賢者と踊り子とラッキースケベ

桜羽根ねね

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①二度目の逢瀬は賢者の魔法で

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 ──この呪文は、唱えればどんな時でも俺の所に辿り着くことが出来るものだよ。

 ──今はまだ、俺の魔法が下手だから……無理だけど。

 ──いつか、また。


 ──会えることを、信じてる。


*****


「これはまた、厄介な依頼が来たものだな……」

 古めかしい巻物を広げ、ディンブラは眉間の皺を深くして呟いた。
 ただでさえ最近碌に寝れてないというのに、今回舞い込んだ依頼はざっと目を通しただけでも徹夜必死なものだ。吐き出しそうになった溜息を飲み込んで巻物を元に戻すディンブラを見かね、魔法薬の調合をしていた弟子が心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫……じゃなさそうですけど、大丈夫ですか、師匠。ここ最近、こんな辺鄙な所まで賢者の知恵を頼りに依頼してくる人が多いですし……、休まないと倒れちゃいますよ」
「辺鄙、か」
「あ、すみません! 別に嫌だとか馬鹿にしたわけではなくて! あまり人知れていない場所にこうも立て続けに依頼が舞い込んでくるなんて珍しいなあって、それだけで!」
「……別に怒っているわけではない。それに大方、あの鳥頭な奇術師が俺のことを吹聴しているんだろう。あいつとて魔法使いには変わりないというのに、面倒事ばかり俺に押し付けてきて甚だ迷惑だ……!」

 そう文句を言いつつ、魔力が込められた羽ペンで書類を片付けていくディンブラの手腕は大したものである。
 羊皮紙に書かれた流麗な文字が踊り、小さな光る鳥の姿となって羽ばたいていく。天窓をすり抜けて飛び立っていったそれは、ディンブラが言うところの奇術師の元へと向かうのであろう。
 確か一ヶ月前程、花を撒き散らしながらやって来た時に、幾数……というより無数の仕事を頼んでいった覚えがあるからだ。

 本当にいつかぶっ倒れてもおかしくない彼を心配する弟子のリゼは、それこそまだ半人前であるから簡単な手伝いしか出来ない。魔法薬の調合もようやく失敗せずに出来るようになったところで、ディンブラのように別のことをする片手間で仕事を処理するようなことは到底無理な話だ。賢者の魔法が規格外というのもあるが、ひとえにディンブラの要領が良いのであろう。

「……とにかく、少しは寝てくださいよ。心配でこっちが倒れちゃいそうです」
「それは無理な話だな。今日中にこの書類を片付けて巻物の魔術を解読せねばならん」
「魔術の解読……?」
「ああ。ご丁寧にも西の魔法と東の魔法が入り組んでいるからな。魔術の式を紐解いて関連付け、新しく構築する必要があるから……終わるとしても明日の朝だろう」
「……それ、睡眠時間入ってますか」

 リゼの問いかけには答えず、ディンブラは黙々と解読を続ける。沈黙こそが肯定というものだが、こうなってしまったディンブラをどうこう出来るだけの知恵も魔力もない。
 せめて彼がぐっすり眠れるような即効性のある快眠薬でも作ってやろうかと思いながら、賢者の弟子も自らの作業へと手を伸ばした。
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