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1.まずは訪問から

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 家族からは、いないものとして扱われてきた。それが俺にとっての『普通』。褒められることも、怒られることもない、煩わしいだけの存在、それが俺だ。

 それからまあ、紆余曲折あったわけだが、ひねくれることもなく就職までいけたのは今は亡き叔父のおかげだ。

 高卒で働き始めて、数年。今更ながら、俺はマナーというものに疎いと気がついた。最低限の知識はあるものの、いざという時やらかしたくはない。たとえ働いている場所がブラックと呼ばれるような場所で、上司からのパワハラが酷い場所だとしても。

 思い立ったが吉日、というやつで。

 社会人としての最低限のマナーを学ぶため、俺はとあるマナー教室に行くことにした。

 偶然ポストに入っていたチラシを見て、ここに行くしかないって思ったんだよな。

 予約をした二週間後、人通りの少ない路地をいくつも曲がって辿り着いたそこは、この場所には似つかわしくない程小綺麗なビルだった。エントランスはどこかのお高いホテルのようで、本当にここで合ってるのか不安になったくらいだ。 

「ようこそいらっしゃいました。マナー講座の受付はこちらになります」

 よかった、合ってたみたいだ。それこそホテルのようなカウンターの向こう側で、にこにこと微笑んでくる綺麗なお姉さん。分からないことは彼女に聞けばよさそうだ。

「えぇと、予約していた赤星ナツです」
「赤星様ですね。お待ちしておりました。名刺はお持ちですか?」
「あ、はい。持参するように、って書いてあったので……」
「ありがとうございます。その内一枚をこちらの名札に入れて首から下げてください」

 言われるがまま、ネックストラップがついた名札の中に名刺を入れる。首から下げると、受付のお姉さんからペンを渡された。

「それでは、こちらにお名前をお願いします」

 受付簿か何かだろう。俺の他にも結構名前が書かれている。さらさらと書き終わると、「赤星様の教室は地下1階、72番と書かれた部屋でございます」という案内をされた。地下でやるのって、なんか珍しいな。

「……あ、そうだ。すみません、先にお手洗いを借りてもいいですか」
「はい、構いませんよ。左手の突き当たりに向かわれてください」
「ありがとうございます」

 礼を言って向かったものの、運が悪いことに清掃中だった。ガタゴトという音と、機械の音のような人の声のような、そんな音が響いてきていた。仕方ない。別に我慢出来ない程でもないし、地下にもトイレはあるだろう。

 そうして俺は、すぐ近くにあったエレベーターで地下へと降りていった。
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