もう一人の父親がサディ父さんなんです。運命の相手と番うと、オスミルク種は妊娠することが出来るんですよ」
「っ、は、腹を撫でんな!大体、その運命の相手って何なんだよ」
「これはあまり知られていないことですが、オスミルク種は無自覚にフェロモンを撒いているんです。ただし、その匂いが分かるのは運命の相手のみ。触れ合うだけで多幸感が得られると聞いています。リンドさんからは、私の好きなパルメラの蜜の香りがするんですよ」

 すん、と近くで鼻を鳴らされて、思わずたじろぐ。パルメラってあれだろ、よくプロポーズの時に使われてる赤い花。その香りが?俺から?寧ろクリフの方が良い香りしてんのに?

「父さんも、馨しい香りに誘われて父さまと出逢ったそうです。その時の話は、父さまが恥ずかしがりそうなので内緒ですけれど。他に聞きたいことはありますか?」
「……さっき言ってた、魔王討伐の話は、本当なのか?」
「ええ。私の両親は勇者サディリフと、オスミルク種のエルーク本人です。特に隠してはいないのですが、父さまからミルクが出なくなったのもあって信じる方は少ないですね。ちなみに私は、父さんの血を濃く受け継いでいるのでミルクは出ません」
「マジか……」

 まさかこんな所で、物語の主人公のような人達に出会えるなんて思わなかった。きっと勇者も相当な美形なんだろう。何も知らずに迷い込んだ異物の気分だ。

「リンドさん、私について聞いていただいていいんですよ」
「え。あー……、悪ぃ、あんたは運命ってのを感じてるんだろうけど、俺はさっぱりなんだよ。だからいきなり伴侶だなんて言われても困る」

 けれど嫌いにはなれそうにないから、せめて友人から。
 そう伝えようとした瞬間。
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