賢者と踊り子とラッキースケベ

桜羽根ねね

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③踊り子は賢者の夢を見る

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 数日後、明朝。一度行った場所ならどこでも繋がる魔法の扉……通称どこにでもドアの前で、三人は揃って向かい合っていた。

「えー……っと? つまり、師匠とセイロン君は小さい頃に出会ってて? お互い初恋で? なのに師匠は魔法が使えなかった時のことを封じ込んでて? いやぁそれは師匠が悪いよ、うん。寧ろ逆によかったの? セイロン君苦労すると思うんだけど」
「リ、リゼさん。悪いのは僕も同じです。あまりディンブラさんを責めないでください」
「んー、確かにあの魔法に関してはそうかもだけど、そういう効果だと分かってやったわけじゃないんでしょ? そもそも使ったのは師匠だし。それに無事解呪出来たんだから水に流していいと思うよ。あっ、でも惚気たりいちゃついたりするのは僕が見てない所でやってね」
「……リゼ。この一週間でだいぶ言うようになったな……?」
「おかげさまで。色々ありましたからね。ほんっっっと、色々」

 どこか逞しくなって帰ってきたリゼに事のあらましを説明すると、なんともさばさばとした返答を投げられた。銀の翼で一体何があったのか気にならないわけではないが、リゼの様子から察するに詳しく話す気はないだろう。首元に見えたいくつもの鬱血痕には気づかないフリをして、ディンブラは表情を切り替える。

「魔法は無事に解呪出来たし、セイロンも踊り子としての仕事がある。リゼが帰ってくるまでは滞在してもらっていたが、ずっとここに繋ぎとめるわけにはいかないからな」
「……あわよくばずっと住んでいてほしい、って思ってませんか、師匠」
「ジト目で睨むな。……まあ、否定はせんが、セイロンにはセイロンの為すべきことがあるだろう。それを止める権利などない」
「……はい。色恋ばかりに現を抜かしていると、僕を踊り子として育ててくれた両親に顔向け出来ません。……けれど、その、……たまには、料理を作りに来ても、いいでしょうか……?」

 もじ、と通い妻のような発言をするセイロンは、リゼの目から見ても愛らしいものがあった。出来れば自分がいない時にそういうやり取りをしてほしいものだが。ここは我慢するところだろう。

「ああ。勿論。そんな口実がなくても、会いたい時に会いに来い。俺も、そうさせてもらう」
「っ……! ありがとうございます、ディンブラさん。それにリゼさんも……大変お世話になりました」

 形のいい頭をぺこりと下げ、セイロンはふわりと微笑んだ。「あ、ルクリリさんにも礼を」と続けようとした彼の言はディンブラによって一蹴されてしまったが。

 距離が縮まった二人を眺めながら、賢者の弟子は思考する。
 そういえば、あの時。ルクリリが言っていた『古代の魔法にかけられた仔羊』はセイロンのことだろうが、『自らに蓋をした愚鈍な狼』とはもしかしなくてもディンブラのことだったのだろうか。そうだとすれば、かの奇術師は一体どこまで全貌を見通していたのだろう。……まあ、考えても分かんないし、分かるとしたらきっとルクリリさんの弟子ぐらいかな、と深く考えることなく結論づける。余所の事情に首を突っ込める程の技量は、まだまだ備わっていないのだから。

「どうした、リゼ。考え事か?」
「えっ、な、何でもないです。あ、それよりセイロン君! 師匠に無理矢理変なことされそうになったらいつでも相談してね!」
「……お前は、本当に逞しくなったな……?」
「ふふ。その時はお願いしますね」
「セイロンまで悪ノリするな、全く……」

 ころころと楽しそうに笑ったセイロンは、そのままの笑顔ですっとお辞儀をした。纏っているのは簡素な服でも、纏う空気はシャンとした踊り子のそれで、どこからか鈴の音が聞こえた気がした。

「では、お達者で。ディンブラさん、リゼさん」

 そうして。優美な動きで、風のように距離を詰め、ディンブラの頬に小さなリップ音を鳴らした踊り子は。照れを隠すかのように扉の向こう側へと消えていった。

「…………くそ、反則だ……」
「だから、僕の目の前でいちゃつかないでほしいって……、ああうん、無理そうかなこれ……」

 惚ける賢者と呆ける賢者の弟子が一人の踊り子に振り回される日常が、ゆっくりと幕を開けた。



*****

閲覧ありがとうございました!

機会があれば、弟子くんがえっちな魔道具屋で散々な目に合わされる話も書きたいなと思っています。
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