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⑤腕輪※

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 あの怒涛の一日から、一週間が過ぎた。

 毎日何かしらのイベントが起きたものの、リオンのおかげで最悪の事態には至っていない。アンリの魔法で何故か俺の制服が消えた時は、咄嗟に抱きしめて隠してくれたし。保健医からすれ違いざまにセクハラされそうになった時は、保健医の腕を引っ掴んで折りそうになってた。全力で止めた。

 魅了のことや風呂でのことがあったから、気まずくなるかと思ってたけど、そんな心配は杞憂だったみたいだ。友達というか、ボディガードというか、程よい距離感を保ってくれている。それに関して俺がどうこう言うつもりはない、んだが。

「(俺ばっかり意識してんの何なんだよ……!)」

 普段通りにしている時は大丈夫なのに、ふとした瞬間に微笑まれたりして、俺の心臓がバグを起こす。雰囲気に流されてるだけ、勘違いしてるだけ、と言い聞かせても、なかなかバグは治らない。挙げ句の果てに、アンリから「ハルはリオンくんのことが好きなんだね」と言われてしまった。なんなんだ、この外堀から埋められてる感……!

「……よし」

 今日は、ここに来てから初めての休日。外に行くと何かしらのイベントに巻き込まれそうな気がするから、ずっと部屋の中にこもっているつもりだ。

  一息ついて、腕輪のサポート機能を発動させる。目の前に現れた好感度のウィンドウは、最初に見た時と比べてだいぶ変化していた。

 まず、ジャックとセバスの間にあった剣のマークがハートになっている。これは誰がどう見てもそういうことだろう。俺の知らない間にナニかがあったんだろうな。ヒロインのアンリそっちのけで攻略キャラ同士でくっつくとか、マジでどうなってんだよ。
 そんなアンリの顔アイコンに向かって特大の矢印を向けているのが、メロディだ。友愛なのか恋愛なのかは分からないけど、きっとこれはライバルルートに入ってるってことだろう。二人の近くにはハル……というか俺のアイコンがあった。ハルじゃなく、遥人のデフォルメだ。どうしてなんて考えたところで答えは出ないだろう。
 そして、俺とリオンの間に、剣のバツマークが出現していた。

「……」

 ひとまず見なかったことにして、何かとちょっかいをかけてくる保健医のアイコンに目をやる。どうやらテオード・インカローズという名前らしい。俺が男だということを知っているのは、リオンとこいつだけだ。セクハラ以外に何か唐突に仕掛けてきそうだから、警戒するに越したことはない。ただ、そんなテオードの周りに変な黒い靄がかかっていた。何を意味しているのかはさっぱりだ。

「ふー……」

 ひとまず、現時点でのざっくりとした相関図は確認出来た。
 次は俺自身のことについてだ。

 作中でハルが自分自身に対してアナライズ機能を使うことはなかったけど、スライムにも出来たんだから多分出来るはずだ。腕輪に意識を集中させると、好感度のウィンドウがパチリと切り替わった。ランダムだからところどころ歯抜けているものの、今の『ハル』についてそれなりに分かりそうだ。


名前:ハル・スピネル(ハルト・クサカ)
性別:男
種族:???
属性:光
好きなもの:???
苦手なもの:???
スキル:サポート(好感度チェック、アナライズ、ショップ、???、???)
状態異常:???


 ……と、思ったら、だいぶ「?」に侵食されていた。まあ、好きなものや嫌いなものが分からなくても特に問題はない。気になるのは、俺の本名が併記されてんのと、何かの状態異常にかかってるらしいってこと。アナライズはイベントをこなしてストーリーを進めると開示量が増えていくから、今はこれ以上知ることは不可能だろう。

「(特に身体の不調はないから、毒や麻痺みたいな状態異常じゃなさそうだけど……、考えても分かんねぇもんはしょうがないよな)」

 そうだ、俺のこともだけどアンリの呪いも解いてあげたい。アンリの魔力は膨大すぎるから、定期的に魔法を使って放出しないと身体が壊れてしまう、という設定があったはず。持ち前のお人好しで突っ走る性格も手伝って、放出自体は頻繁にしてるけど、周り……というか主に俺や攻略キャラに被害が出ているから、なるべく早くどうにかしたいところだ。

 そこまで考えたところで、ふと尿意を感じた。そういえば今日はまだ一度もトイレに行っていなかったな。
 ここの寮の部屋にはトイレも小さな風呂もついているから、とんでもなく高待遇だ。貴族になるともっとグレードが上がるみたいだけど、この間取りで充分すぎると思う。その上、一人部屋なのが有難い。他の女子と一緒だったら気まずすぎるし、俺が男だとバレてしまうかもしれないしな……。

 そんなわけだから、おっぱいを取り外したぺったんこな状態でも、部屋の中なら何も問題ない。……ただ、ハルの私服がワンピースばかりで、部屋着でも女装しなきゃいけないんだよな。下着ももちろん女物。今はブラをつける必要がないから外してるけど、何度も身につけていたらだいぶ慣れてきてしまった。

