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策略トリップ★四面楚歌

6:蜘蛛の悪戯

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 ──サグリラム舞踏会後、閑散とした控え室にて。
 扇情的な衣装の上にローブを肩にかけただけの青錆を出迎えたのは、踊り子の衣装を着たままのルゥリカワであった。

「優勝おめでとう、青錆。……いや、ジーングゥジだったか? あんな踊りは初めて見たぞ」
「……何でまだ残っているんですか」
「む? 健闘を讃えるために決まっているだろう。なかなか控え室に戻ってこないから他の皆は帰ってしまったがな」

 準優勝の証である銀のメダルを首から下げ、ルゥリカワは朗々と語る。負けて悔しい気持ちはあれど、踊り子として、未知の舞への興味の方が強かった。青錆の彼の名前がジーングゥジだということを知ったのは表彰式の時だ。一段上に立つ彼の姿は、さっきまで激しく踊り狂っていたとは思えない程だらんとしていた。予想するまでもなく、オンオフの差がかなりあるようだ。

「私はまだまだ未熟なようだ。大見得を切って足元を掬われてしまったよ。……あの舞は西方に伝わるものなのか?」
「別に……、俺の独学ですよ」
「独学であれを!? すごいのだな、ジーングゥジは……。私には到底思いつかない動きばかりだった」
「それを言うなら貴方の舞だって、俺が真似出来ないものですよ。……それより、あー……ルゥリカワでしたっけ?」
「ふふ、名前を覚えてくれたのだな。嬉しいぞ」
「……貴方、警戒心をどこかに置き忘れてません? 俺がナニしたか覚えてないんですか?」
「え」

 途端、蘇るのはそう遠くない……どころか数時間前に起きたばかりの出来事。アレをナニされた感触が蘇り、反射的にジーングゥジから後ずさる。

「っ……! あ、あれについては、勿論許したわけではないっ!」
「ふ……、感度が良いのも大変ですね?」
「好きで良くなったわけでは……! 大半がナルーミのせいでっ……!」
「ナルーミ? 誰かは知りませんが、彼女から開発されてるんですか?」
「ちが……っ!」

 恋人ではあるが彼女ではない。そう否定したくてもナルーミとの関係を暴露するのは憚られた。
 言葉に詰まったルゥリカワを見て、何を思ったのかジーングゥジは手に持っていた布袋を差し出してきた。記憶違いでなければ、それは今回のサグリラム舞踏会の優勝賞品のはずである。

「まあ、からかいすぎたのは謝りますよ。これ、俺には必要ない物でしたから貴方に差し上げます」
「は? ……いや、受け取るわけには」
「あぁ、ついでにこれも。貴方、ずっと物欲しそうに見てましたもんね」
「ひゃ、っ!?」

 ほぼ無理矢理袋を押し付けられたかと思えば、衣装をずらされ、鈍い刺激が乳首に走った。
 先程までジーングゥジが着けていたニップルリングが、甘い痛みと共にしゃらりと音を鳴らす。

「な、にを……っ! 僕はこんな物いらないっ」
「嘘をつかれても困ります。乳首、衣装にぷっくり浮き出るくらい膨らんでいましたよ? だからこんなに簡単に挟めるんです」
「っ、私で遊ぶな……!」

 真面目に話していたかと思えばまたもやセクハラ紛いのことをしてくるジーングゥジに、ルゥリカワは思わず声を荒げる。折角殊勝な気持ちになっていたというのに、色々と台無しだ。剥き出しにされた胸を飾るそれを取ろうとするルゥリカワだったが、それよりも、早く。

「駄目だルゥリカワ!! ナルーミがいる身で神宮寺と乳繰り合うなど、この僕が許さんぞ!!」

 バンッ、と小気味よく扉が開かれる音と共に、乱入者がなだれ込んできた。小ぢんまりとした控え室に自分と似通った声が響き、ルゥリカワは信じられないとばかりに瞠目する。
 腰に手を当ててビシリと指を差してくる彼は、どう見ても一ヶ月前に突然現れ消え去っていった瑠璃川紫苑であった。異世界の住人である彼と、今後会うことはないだろうと思っていたのに、これは一体どういうことなのだろうか。混乱するルゥリカワよりも先に我に返ったのは、事態を傍観していたジーングゥジだった。

「貴方……ルゥリカワの双子の弟か何かですか?」
「む、まあそんなものだとでも思ってくれ。それにしても、この世界でも神宮寺は僕の後輩で良きライバルなのだな! そこは素直に嬉しいが、ルゥリカワに手を出すのはならんぞ!」
「この世界……? よく分かりませんが、反応が面白いのでプレゼントしてあげただけです。これ以上はしませんよ」

 ひらひらと手を振って悪気なくのたまうジーングゥジに、『こっちの神宮寺はえっちな悪戯が好きなのだな』と言いかけてぐっと喉奥に留める。自分がここに来たのはジーングゥジに説教をするためではない。ルゥリカワをナルーミの元へと連れていくのが目的なのである。

 ──成海との性行為を抜き合いっこで済ませた後、ナルーミの荷物の中にあった服を拝借した。下着を使うのは憚られたためノーパン状態ではあるが。
 そうして成海と共にルゥリカワの行方を追っていたら、サグリラム舞踏会という名の踊りの祭典があることを知り、そこに潜り込むことにした。やはりナルーミも同じ考えだったらしく、後ろの端の方で立ち見している姿を見つけることが出来たのだが、何やら様子がおかしい。ただでさえ柄の悪そうな顔が更に歪んでいたのだ。こっそりと近寄った二人がナルーミの視線の先を追ってみる。
 ちょうどそこからはステージ袖が覗け、間の悪いことにジーングゥジがルゥリカワにちょっかいをかけている場面が見えてしまっていた。ルゥリカワが慌てた様子で奥に捌けていくのを見届けた後、ふっ、と表情をなくしたナルーミは迷うことなく踵を返した。

 ……このままだと、すれ違ったままになってしまう。そう判断した成海と瑠璃川は、アイコンタクトを取って二手に別れることにした。成海はナルーミの後を追い、瑠璃川はルゥリカワの待ち伏せをする。そうしてルゥリカワは、忍び込んだ控え室近くの陰でこっそり聞き耳を立てていたわけなのだが。
 ジーングゥジとのやり取りに我慢ならずに突入して、今に至るわけである。

「……さあ、ルゥリカワ。ナルーミに会いにいくぞ!」
「…………少し、待ってくれ。どうしてお前がここに……、そもそもどうやって私の場所を……、ナルーミに会いにいく、とは、一体……」
「荷物はこれか? よし、善は急げだ! ナルーミは理玖が捕まえてくれているだろうから、さっさと向かうぞ!」
「っ、おい! 私はまだ着替えてな……っ、わっ、引っ張るなシオン!」

 むんずと荷物を引っ掴んで、もう片方の手でルゥリカワの手を取り走り出す瑠璃川は、既に目の前のことしか見えていないようだった。
 踊り子衣装のまま、ニップルリングを着けられたまま、ジーングゥジから渡された布袋片手に、ルゥリカワはただただ引っ張られることしか出来なかった。

「……嵐みたいな人でしたね」

 面白い人、と呟いて、残されたジーングゥジはのんびりと着替えに手をやった。
 脳内に浮かぶルゥリカワの羞恥に歪む顔に、ひっそりと三日月を浮かべながら。
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