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④欲情※

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「はーい。んじゃ配信始めまーす。じゃ、今日もジュエル・フルムーンの続きから……。んー、今んとこやっぱハル一択なんだよな。なんたって可愛い。あと、なにがとは言わないけどおっきいし」
『草』
『強いていうなら男だとどのキャラがいい?』


──あれ。これって、俺の実況……? 俺が俺を見てる……って、ああ、夢か──


「強いていうなら~……、うーん、このゲームに獣人とかいたらそいつなんだけど。実家で飼ってる犬を思い出すんだよなぁ」
『わかる。もふもふ私も好き』
『獣人に嫌悪感はないのか?』
「あははっ、嫌悪も何も、寧ろ抱きついてもふりたいくらいだわ。っと、ストーリー進んでたな。主人公が授業中に魔力の暴走を起こして体調を崩して……、保健室に行くか、ジャックを頼るか、ハルを頼るか……、そんなもんハルに決まってんだろ~」


──リスナーは少ないけど、みんな優しかったよなぁ……。ん、夢の中なのにまた眠くなってら──





「──っ! ここ、は……」

 懐かしい夢を、見ていた気がする。

 がばりと飛び起きたのは、見知らぬベッドの上。薬品のにおいがツンと漂ってくるそこは、初めて見る場所だけどなんとなく察しがついた。

「保健室、か……?」
「お。目ぇ覚めたか」
「え?」

 シャッ、と仕切りのカーテンが開かれると、ピンク色のふわふわした髪が目に入った。薄いピンク色の垂れ目に泣きぼくろ。妙に色気があって大人びている……というか大人だろう。白衣を着ているから、ここの保健医ってところか。にしてもこれまたイケメンだ。もしかすると攻略キャラの一人かもしれない。

「体調はどうだ」
「あ……、はい。大丈夫です。……えっと、俺、どうしてここに……」
「覚えてねぇのか? お前さん、授業中に酸欠起こしてぶっ倒れて運ばれてきたんだぞ」
「酸欠……」

 ぶわりと思い出してしまった、あの感覚。いくら魔法のせいとはいえ、男からキスされて倒れた……って、恥ずかしすぎる……!

「も、もう平気なので戻りますね!」
「そうか? まあ、俺としてもその方が楽だから助かるんだがな。少し手伝ってほしいことがあるんだよ」
「……先生?」
「お前さん、そんな格好してるけど男だろ」
「……!」

 にやりと告げられた言葉に、咄嗟に反応が出来なかった。……くそ、失敗した。こんなの「そうです」って肯定しているようなもんなのに。保健医だから骨格で分かったか、それとも俺が寝ている間にナニかしやがったか……。
 ……とにかく、バラされたくなければ何かを手伝えってことか。

「……教師の癖に、陰険なことしますね」
「おいおい、陰険はないだろ。俺はこれでも優しくてイケメンな保健医だって人気なんだぜ?」
「うわ、自分でイケメンとか引くわ……」
「引いてろ引いてろ。そんじゃまあ、テンの遊び相手になってもらうか」
「テン? 遊び……? 俺に何する気……って、ひぃっ!?」

 ぼとり、と。
 上から落ちてきた物体に、思わず悲鳴をあげてしまった。

 かなり大きな、ピンク色のスライムだ。そんなスライムから、うぞうぞといくつもの触手が伸びていて、ぬるりとした粘液を涎のように垂らしてくる。

「可愛いだろ~? 俺の召喚獣のメスイキスライム、テンだ」
「めすい……っ!? なんだそのふざけた名前……っ!」
「だけどなぁ、俺の魔力が美味いのかどっぷり太ってきちまったんだよ。そこで、だ。ハル・スピネル、ちょうどいいからテンの運動に付き合ってくれ。なぁに、寝転がってたらすぐ終わるさ」
「はぁっ!? そんなの絶対お断りだ! 嫌な予感しかしな……っ!」
「声は抑えとけよ~? ここ、鍵かかってねぇから」

 けらけらと楽しそうに笑いながら、クソ保健医はカーテンを閉めて行ってしまう。残されたのは、俺と、俺の上に乗るピンクの物体。

「あー……、お、俺、相手にふさわしくないと思うから、どいてほしいな、なんて……」

 一か八か話しかけてみると、触手がゆらりと揺れた。もしかして言葉通じてる?
 そのうちの一本が、音もなく寄ってきた。半透明のピンク色で、ぷるぷるしていてゼリーみたいだ。

「テン、だったよな? いい子だから、そのまま上から……っんぐ!」

 喋っていた口の中に、触手が突っ込んできた。やっぱそうだよな、言葉が通じるわけなかったよな……!

