クラスまるごと転移したら、みんな魔族のお嫁さんになりました

桜羽根ねね

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第一部:婚姻編

⑤緑と藍のドルチェ

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「無理無理無理無理!僕は見る専なんだって!俺カプとか誰得!?大人しく見守ってるから、藍ちゃん後はよろしく!」
「よろしくされてもなぁ……。おれも別に三次元は興味ないんだけど」

 不意に聞こえてきたのは、腐男子を公言している緑くんと、多分隠れ腐男子な藍城くん。
 緑くんは見た目は優等生って感じなのに、話し出すとオタク話が止まらなくなることが多い。初めましての時は僕にも話しかけてくれたけど、マシンガンを浴びた気分だった。上手く話せない僕に気分を害することもなく、次の人に突撃していった彼はすごいと思う。

 そんな緑くんと真正面から付き合えるのは、藍城くんぐらいだと思ってる。口数が少ないけど、緑くんの熱量を受け止められるのはクラスの中で彼だけだ。

 魔王の魔法が効いているのか、僕は男同士ということに関しては否定的じゃないけど、彼等は違うらしい。まあ、誰かの嫁になるってこと自体は僕も抵抗しかないけれど。巻き付いている尻尾をくすぐったく感じながら彼等を眺めていると、不意に目の前を大量の黒いモノが過ぎった。

「わ!?」

 思わず声を出してしまったけど、隣の悪魔は起きる気配がない。ほっとしながら謎の黒い影の行き先を探すと、『それ』はすぐに見つかった。

「美味な芳香に誘われて来てみれば、こんなにも愛らしい人に巡り合えるとは。初めまして、我輩の伴侶よ」

 黒い影は、たくさんの蝙蝠だったようだ。それが集まって人の形になると、緑くんの手の甲にキスをしている魔族が現れた。肌の色が薄い紫で、赤い髪をオールバックにした美丈夫だ。黒いマントを羽織っていて、まるで吸血鬼のようというか……、十中八九吸血鬼だと思う。キスをされた緑くんはといえば、眼鏡の奥の瞳を一気に潤ませて顔を真っ赤に染め上げていた。

「う、あ、わあああ!!?まっ、待って、イケオジ吸血鬼!?僕と絡むのもったいないから!美味しくないから!!」
「我輩の言葉が信じられぬか。無理もないが、食してみれば分かろう」
「いや、そういう意味で美味しくないって言ったわけじゃ、っん!!」

 かぷりと指先を噛まれた緑くんは、そのままヘナヘナとへたりこんでしまった。

「あ……♡ぁ、う……♡♡にゃに、これぇ……♡♡♡たしゅけて、あいちゃ……♡♡」
「緑……、悪い、おれ、も……」
「藍ちゃん……?」

 吸血鬼というのは神出鬼没らしい。藍城くんの背後に、赤髪長髪の吸血鬼が密着していて……、首筋に噛み付いていた。それこそ、本の中で読んだことがある吸血行為そのものだ。

「ん、う……っ!」

 無表情がデフォルトな藍城くんの色っぽい吐息に、僕までドキドキしてしまう。

 「ぷはっ。ん~~~、濃厚で美味♡いくらでも飲めちゃいそ~♡」
「全く……、礼儀がなっていないぞ。いきなり首から吸うと負担を与えると言っただろう」
「親父は細かいんだよ。美味しくて気持ち良けりゃ何でもいーの♡君もそう思うだろ、お嫁ちゃん♡」
「う……。だ、れが、嫁だ……っ」
「え、うわ、もしかして理性残ってる?抗ってるのかわい~♡もっと飲みたくなっちゃ……」
「やめろ。伴侶に対して無理をさせるなと言っただろう?食べ過ぎるなどもっての他だ」
「え~……、親父頭固すぎなんだけど。仕方ないなぁ」

 どうやら親子らしい吸血鬼の息子の方は、納得していない顔で藍城くんの首を舐め始める。親に反抗しているのかと思ったけど、滴っていた血が薄くなって、噛み痕が綺麗になくなっていった。

「ひ、う、はな、せ……っ」
「んー、口では嫌がってるけど身体は溶けちゃってる感じかぁ。クソ真面目な親父がいなかったらまだまだ飲んであげたんだけどなぁ♡」
「っ、みど、り……!」
「わ」

 とろんと紅潮した顔のまま、吸血鬼の腕の中から逃げた藍城くんが緑くんの傍に駆け寄った。既にへろへろになっている彼を守るように抱き寄せた藍城くんは、まるで騎士みたいだ。

「うぅ、藍ちゃん、すごい絵になってたぁ……♡」 
「ばか、おれで妄想するな」
「ん、うぅ♡やばいって、これ、頭ん中ふわふわして、気持ちいいことばっか考えちゃう♡吸血やっば……♡」
「しっかりしろ。このまま、だとっ」

 足に力が入らなくなったのか、その場に蹲っている彼等は、ゆっくりと距離を詰める吸血鬼から逃げられない。二人を挟み込むようにしゃがんだ吸血鬼は、お揃いの赤い瞳を細めて顎を捉えた。

「怖がらずとも、骨の髄まで我輩が愛してやろう」
「い~っぱい気持ちいいことしよーね、お嫁ちゃん♡」

 片方は恭しく、片方は無邪気に重ねられた唇。あんなに男はごめんだと言っていた彼等が、キスに夢中になったのがすぐに分かった。緑くんは自分から抱き着いてねだり始めてるし、藍城くんは突き放すことなく目を瞑っていた。

 魂が惹かれ合う、ってのがどんなものなのか分からないけど、唇同士のキスでこんなにくったりと蕩けてしまうのは、催眠に近いような気がする。所詮僕ごときの力じゃ助けられないから、こうして見守ることしか出来ないけど。

 そう思っていたら、ぶわりと広がった黒い膜がドーム状になって彼等を覆い尽くしてしまった。衣擦れの音がしたかと思えば、喘ぎ声や水音が聞こえてきて……、中でナニが始まったのかはすぐに分かった。

 他の皆は、見て見ぬふりをしていたり、逆にガン見していたり、耳を塞いでいたりと様々だ。僕はといえば、首筋に当たる髪の毛がサラサラ擽ったくて、そっちに意識が向いてしまう。誰かに触れられるなんて慣れてないから、居心地はずっと悪いけど……、不思議と嫌じゃない。

「(……それにしてもこの悪魔、本当に時間になるまで眠り続けるのかな)」

 言葉にしなかった疑問は、そのまま僕の中で消えていった。
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