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お約束の結婚
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「──俺は聖女マリアンヌと結婚する。式にはお前達も参列してくれよ」
ふわりとした薄桃色の髪の聖女様の肩を抱きながら、今、クラヴェル様は何と言っただろう。
結婚?聖女?参列?
混乱する俺を置いて、仲間達の声が飛ぶ。
「おめでとうございます!お二人とも美男美女ですからお似合いですね!」
にっこりと嬉しそうに祝いの言葉を告げる魔術師ニグル。
「へ~。ま、いーんじゃない?魔王もいなくなったし、めでたしめでたしってやつでさ」
どこか投げやりな声音のシーフ、ロージェ。ロージェは聖女様のことが好きだと公言していたから、内心では複雑な気持ちなのかもしれない。
それは、俺もそうだ。俺は、クラヴェル様と気持ちが通じ合っていると、思っていたから。
「リザリード、お前からは何もないのか?」
勇者様と聖女様の視線が、ぐずぐずになった心臓を射抜く。じくじくと痛む胸に従うまま、嫌だと叫んでしまいたい。俺との時間は何だったんだと縋り付いてしまいたい。
「ぉ……。おめでとう、ふたりとも。祝福する」
もちろん、そんなことは出来るはずもなかったが。
「ありがとう、みんな。王様が張り切っちゃって、式は明後日に挙げられる予定なの。御馳走もいっぱい出るみたいだから楽しんでね」
ふわりと微笑む聖女様は、とても幸せそうだ。俺も、クラヴェル様とそういうことをしていなかったら、ニグルのように純粋に祝えていただろうか。
「クラヴェル様。少し、二人だけで話したいことが」
湧き出る言葉を飲み込んで、どうにかそれだけ絞り出すのがやっとだった。
「悪いな。式の準備があるから無理だわ。ここでは話せないのか?」
ひゅ、と上手く飲み込めなかった息が音を立てる。仲間が全員揃っている酒場の一角で、俺が勇者様との不埒なことを話せると思っているんだろうか。……いや、思っていないからこそ、わざとそう言ってるんだろう。
所詮俺は、その程度の役割だったってことだ。
込み上がってくるものが、胃液なのか涙なのか分からない。灼けるように熱くなった喉を開いて、声をつくる。
「お、お慕いしていました、と。伝えたくて」
「ははっ、んだよそれ。照れるな。俺もお前が好きだよ。仲間としてな」
そこから、どうやって家に帰ったのか、よく覚えていない。
気が付けば、二人の結婚式の当日を迎えていた。
「あさ……」
小さな窓から射し込む光に目が眩む。そういえば、勇者様と一緒に朝を迎えることはなかったな。いつも数回出して終わって、部屋から去っていかれたから。
冷静に考えれば分かることだったのに、浮かれていて気付けなかった。俺は、聖女様の代わりのただの肉筒だったんだ。
こんなドロドロとした心情でも、式典に行かない訳にはいかない。変に真面目な性格が、こんなところで発揮してほしくはなかったな。
──そうして、慣れない式典服に身を包んで、婚礼衣装を纏った勇者様と聖女様を見上げる。
そこかしこから飛ぶ祝いの言葉や歓声が、どこか遠くの出来事のように思えた。
「(今ここで、俺は勇者様に抱かれたと叫んだらどうなるんだろうか。……きっと、気が触れた男の戯言だと思われるだろうな)」
「リザ~、なあ、この後オレの家に来ない?ここの酒お高いもんばっかだけど口に合わないんだよな」
「ロージェ……」
尖った耳の先が赤くなっているロージェは、既にほろ酔い状態だ。三つ編みにされた長い金髪が、身体に合わせてゆらゆらと揺れている。
大体の儀式は済んで、あとは自由に飲み食いする時間になったから、正直もうこの場から抜け出したい。
「今からでも、いいか」
「え。あは、リザも飲み直したかった?いーよ、行こ行こ。オレ達いなくても後はニグルがなんとかしてくれるっしょ」
主役に夢中の招待客達は、俺達がその場を後にしても気にしていないようだった。
ふわりとした薄桃色の髪の聖女様の肩を抱きながら、今、クラヴェル様は何と言っただろう。
結婚?聖女?参列?