「んぶっ、ん、ん、ううぅっ!」

 こぷこぷと溢れ出した粘液が、容赦なく口の中に入ってくる。吐き出すことなんて出来ないから、俺はひたすらそれを飲み下すしかない。甘さ控えめな蜂蜜みたいで味は悪くなかった。悪くないけど、この状況は悪すぎる。

「ぷはっ、うぇ、最悪……っ」

 ぬるぬるする触手をどうにか引っ掴んで吐き出すことに成功したものの、身体にうまく力が入らなくて逃げようにも逃げられない。
 十中八九、飲まされた粘液のせいだ。頭とお腹の奥がじわじわ熱くなってくる。スカートの股間部分が盛り上がっているのが、嫌でも目に入った。……くそ、メスイキスライムなんてふざけた名前の物体に犯されるだなんて、絶対ごめんだ。

「(杖がないから魔法は使えないけど、サポート用の腕輪はつけたまま……。好感度を確認出来たなら、それ以外の機能も使えるはず……! バグってなければだけど!)」

 いちかばちか、試してみる価値はある。相手の好きなものや苦手なもの、ちょっとしたプロフィールが分かったりする、ランダムアナライズ機能を……!

「(えいっ!)」

 一斉に伸びてきた触手に向かって、腕輪を向ける。強く念じると、目の前にぼんやりとウィンドウが浮かんできた。

「っぷ、んうぅ……っ!」

 触手の動き自体を止めることは不可能で、今度は口どころか手足まで封じられてしまった。スカートの中に侵入してきた触手が、膨らんだ股間をぬるぬると撫でてくる。あまりの気持ち悪さにぞわりと鳥肌が立った。
 やばいやばいやばい、早くしないと……!

「(メスイキスライム……。名前はもうどうでもいいから、何か弱点が分かれば……!)」

 パンツ越しに玉やちんこを弄ばれて、我慢したいのに、気持ち悪いのに、感じてしまう。追加の粘液を飲まされながらも、どうにか目当ての記述に辿り着いた。

「(あった……! 『魔力の過剰摂取で肥大した個体には小水を与えると手のひらサイズになって眠りにつく』……、……しょーすい? ……って、尿のこと、だよな?)」

 ここで、おしっこしろと???

「ぷ、んあぁっ、は、やっ……、はなせ……っ!」

 べたべたになった口から触手が抜けていくと、本格的に身体を這い始めた。制服のボタンが弾けて、ブラがずらされてたわわな胸が露わになる。正直おっぱいは付け外し可能タイプだから好きに弄ってもらっても大丈夫だけど、ちんこはやばい。触手のせいでM字に開かれて閉じられない足の間、パンツからぼろんと飛び出したちんこを、触手が扱いていく。
 集中出来なくなって、頼みの綱のウィンドウは霧散してしまった。……でも、あれが、本当だとしたら。本当に、おしっこでこいつを眠らせることが出来るのだろうか。

「ひ……っ、う、……くうぅ……」

 保健医に情けない喘ぎ声を聞かれたくなくて、必死に唇を噛み締める。頭の中で、天秤がぐらぐらと傾いた。このままスライムにいいようにされるか、アナライズを信じて恥を捨てて放尿するか。

 そんな究極の選択に気を取られていると、目の前に寄ってきた触手のひとつが、花開くようにぐぱりと口を開けた。ぶつぶつとした襞がびっしりと生えていて、絶妙にグロテスクだ。涎のように粘液を垂らしながら、股間の方に移動していく。

 扱かれて半勃ちしてしまったちんこに狙いを定めているのだと、嫌でも分かってしまう。完全に勃起したら精液の方が出てしまうだろうから、もう、やるならここしかない。

「ん……っ!」

 触手がオナホのようにぱくりと咥えてきた瞬間、羞恥心を抑え込んでそれを解き放った。

「っは、ぁ……」

 くぐもった、恥ずかしい水音がショワショワと響き出す。触手に覆われているせいでじくじくと気持ち良くなってしまう中、ひたすら無心になって出し続けた。半透明なピンク色が濃くなっていって、本体のスライムがじわじわと変色していく。心なしか、触手の勢いが収まって、スライムが小さくなっていくように感じた。
 もう、とにかく、早く終われ……!

