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②賢者の弟子の憂鬱
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禁術ではないが、限りなくグレーに近い古代の魔法。原理は不明だが、対象となる二人の間で、唐突にスケベなことが起きてしまうという、厄介極まりないものだ。離れていようが関係なく起きるそれは、この数日間で幾度となく起きていた。
流石にそんな魔法を放置する賢者ではない。どうにか解呪する方法はないかと調べまくった結果、一つの魔法薬に行き着いた。だが、それを精製するためには様々なレア素材が必要だったのだ。
ダイヤモンドのごとき硬度を持つ氷竜の鱗、セイレーンの歌声が封じ込められているとされるブラックパール、酸素が薄い所にしか生息しない世界樹の花。なかにはカシワノミズタキやウニフラッシュというよく分からない物までリストアップされていた。賢者であるディンブラでも、それら全てを手に入れるとなるとどれだけの時間がかかるか分からない。
命の危険性がないとはいえ、なかなかに奇抜な魔法故に、早く解けるに越したことはないのだが、巻き込まれているはずのセイロンは鼻歌を歌いながら料理に勤しんでいる。何とも平和すぎる光景だ。
「……あのさ、セイロン君。いくら元の場所に戻れる扉があるといっても、ここに居続けなくてもいいんだよ? セイロン君にも都合があるだろうし……。あっ、厄介祓いとかそんなのじゃないから!」
「ふふ、分かっていますよ。リゼさんはお優しいんですね」
薬膳を混ぜ込んだ粥を手際良く作りながら、セイロンは小さく微笑んだ。そうですね……、としばし思考して、くつくつ音を立てる鍋をかき混ぜつつ口を開く。
「僕がここに居るのは、その方が都合がいいからです。別の場所にいても魔法の効果で引き寄せられましたから……。それなら最初から近くにいた方が、ディンブラさんの御手を煩わせることもないのではと思ったんです」
「それは……そうかもだけど、でも結局君が……その、アレな目に合わされるわけだよね? 理不尽だーって怒ってもいいんだよ?」
「まさか。驚きはしても怒ることはありませんよ」
確かに恥ずかしくはありますけど、と、はにかみながら告げるセイロンの表情は嘘を言っているようには見えなかった。今は踊り子衣装ではなく至って簡素な服を身につけているのだが、それでも清廉とした後光のようなものが見えた。彼の沸点はどれだけ高いところにあるのだろうか。
緑が映える薬膳粥の香りが漂う中、セイロンがふと思い出したかのように問いかける。
「そういえば、この魔法を解くには様々な触媒が必要になると聞いたのですが、それは本当ですか?」
「うん、そうだよ。結構なレア素材が多いって師匠が言ってたっけ……。時間をかければ集めることが出来るって話だけど、暫くは迷惑をかけちゃうと思うんだ」
「迷惑などとは思っていませんが、……僕にも何かお手伝い出来ることがあれば、遠慮なく言ってほしいです」
「ありがとうセイロン君。その時はよろしく頼むね」
申し訳なくて、迷惑をかけている客人に手伝わせる気など起きないが、意志の強い瞳で見つめられて当たり障りのない返答をしてしまった。どうも調子が狂っちゃうなあ、とこっそり苦笑しつつ、温かい湯気を昇らせる粥を持ったセイロンと共に執務室へ戻ることにした。
何にせよ、魔法が解けるまでの共同生活は案外悪くないかもしれないと思いながら。
流石にそんな魔法を放置する賢者ではない。どうにか解呪する方法はないかと調べまくった結果、一つの魔法薬に行き着いた。だが、それを精製するためには様々なレア素材が必要だったのだ。
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「……あのさ、セイロン君。いくら元の場所に戻れる扉があるといっても、ここに居続けなくてもいいんだよ? セイロン君にも都合があるだろうし……。あっ、厄介祓いとかそんなのじゃないから!」
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「まさか。驚きはしても怒ることはありませんよ」
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「そういえば、この魔法を解くには様々な触媒が必要になると聞いたのですが、それは本当ですか?」
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「迷惑などとは思っていませんが、……僕にも何かお手伝い出来ることがあれば、遠慮なく言ってほしいです」
「ありがとうセイロン君。その時はよろしく頼むね」
申し訳なくて、迷惑をかけている客人に手伝わせる気など起きないが、意志の強い瞳で見つめられて当たり障りのない返答をしてしまった。どうも調子が狂っちゃうなあ、とこっそり苦笑しつつ、温かい湯気を昇らせる粥を持ったセイロンと共に執務室へ戻ることにした。
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