「よ……、っと」

 トイレの形は異世界でも変わらない。流石に女子寮に小便器はないから、蓋と便座を上げて、立ってすることにしている。ワンピースを汚さないよう捲って、パンツを少しずらしてちんこを取り出すと、ついあの時のことを思い出してしまう。リオンに見られてしまった、恥ずかしい粗相を。

「(……忘れたいのに……、くそ……っ)」

 毎度毎度、おしっこをしようとするとリオンの顔がちらついて顔が熱くなる。いくら向こうが気にしていないように振る舞ってくれても、俺がこんなに忘れられないなら意味がない。
 ……平常心、クールダウン、ただの生理現象を処理するだけ、そんな暗示を自分にかけて、力を抜いた。

 ジョボボボボ……

「っ、ふぅ……」

 放尿すると、何故だか妙にうっとりと気持ちよくなってしまう。つい目を閉じて、陶酔してしまいたくなって……。

「……ハル?」
「え?」

 聞こえるはずがない声が届いて、俺の喉から呆けた声が出てしまった。

 俺は確かに、自分の部屋のトイレで用を足していた、はずなのに。
 何故か目の前には、リオンがいた。綺麗な瞳を丸くして、俺を見つめている。立ったままおしっこを漏らし続けている、俺を。

「ひっ……!? な、なん、で……!? あ、み、見るなっ、や、止まんな……っ!」

 シャアアアァッ、と量が多いそれは止まる気配を見せてくれない。ここはどうやらリオンの部屋のようだけれど、そんな部屋で、リオンの前で、おしっこしてるなんて。

「ごめ……っ、リオ……」
「……大丈夫だ。その下はペットシーツだから。……全部出し切れ」
「え、待っ……、ひゃ!?」

 制服の時とは違う、着崩したラフな格好のリオンが、俺の背後に回って、あろうことか放尿中のちんこを握ってきた。ブシュッと勢いよく飛び出してしまったおしっこが、下に敷いてあるシーツに染み込んでいく。

「だ、だめ、だ……っ、汚い、から……!」
「力を抜け。暴れると飛び散るぞ」
「っ……! んっ、リ、リオン、それ、だめ……」

 やばい。耳元で囁かれて、息を吹きかけられて、ぞくぞくと背筋が震える。ちゅ、と耳朶に唇が触れた気がして、心臓が粟立った。
 やばいやばいやばい……! こんな、……こんなことされたら、俺の性癖が変になる……っ!

「……気持ちいいか?」
「ん、……っ、きもち、い……からぁ」

 放尿が気持ちいいのか、リオンに触られているのが気持ちいいのか、分からなくなってきて頭がふわふわする。

「は……、ぁ……」

 ようやく長かったそれが終わった後も、暫くぼうっと放心してしまった。
 つい視線を下に向けてしまって、いまだ握られたままのちんこと、びっしょり濡れたシーツが目に入っ、て。

「っ……!! リ、リオンっ、終わったからっ、離し……っんぅ!?」
「本当に? まだ溜まってないか」
「あ……っ、り、りお……、待っ……、ひ、あっ! や、やめろ、ばかぁ……!」

 おしっこで濡れているちんこを、リオンの手がゆっくりと扱いていく。溜まったものを出させるような、絶妙な力加減で。こんなことされたら、おしっこじゃないモノが出てしまう。リオンも分かっているだろうに、やめるどころか手の動きを速めてきた。ヌチュヌチュと恥ずかしい音が響き出して、全身が熱くなってしまう。

「でる……っ、でちゃう、から……!」
「ああ。出してしまえ」
「リオ、ン……っ!」

 腰の辺りにごりっと当たる硬いブツがナニかだなんて、考えなくても分かる。視界の端に見えたリオンの髪は、きらめく金色に変わっていた。

『──欲情した時だ』

 そう、とろける声音で囁かれた言葉が、脳内で反芻される。欲情……、性的に、興奮してるってことだよな? リオンが、俺に……、おしっこ漏らしてイきそうになってる、俺に。

「ハル」
「ひ……っ、あああぁっ!!」

 かぷり、と耳朶を甘噛みされて。勃起したちんこから精液が溢れる。ビュルルッ、と恥ずかしいくらいに勢いよく飛び出したそれは、濡れたシーツにぱたぱたと散っていった。





 暫くぽうっと余韻に浸っていたものの、我に返って謝り倒したのが、ついさっき。

 手が汚れたことを気にすることなく、タオルで俺のちんこを拭いてこようとするリオンをどうにか止めて、備え付けのトイレに飛び込んだ。どろりとした白濁を拭って、居住まいを正して……、恐る恐るリオンの所に戻れば、不可抗力かつほぼ無理矢理イかされて汚したシーツが、いつの間にか元に戻っていた。きれいさっぱり、何の痕跡も残っていない。どうやら、そういう清浄の魔法がかかっているようだ。リオンの手の平からも残滓が消えていてホッとする。

