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④下克上
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きっかけなんて物は、なかった。
ある日学校に行くと、全てが変わっていた。
3年だったはずの僕達は2年生で、2年だったはずの冷泉院達が3年生になっていたのだ。
改めて言葉にしてみても訳が分からない。こんな状況に陥ってしまった理由も原因もさっぱりだ。
考えても分からない以上、思考するだけ無駄だと早々に悟った僕は、この逆転した世界を楽しむことにした。
落胆したところで何かが変わるわけでもないしね。
「お待たせ~、あるり」
「冷泉院……先輩。用事は終わったの?」
「うん。これでやっと帰れるよ~……というか、名前で呼べって言ったでしょ」
「……れ、玲明先輩?」
「そーそー。あるりは人気者だからこうやって牽制しとかないとな」
「牽制って……、僕が好きなのは玲明先輩だけだよ」
「分かってるけどそれはそれってやつ?……あ。あるり。目の下に睫毛ついてる。じっとしてて」
「わ、分かった」
この世界では先輩となった恋人の冷泉院の言葉に、素直に従って目を瞑る。なんだか困ったような視線を感じるけど気のせいかな。
その後すぐに唇に触れた、優しい感触。
パッと目を開くと、悪戯が成功したかのように笑う冷泉院が、さわさわと頭を撫でてきた。
「がっ、学校でキスはするなって言ってるのに……!」
「あるりがあんな簡単に目ぇ瞑るから悪いんだよ。俺以外の奴の前で可愛いキス待ち顔するの禁止だからね?」
「そっ、そんな顔してない……っ!先輩が勝手にTPOも考えずしているだけじゃん!」
「エロ可愛いあるりを前にして、我慢なんて出来るわけないっしょ?」
「話を聞いて!」
後輩ポジションだった冷泉院は「影野さん影野さん」と慕ってきてくれて、キスやそういった触れ合いは僕から求めないと手を出してこない程の純情っぷりだった。
なのに、先輩ポジションの冷泉院は、言葉や行動で積極的に僕を翻弄してくる。敬語ではない冷泉院に違和感は覚えるものの、求めるだけでなく求められるというのはなかなか良いものだと思うようになっていた。
「……全く、玲明先輩は自重を覚えた方がいいと思うよ」
「自重なんてさ、好きな奴を前にしたら軽く吹き飛ぶから意味ないって」
「…………もし。もし、玲明先輩が僕の先輩じゃなくて、後輩だとしたら」
「ん?」
「後輩でも、そう思う?僕と一緒にいると自制が効かなくなるって」
「そりゃそーでしょ。……あーでも、あるりより年下だったら妙に遠慮しそうかも。皆に人気の先輩を一人占めしていいのかーとか、俺がこの可愛い先輩を満足させることが出来るのかーとか」
「……か、可愛いは余計だよ、ばか」
「何、恋しくなっちゃった?」
「…………うん、やっぱり僕の恋人は、年下で恋愛に不器用な冷泉院だけだよ」
そう言うと、僕よりだいぶ背の高い先輩は、分かっていたとでもいうように緩く微笑んだ。
「そっちの俺を、よろしくね」
「玲明先輩こそ、こっちの僕を頼んだよ」
当たり前のようにそう言い合った刹那、僕の視界が真っ白に染まった。
「──影野さん!」
聞き慣れた声が響いてきて、僕は重たい瞼を無理矢理こじ開けた。
潤んだ瞳の冷泉院が真っ先に視界に入って、ああ、戻ってきたんだなと理解する。ここにいるのは、余裕たっぷりな『先輩』じゃない、年下の可愛い恋人だ。
……それは、いいんだけど。
「……どうしてこんな体勢になっているんだっけ……?」
「かっ……、影野さんが仕掛けてきたんでしょ!?」
ベッドの上に寝そべっている僕に、押し倒すような形で覆い被さっている冷泉院。 その背中には僕の腕が回っている。緩く抱き合うような体勢で見つめ合うこと、数秒。
僕はなんとなく、こうなった経緯を推測することが出来た。
「ごめんね冷泉院。こっちに来ていた僕が迷惑をかけたみたいで」
「べ、つに、迷惑だとは……。というか何言ってんすか?こっちに来ていた……?」
「気にしなくていいよ。大方、人目がある場所でいきなり甘えだして部屋に連れ込んだんじゃない?」
「……何でわざわざ説明してるの影野さん」
「図星かぁ。向こうの僕は随分甘え上手だね」
「影野さん……、今日どっかで頭打ちました?」
「打ってないし、僕は至って正常だよ。…………ねえ、冷泉院」
「っ!」
腕にぎゅっと力を込めて、額同士をこつりと触れ合わせる。至近距離ながらに、冷泉院の目が見開かれるのが分かった。そのまま軽く鼻も擦り合わせて、優しく甘い気持ちを込めた声で、そっと囁いた。
「恋人同士なんだから、我慢なんていらないよ。目の前の据え膳を食べたかったら、遠慮なく喰べちゃって?」
「……っ、んなこと、言って、後悔しても知りませんからねっ……!」
どこか吹っ切れたように降ってきた冷泉院の唇を、自らのそれで受け止めて。お互いの熱で溶けてしまいそうなくらい、僕達は欲を晒け出し合った。
……遠慮がなくなって自らリードするようになった冷泉院と、先輩としての余裕を消して素直に甘えるようになった僕。
こんな下剋上も悪くはないな、と。