「──ハル!」
「ぇ゛」

 ──それは、あまりにも突然で。

 容赦なく開かれたカーテンの先、光に照らされてきらめく銀髪が居た。肩を上下させながら切羽詰まった表情になっているそいつは、俺がここに運ばれた原因を作った奴だ。

 いや、そんなことより、俺は今おっぱいも股間も丸出しで、触手にちんこ覆われたまま放尿している、わけで。

「みっ……、見るな、馬鹿ああぁっ!!」

 無心にしていた感情が、一気に爆発した。
 隠したくても隠せない、おしっこを止めたくても上手く力が入らないから、まるで痴態を見せつける変態みたいだ。

 こんな形で男だってバレるなんて最悪すぎるだろ! と、大声で叫びたい気持ちになりながら乱入者を見れば、銀色だったはずの髪が、瞳と同じ金色に染まっていた。

「(は……? 金髪? それに金目……に、この容姿……、見たことあると思ったら攻略キャラのリオンじゃんか……!?)」

 無口な不良のイメージが強かったし、髪色が違ったから気付けなかった。律儀にこっちを見ないよう目を逸らしてくれてるけど、晒されてる耳が真っ赤だ。まあ、そりゃ、色々衝撃的すぎるもんな。可愛い『ハル』が男な上にこんなことになってるとは思わないよな、普通。

「んうっ」

 変に冷静になっている内にどうにか放尿が終わって、俺のちんこから触手が離れていった。
 四肢を拘束していた触手もシュルリと戻っていって、大きな本体がみるみるうちに縮んでいく。ついにピンク色の水まんじゅう程度になったスライムは、ベッドの上で動かなくなってしまった。

「わぷっ!?」

 荒くなった息を整える俺に、ばさりと降ってきた白いシーツ。どうやらリオンがかけてくれたみたいだ。……制服、着れたもんじゃなくなったし、有難くくるまっておこう。
 あまりにも恥ずかしい姿を見られて、心臓がずっとうるさく鳴っている。

「あ、ありがと……。……つーか、あいつは……?」
「あいつ? ああ、クソ教師のことか。気にするな」
「気にするなって……、うわっ」
「掴まってろ」

 シーツにくるまったオレを軽々と横抱きしたリオンは、そのまま足早に保健室から出て行った。ちらりと見えてしまった床の上、どうやら倒れ伏しているらしい保健医が死んでいないことを祈っておこう。俺にしやがったことは許さないけどな!





「──それで、なんで、こんなことに……っ?」
「あのスライムの粘液を飲んだんだろう? あれは内側から媚薬に似た効果をもたらす。外側から温めると効果が薄れていくから、こうした方が手っ取り早い」
「いや、うん、それは分かったんだけど、別に一緒に風呂に入らなくてもいい、よな?」
「オレのせいで、お前を嫌な目に合わせた。完治するまで面倒を見させてくれ」

 ほわほわと立ち昇る湯気の中、じっと見つめてくる金色の強い眼光に、出かかった言葉は全部喉の奥に引っ込んでしまった。つい、唇に目がいってしまいそうになって、慌てて視線を逸らす。これはそう、触手のせいであって、俺がチョロいわけじゃない。男同士で風呂に入ることぐらい、ドキドキするもんでもないだろ。別にくっつかれてるわけでもないし。

 ……そう、俺はあの後、リオンに連れられるまま浴場に来ていた。家族風呂程の大きさで、貸し切りが出来るらしい。男だとバレてしまったから、べたべたになった制服も、ついでに取り外し可能なおっぱいも取ってしまった。

 身体はじんじん疼くけど、一人で清められると、そう思っていたのに。逞しい裸体を晒したリオンに連れられるがまま、あれよあれよという間に全身を洗われてしまった。これはそう、媚薬のせいで上手く身体が動かなかったからだ。流石に下は自分で流したものの、軽く擡げてしまったのは全力でなかったことにする。

 そうして、今は湯舟に浸かっているわけだけど。あったまると効果が薄れるってのが嘘なんじゃないかと思うくらい、恥ずかしくて堪らない。
 そうだよ、いくら男同士とはいっても、俺はこいつに、ほ……放尿しているところを見られたんだ。出来れば全部なかったことにしたい。

