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②賢者の弟子の憂鬱
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「……それで、お前は触媒のために承諾したのか」
「はい……」
「全く……、どうしてそう自分の首を絞めたがるんだ」
深く溜息を吐く師匠の前で、弟子は居心地が悪そうにもぞりと肩を揺らした。ほとぼりが冷めたであろうディンブラの所へと戻り、セイロンも交えてルクリリとの交換条件の話をしたのがつい先程の出来事だ。
ちなみにルクリリはというと、転移魔法を使って現れた弟子のジャワに強制連行されていった。懐かしい掛け合いを耳にしつつ、リゼの心は既に交換条件のことでいっぱいになっていたのだが。
「や、やはり僕がお止めするべきだったのでは……? リゼさんの顔色が土気色になってしまう程、ひどい所なのでしょう?」
「いや、決めたのは僕だし、薄々そんな予感はしてたから……、うん、大丈夫。セイロン君は気にせず解呪の薬が出来るのを待ってて」
「……その、銀の翼という所は、一体どのような場所なのですか? 魔法は使えませんが雑務などであれば僕が代わりに……」
「気持ちは嬉しいけど、多分それだとあの人が納得しないんだよね……。あ、魔法学校に通ってた頃の先輩で、師匠やルクリリさんと同期なんだけど。自分で言うのもあれなんだけど、その……僕にだいぶべったりしてくるというか、そんな人がいるんだ。とにかく向こうは僕を要望してるってこと……ほんっと自分で言っててムズ痒いものがあるけど!」
「簡単に言ってしまえば、リゼに懸想している奴が銀の翼にいるということだ」
訥々と話したリゼに被せるように、ディンブラが端的に纏めてしまう。面食らったように目を見開いたリゼは、慌てて何度も首を横に振った。
「ちょっと師匠!? それだけは言わないようにしてたのに……! 違うからねセイロン君! そもそもボクもあいつも男だし!」
「えっと……、僕は色恋に明るいわけではありませんが、性別の壁はあまり関係ないと思いますよ」
「うっ……真面目に返されると反応に困るんだけど……」
というかセイロン君の言葉で師匠の顔色が少し良くなったのがちょっとむかつく、と声には出せない文句を飲み込み、賢者の弟子は叫ぶ勢いで言い捨てた。
「とにかく! ボクは一週間働いてきますけど、その間に必ず呪いを解いてくださいね!」
「……ああ。お前のおかげで入手がネックだった触媒も手に入ったからな。帰ってくる頃には綺麗さっぱり解いておこう」
若干リゼの勢いに気圧されつつ、断言したディンブラの傍でセイロンもこくこく頷いた。
「リゼさんが留守の間は僕がしっかり家事をこなしますね」
こうして、ほぼなし崩しに決まった一週間という期間、弟子の不在が決定した。
師匠と巻き込まれた客人を二人きりにすることに不安がないわけではないが、これから先は、まず自分に降りかかるであろう受難を回避しなければならない。
自ら火に入る夏の虫となった弟子が、件の魔道具屋で散々な目に合わされるのは、また別の話である。
「はい……」
「全く……、どうしてそう自分の首を絞めたがるんだ」
深く溜息を吐く師匠の前で、弟子は居心地が悪そうにもぞりと肩を揺らした。ほとぼりが冷めたであろうディンブラの所へと戻り、セイロンも交えてルクリリとの交換条件の話をしたのがつい先程の出来事だ。
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「いや、決めたのは僕だし、薄々そんな予感はしてたから……、うん、大丈夫。セイロン君は気にせず解呪の薬が出来るのを待ってて」
「……その、銀の翼という所は、一体どのような場所なのですか? 魔法は使えませんが雑務などであれば僕が代わりに……」
「気持ちは嬉しいけど、多分それだとあの人が納得しないんだよね……。あ、魔法学校に通ってた頃の先輩で、師匠やルクリリさんと同期なんだけど。自分で言うのもあれなんだけど、その……僕にだいぶべったりしてくるというか、そんな人がいるんだ。とにかく向こうは僕を要望してるってこと……ほんっと自分で言っててムズ痒いものがあるけど!」
「簡単に言ってしまえば、リゼに懸想している奴が銀の翼にいるということだ」
訥々と話したリゼに被せるように、ディンブラが端的に纏めてしまう。面食らったように目を見開いたリゼは、慌てて何度も首を横に振った。
「ちょっと師匠!? それだけは言わないようにしてたのに……! 違うからねセイロン君! そもそもボクもあいつも男だし!」
「えっと……、僕は色恋に明るいわけではありませんが、性別の壁はあまり関係ないと思いますよ」
「うっ……真面目に返されると反応に困るんだけど……」
というかセイロン君の言葉で師匠の顔色が少し良くなったのがちょっとむかつく、と声には出せない文句を飲み込み、賢者の弟子は叫ぶ勢いで言い捨てた。
「とにかく! ボクは一週間働いてきますけど、その間に必ず呪いを解いてくださいね!」
「……ああ。お前のおかげで入手がネックだった触媒も手に入ったからな。帰ってくる頃には綺麗さっぱり解いておこう」
若干リゼの勢いに気圧されつつ、断言したディンブラの傍でセイロンもこくこく頷いた。
「リゼさんが留守の間は僕がしっかり家事をこなしますね」
こうして、ほぼなし崩しに決まった一週間という期間、弟子の不在が決定した。
師匠と巻き込まれた客人を二人きりにすることに不安がないわけではないが、これから先は、まず自分に降りかかるであろう受難を回避しなければならない。
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