快楽の波をさまよいながらそう思ったのは、僕だけの秘密だ。
ある日学校に行くと、全てが変わっていた。
3年だったはずの僕達は2年生で、2年だったはずの冷泉院達が3年生になっていたのだ。
改めて言葉にしてみても訳が分からない。こんな状況に陥ってしまった理由も原因もさっぱりだ。
考えても分からない以上、思考するだけ無駄だと早々に悟った僕は、この逆転した世界を楽しむことにした。
落胆したところで何かが変わるわけでもないしね。
「お待たせ~、あるり」
「冷泉院……先輩。用事は終わったの?」
「うん。これでやっと帰れるよ~……というか、名前で呼べって言ったでしょ」
「……れ、玲明先輩?」
「そーそー。あるりは人気者だからこうやって牽制しとかないとな」
「牽制って……、僕が好きなのは玲明先輩だけだよ」
「分かってるけどそれはそれってやつ?……あ。あるり。目の下に睫毛ついてる。じっとしてて」
「わ、分かった」
この世界では先輩となった恋人の冷泉院の言葉に、素直に従って目を瞑る。なんだか困ったような視線を感じるけど気のせいかな。
その後すぐに唇に触れた、優しい感触。
パッと目を開くと、悪戯が成功したかのように笑う冷泉院が、さわさわと頭を撫でてきた。
「がっ、学校でキスはするなって言ってるのに……!」
「あるりがあんな簡単に目ぇ瞑るから悪いんだよ。俺以外の奴の前で可愛いキス待ち顔するの禁止だからね?」
「そっ、そんな顔してない……っ!先輩が勝手にTPOも考えずしているだけじゃん!」
「エロ可愛いあるりを前にして、我慢なんて出来るわけないっしょ?」
「話を聞いて!」
後輩ポジションだった冷泉院は「影野さん影野さん」と慕ってきてくれて、キスやそういった触れ合いは僕から求めないと手を出してこない程の純情っぷりだった。
なのに、先輩ポジションの冷泉院は、言葉や行動で積極的に僕を翻弄してくる。敬語ではない冷泉院に違和感は覚えるものの、求めるだけでなく求められるというのはなかなか良いものだと思うようになっていた。
「……全く、玲明先輩は自重を覚えた方がいいと思うよ」
「自重なんてさ、好きな奴を前にしたら軽く吹き飛ぶから意味ないって」
「…………もし。もし、玲明先輩が僕の先輩じゃなくて、後輩だとしたら」
「ん?」
「後輩でも、そう思う?僕と一緒にいると自制が効かなくなるって」
「そりゃそーでしょ。……あーでも、あるりより年下だったら妙に遠慮しそうかも。皆に人気の先輩を一人占めしていいのかーとか、俺がこの可愛い先輩を満足させることが出来るのかーとか」
「……か、可愛いは余計だよ、ばか」
「何、恋しくなっちゃった?」
「…………うん、やっぱり僕の恋人は、年下で恋愛に不器用な冷泉院だけだよ」
そう言うと、僕よりだいぶ背の高い先輩は、分かっていたとでもいうように緩く微笑んだ。
「そっちの俺を、よろしくね」
「玲明先輩こそ、こっちの僕を頼んだよ」
当たり前のようにそう言い合った刹那、僕の視界が真っ白に染まった。
「──影野さん!」
聞き慣れた声が響いてきて、僕は重たい瞼を無理矢理こじ開けた。
潤んだ瞳の冷泉院が真っ先に視界に入って、ああ、戻ってきたんだなと理解する。ここにいるのは、余裕たっぷりな『先輩』じゃない、年下の可愛い恋人だ。
……それは、いいんだけど。
「……どうしてこんな体勢になっているんだっけ……?」
「かっ……、影野さんが仕掛けてきたんでしょ!?」
ベッドの上に寝そべっている僕に、押し倒すような形で覆い被さっている冷泉院。 その背中には僕の腕が回っている。緩く抱き合うような体勢で見つめ合うこと、数秒。
僕はなんとなく、こうなった経緯を推測することが出来た。
「ごめんね冷泉院。こっちに来ていた僕が迷惑をかけたみたいで」
「べ、つに、迷惑だとは……。というか何言ってんすか?こっちに来ていた……?」
「気にしなくていいよ。大方、人目がある場所でいきなり甘えだして部屋に連れ込んだんじゃない?」
「……何でわざわざ説明してるの影野さん」
「図星かぁ。向こうの僕は随分甘え上手だね」
「影野さん……、今日どっかで頭打ちました?」
「打ってないし、僕は至って正常だよ。…………ねえ、冷泉院」
「っ!」
腕にぎゅっと力を込めて、額同士をこつりと触れ合わせる。至近距離ながらに、冷泉院の目が見開かれるのが分かった。そのまま軽く鼻も擦り合わせて、優しく甘い気持ちを込めた声で、そっと囁いた。
「恋人同士なんだから、我慢なんていらないよ。目の前の据え膳を食べたかったら、遠慮なく喰べちゃって?」
「……っ、んなこと、言って、後悔しても知りませんからねっ……!」
どこか吹っ切れたように降ってきた冷泉院の唇を、自らのそれで受け止めて。お互いの熱で溶けてしまいそうなくらい、僕達は欲を晒け出し合った。
……遠慮がなくなって自らリードするようになった冷泉院と、先輩としての余裕を消して素直に甘えるようになった僕。
こんな下剋上も悪くはないな、と。
快楽の波をさまよいながらそう思ったのは、僕だけの秘密だ。
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