混乱する俺を置いて、仲間達の声が飛ぶ。
「おめでとうございます!お二人とも美男美女ですからお似合いですね!」
にっこりと嬉しそうに祝いの言葉を告げる魔術師ニグル。
「へ~。ま、いーんじゃない?魔王もいなくなったし、めでたしめでたしってやつでさ」
どこか投げやりな声音のシーフ、ロージェ。ロージェは聖女様のことが好きだと公言していたから、内心では複雑な気持ちなのかもしれない。
それは、俺もそうだ。俺は、クラヴェル様と気持ちが通じ合っていると、思っていたから。
「リザリード、お前からは何もないのか?」
勇者様と聖女様の視線が、ぐずぐずになった心臓を射抜く。じくじくと痛む胸に従うまま、嫌だと叫んでしまいたい。俺との時間は何だったんだと縋り付いてしまいたい。
「ぉ……。おめでとう、ふたりとも。祝福する」
もちろん、そんなことは出来るはずもなかったが。
「ありがとう、みんな。王様が張り切っちゃって、式は明後日に挙げられる予定なの。御馳走もいっぱい出るみたいだから楽しんでね」
ふわりと微笑む聖女様は、とても幸せそうだ。俺も、クラヴェル様とそういうことをしていなかったら、ニグルのように純粋に祝えていただろうか。
「クラヴェル様。少し、二人だけで話したいことが」
湧き出る言葉を飲み込んで、どうにかそれだけ絞り出すのがやっとだった。
「悪いな。式の準備があるから無理だわ。ここでは話せないのか?」
ひゅ、と上手く飲み込めなかった息が音を立てる。仲間が全員揃っている酒場の一角で、俺が勇者様との不埒なことを話せると思っているんだろうか。……いや、思っていないからこそ、わざとそう言ってるんだろう。
所詮俺は、その程度の役割だったってことだ。
込み上がってくるものが、胃液なのか涙なのか分からない。灼けるように熱くなった喉を開いて、声をつくる。
「お、お慕いしていました、と。伝えたくて」
「ははっ、んだよそれ。照れるな。俺もお前が好きだよ。仲間としてな」
そこから、どうやって家に帰ったのか、よく覚えていない。
気が付けば、二人の結婚式の当日を迎えていた。
「あさ……」
小さな窓から射し込む光に目が眩む。そういえば、勇者様と一緒に朝を迎えることはなかったな。いつも数回出して終わって、部屋から去っていかれたから。
冷静に考えれば分かることだったのに、浮かれていて気付けなかった。俺は、聖女様の代わりのただの肉筒だったんだ。
こんなドロドロとした心情でも、式典に行かない訳にはいかない。変に真面目な性格が、こんなところで発揮してほしくはなかったな。
──そうして、慣れない式典服に身を包んで、婚礼衣装を纏った勇者様と聖女様を見上げる。
そこかしこから飛ぶ祝いの言葉や歓声が、どこか遠くの出来事のように思えた。
「(今ここで、俺は勇者様に抱かれたと叫んだらどうなるんだろうか。……きっと、気が触れた男の戯言だと思われるだろうな)」
「リザ~、なあ、この後オレの家に来ない?ここの酒お高いもんばっかだけど口に合わないんだよな」
「ロージェ……」
尖った耳の先が赤くなっているロージェは、既にほろ酔い状態だ。三つ編みにされた長い金髪が、身体に合わせてゆらゆらと揺れている。
大体の儀式は済んで、あとは自由に飲み食いする時間になったから、正直もうこの場から抜け出したい。
「今からでも、いいか」
「え。あは、リザも飲み直したかった?いーよ、行こ行こ。オレ達いなくても後はニグルがなんとかしてくれるっしょ」
主役に夢中の招待客達は、俺達がその場を後にしても気にしていないようだった。
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