「ハル」
「っ、な、なんだ?」
「悪かった。俺の魔力耐性が低いせいで、お前に嫌な思いをさせた」
「嫌な思い……?」
「キスのことだ」
「っ……! そ、そのことならもう、あれは俺も調子に乗ったのもあるし……! んんっ、それより、俺も男だってこと隠しててごめん。出来れば、内緒にしてほしいんだけど」

 羞恥心を振り切るように、言っておかなきゃいけないことを告げる。あんまり秘密をバラすようには見えないけど、頼んではおかないと。

「お前が男だということは分かっていた」
「え、マジで!? こんなに可愛いのに!?」

 思わずそう返してしまって、いやこれ自分で言うことじゃないじゃんと正気に返った。ほら、リオンも困惑してるし。……というより、なんか笑ってる? うわ、仏頂面とのギャップがすごい。うっかり心臓が誤反応してしまいそうになった。

「確かに、見た目だけだと可愛いから分からないな」
「いっ、今のなし! 忘れてくれ……!」
「お前がそう言うなら。……ああ、性別のことは誰にも話さないから安心しろ」

 ぐぬ……、無口な不良とか言ったの誰だよ、言葉は硬いし表情もあんま激しく変わんないけど、饒舌だし普通に良い奴じゃん。可愛いとか言ってきたのにはドキッとしたけど。

 触手のことにはふれないようにしてくれてるし、俺が漏らしてたことにも一切言及してこないし。元々男だって分かってたっぽいのに、それを盾に脅したりしてこなかったわけだし。
 気になることと言えば、ひとつだけ。

「そ、そういえば、リオンの髪の色さ、今は銀髪に戻ってるけど一時的に金髪になってたよな。あれってどういう仕組みなんだ?」

 髪色のせいで、攻略キャラって気付けなかったんだよな。作中でそんな描写はなかった気がするし、リオンの立ち絵はずっと金髪だったから、まさかデフォルトが銀とは思わなかった。
 リオンルートに進んでいれば何らかの答えがあったのかもしれないけど、やってないものは仕方がない。無口じゃないリオンなら、この質問にも答えてくれるだろうと思っていたけど、打って変わって押し黙ってしまった。

「あー……、あんまり答えたくない感じだった? ごめん、無理に聞きたいわけじゃないからさ」
「いや、答えられない、というより、答えにくいだけだ」
「同じようなもんじゃん。……っと、そろそろ身体も大丈夫そうだし、俺先にあがるわ」

 確か備え付けのパジャマみたいな服があったから、それを借りよう、なんて。そんなことを思いながら立ち上がった瞬間、くらりとした眩暈に襲われた。
 嘘だろ、のぼせた? 立ち眩み?

「ハル!!」

 そのまま情けなく前に倒れそうになったところを、リオンに受け止められた。お湯が波打って、濡れた肌が触れ合う。さっき抱き上げられた時より、密着していて、治ったはずの疼きが再熱しそうだ。

「あ、ありがと、リオン。すぐ離れるから……」

 焦りながらどうにか身を離すと、視界の端に金色がちらついた。見上げれば、リオンの髪が金色になっている。あと、そう、温まってるせいなのかもしれないけど、妙に顔が赤い。

「……もしかして、照れると色が変わる、とか」

 声に出すつもりはなかったのに、ぽろりと零してしまった俺の言葉に、リオンの瞳がすうっと細くなった。

「少し、違う。────……だ」

 離れた分だけぐっと距離を詰められて、耳元でかすかに囁かれた言葉に、顔から火が出るかと思った。

 嘘だろ、ドン引けよ、俺。いくら相手がイケメンだからって、こんなにドキドキすんのおかしいだろ。

「悪い。忘れてくれ」

 耳に当たる吐息が、熱い。無理だろこんなの、忘れられるわけがない。なんならちょっと俺の息子が反応してる。ほんと俺の身も心もどうなってんだよ!

「お、俺……っ、もう行くから……!」

 ──結局、逃げるようにその場を飛び出した俺は、部屋に戻った後二発抜いた。しかもリオンのことを思い出しながら。
 こんなのは、そう、治ったはずの触手の媚薬のせいだと、言い訳しておく。
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