 マジで、俺の粗相もなかったことにしてほしい。

「──その、俺も、どうしてこんなことになったのか、分かんなくて……。普通に、自分の部屋で……、よ、用を足そうと、していただけなのに……」
「……オレも、手を出して悪かった。嫌だっただろう?」
「リ、リオンが謝る必要はねぇよ。気持ちよかった、し、……じゃなくて、そ、そう! リオンってペット飼ってたんだな! それか、もしかして召喚獣?」

 自分から墓穴を掘ってしまって、慌てて話題を逸らす。偶然ペットシーツがあるなんて考えられないし、きっと何らかの動物(?)がいるってことだろう。あわよくばお目にかかって触りたいな……。

「……ああ、そんなものだ」

 なんだか少し歯切れ悪く返されてしまった。あまり詳しく話したそうに見えないから、話題のチョイスを失敗したかもしれない。
 ここはもう気まずすぎるからさっさと部屋に戻った方が……、いや、これってどう戻ればいいんだ……? 確か、男子寮にも女子寮にもそれぞれ異性が入るのは禁止ってなってたよな? どうやってここに来たのか分からないから、瞬間移動みたいなものも出来ないし、だからといって堂々と部屋から出ていくのも……、見つかったら面倒なことになりそうだ。

「リオン、その、俺……」

 ──コン、コン、コン

 規則的なノックの音が響いたのは、そんな時だった。思わず肩がビクリと跳ねてしまう。

「リオン・ヘリオドール。寮監のセバスティアです。貴方の部屋から女子生徒の声がするという申し出がありました。確認のため、入れてもらえますね?」

 扉の外から聞こえてきたのは、セバスの声だった。あいつ2年生で寮監なのか……なんて、考えている暇はない。俺が見つかったらやばいパターンじゃん!?

「ど、どこかに隠れ……」
「ハル、オレに抱きつけ」
「て……、っ、は? な、なんで?」
「いいから。息はしていてもいいが、絶対に喋るなよ」

 訳が分からないけれど、とにかくリオンの言う通りにした方がよさそうだ。前からはなんとなく気恥ずかしくて、横から腕を回してぐっと抱きつく。新緑の香りが心地いいし、しっかりと筋肉がついた身体は触れていてドキドキしてしまう。
 リオンは傍にあった杖を手にして、何かの呪文を唱えているようだった。

「……これでいい。──鍵は開いているから入ってきてくれ」

 特に何か変わったことは起きていないのに、リオンはセバスに向かって声をかけてしまう。誰が見ても、女子生徒であるハルがリオンに抱きついているという現場……だというのに、中に入ってきたセバスは何のリアクションもしなかった。

「失礼します。……見たところ、誰もいないようですね。少し調べても?」
「ああ、構わない」

 堂々と隣に立っている俺を完全にスルーして、セバスはそつなく部屋の中を改め始めた。
 これって、つまり……透明化か何かの魔法で俺の姿が見えてないってことか。魔法については属性ぐらいしか分からないけど、多分結構上級の魔法なんじゃないだろうか。
 喋ったら一発アウトってのと、リオンに触れていないと駄目という制約があるっぽいから、万能とまではいかないけど。詳しいことは後で聞いてみよう。

「……ふむ。やはり、誰もいませんね。大方、窓の外から聞こえてきた声をここから聞こえてきたものだと錯覚したんでしょう。邪魔しましたね」

 緊張の時間は予想していたよりあっさりと終わった。
 長い青髪が揺れて、首元にいくつもの赤い痕が見えてしまった気がするけど、きっと気のせいだ。そんなセバスが部屋を後にしたのを確認して、はぁっと息を吐く。

「よかった……。リオン、この魔法すごいな。無属性の魔法か? 俺も使えたらいいのに」
「ハルには無理だな」
「う……。そんなはっきり言わなくても……」

 光属性が適応しているとはいえ、他の属性の魔法もそれなりに使えるのに。無属性でも魅了の魔法はちゃんと使えたし……って、自分で思い出してたら世話ないわな!
 ま、まあ、それだけ難しいってことだろ、多分。

 ……そういえば、なんだかんだ流してたけど、リオンのアレ、収まってる……よな? あの時擦り付けられたデカい感触がまだ残ってるけど……、うん、大人しくなってるみたいだ。なんだか申し訳ない気持ちになるけど、流石に俺がリオンのちんこを触るのは……、さわ、るのは……。

「(あれ……? は? 嘘だろ……? 全然、嫌じゃない、とか……)」

 ぶわりと、体内から発火したように熱くなる。想像上とはいえ、嫌悪感どころか寧ろ触りたいと思ってしまっている自分が、いて。あまりのことに混乱する。いくら恥ずかしいところを見られまくってるとはいえ、これは流石に流されすぎだろ……!?

 逃げたい、と強く思ったその瞬間、俺は自室のトイレに立っていた。あまりにも唐突すぎて、何度も瞬きしてしまう。もちろん、リオンはいない。まるで淫夢を見ていたようだ……けど、リオンから触れられた感覚が残っていて、あれは現実だったと突きつけてくる。

「う、うう……、なんだよ、これぇ……」

 色んな感情がぐつぐつと煮え滾って上手く思考が回らない。ただ一つ分かるのは、絶対まともにリオンの顔を見ることが出来ないだろうってことだ。
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